クローズアップ現代

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2017年5月24日(水)
「安全なのに売れない」~福島“風評被害“はいま~

「安全なのに売れない」~福島“風評被害“はいま~

原発事故から6年が過ぎた福島。かつては東北有数の米どころだったが、生産量は事故前の4分の3に減少。大きな要因のひとつとされるのが風評被害だ。福島県産の米はすべて放射性物質に関する検査を実施していて、2015年以降、国の基準値を超えるものは出ていない。それにも関わらず、全国平均と比べ安い価格での取引が固定化し、その多くが「業務用米」など、福島県産とわからない形で流通していることが明らかになってきた。なぜ風評被害は止まないのか、各地の現場を取材する。

出演者

  • 関谷直也さん (東京大学大学院 特任准教授)
  • 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)

「安全なのに売れない」 福島 新たな“風評被害”

毎年50億円をかけて、安全検査を続けてきた、福島の米。しかし、風評被害はなぜ終わらないのでしょうか。

かつて、日本を代表する米どころだった福島県。原発事故によって、そのブランド力は大きく損なわれました。事故後、福島県では、世界で最も厳しいとされる安全検査を実施。6年以上がたった今、国の基準値を超える放射性物質は一切出ていません。
しかし、それでも福島県産が風評被害にさらされる現実は続いています。ブランド米であるにもかかわらず、福島の名前を隠して売られている、米。将来を期待された福島の銘柄米が、食用ではなく、家畜の餌にされている実態もありました。

原発事故から6年たった今も続く風評被害。安全なのに売れない。その背景に迫ります。

鎌倉:消費者の安心と安全を守るため、福島県では原発事故の翌年から、県内で生産された米、すべての放射性物質に関する検査を続けています。その基準値は、米1キロ当たり100ベクレル。国際的な安全基準をもとに定められています。2015年以降は、この基準を超えるものは出ていません。さらに現在は、福島産のコメの99.9%が、基準値よりもはるかに低い、ND(not detected)、つまり検査機械では放射性物質が検出できないレベルとなっています。
では消費者はといいますと、福島県以外に住む9,500人に、福島県産の食材についてどう考えているのか尋ねたところ、避けているという人はおよそ2割、一方で、福島県産を選ぶ、あるいは産地を気にしないという人は8割で、こちら、年々増える傾向にあるんです。
ところが、こうした状況にもかかわらず、福島県産のコメの価格は、原発事故前の水準を下回る状況が続いているんです。

なぜ、消費者の意識は改善しているのに、風評被害が続いているのか。取材を進めると、風評被害の新たな実態が見えてきました。

「安全なのに売れない」 “風評被害”新たな実態

世界で最も厳しいと言われる安全検査を受け続ける、福島の米。毎年、1,000万袋を超える米の全量全袋検査を実施してきました。その結果、2015年以来、基準値を超えるものは一切出ていません。

「福島のおいしいお米いかがですか。」

安全性を確認した米を食べてもらおうと、県は全国各地で販売促進イベントを開催。国内にとどまらず、海外でも安全性をアピールしてきました。

「うまい。」

福島県農林水産部 農作物流通課 鈴木秀明課長
「今年は流通消費段階で、県産品のPR活動に23億円。(震災前は)非常に高い評価を受けていたのは間違いありませんので、今も品質は高い。それをアピールしていく。」

しかし、原発事故から6年が経過してもなお、生産現場では風評被害に苦しむ姿がありました。
福島市で農業を営む、大友伸夫さんです。20年前、勤めていた会社を辞め、米作りを始めました。肥料や栽培法にこだわった米は全て直接、消費者に届ける独自販売で売っていました。しかし、原発事故により、取り引きの7割を一気に失ってしまいます。販路を広げようと参加した県外のイベントでは、原発事故の影響の大きさを痛感したといいます。

農家 大友伸夫さん
「販売していたらお客さんが来た。『なんで福島のものを売りに来てるんだ東京に』って、文句言われた。これだけ福島っていうだけで反応するのかって。」

その後、安全検査が進み、大友さんも米の売値を下げるなど、努力を続けていますが、状況は改善していません。
黄色の部分は、原発事故前に作っていた水田。現在は緑。2分の1まで栽培を減らしています。

お客の喜ぶ声がやりがいという大友さんですが、顧客は以前の半分以下にとどまり、限界も感じています。

農家 大友伸夫さん
「一生懸命作っているのは、みんな一生懸命作っている。それを評価して買ってもらえるかというと、そうでもないんで。頑張っても結果が出ないのが震災以降ですから。」

なぜ、福島の米は安全性が証明されても売れないのか。現在、福島で生産される米は3割が県内で流通。残りの7割は首都圏など、県外の業者を通じて、全国の小売りに出回っています。
首都圏に次いで、福島県産米が大量に流通しているのが沖縄県です。米の生産が少ない沖縄では、原発事故の前、最も流通していたのが福島の米でした。その福島のコメを一手に引き受けている卸業者です。コメの品質管理を担当する、翁長和明さん。原発事故の直後、100件に及ぶ消費者からの問い合わせの対応に追われました。

沖縄食糧 品質管理部 翁長和明課長補佐
「福島の米を間違って買ってしまったんですけど大丈夫ですかっていうお問い合わせ。」

“被爆した米をなぜ販売しているのですか?”

“「セシウム」は、大丈夫ですか?孫が心配なんです。”

そこで、この会社では400万円をかけて検査機を購入し、独自に放射性物質を検査。結果をホームページに掲載し、情報発信に努めたところ、現在では消費者からの問い合わせはなくなったといいます。

沖縄食糧 品質管理部 翁長和明課長補佐
「我々も放射能に関してはど素人ですから、本当に大丈夫なのかというのは測定するまではわからなかったです。」

ところが安全だとされたにもかかわらず、風評被害を完全になくすことはできていません。小売り店との取り引きは大きく減少し、特に一般家庭向けの販売は、事故前の5分の1に減ったままです。その一方で、引き合いが増えているのが、業務用での取り引き。
業務用とは、コンビニのお握りやお弁当、レストランで使用される加工品など。福島県産米は、以前は値段が高い家庭向けが中心でしたが、多いものでは2割ほど価格が下落し、業務用としての扱いが増えています。もともと高い品質を誇る福島産の米が、今では安い値段に抑えられている現実がありました。さらに、福島の米については、流通の過程で産地そのものを隠すことも常態化しています。
福島県内で最も県産米の取り扱いが多い卸業者です。

米卸業者
「今の現状は安いから使っていただいている。やはり風評被害と放射能の関係もありましたので、最初の方は悔しい思いもありましたけど、ここ最近は仕方がないかなと。」

この業者で原発事故後、取り扱いが増えた商品があります。福島県と他県産の米を混ぜ合わせた、いわゆる「ブレンド米」です。
これは、福島県産の米と北海道産のコメを混ぜ合わせている作業。現在、この業者では、県外で販売する米のほとんどが、こうしたブレンド米だといいます。コメの産地表示に関する法律では、福島産のみ使用した単一原料米の場合県名の表記が必要ですが、ブレンドした複数原料米では、国内産という表記だけで流通できます。

米卸業者
「こっとは東北エリア向け。こっちが(福島)県内向け。」

これは原発事故後、大手コンビニチェーンで取り扱いが始まった商品のパッケージです。県内向けには福島産の表示がありますが、ほかの東北5県向けの商品には、国内産と表示されています。中身もパッケージの表記も、大手コンビニからの指定によるものだといいます。

米卸業者
「福島と名前を出すと売れ行きに苦労する。県外の小売りで勝負するのは、現状ほぼ不可能に近い。」

「安全なのに売れない」 “風評被害”新たな実態

ゲスト 関谷直也さん(東京大学大学院 特任准教授)

風評被害のメカニズムに詳しい関谷さん。福島県産に抵抗がないという人が増えている一方で、なぜ産地を隠さなければならないようなことが起きている?

関谷さん:震災直後は、福島原発事故が起きて、放射性物質が大量に飛散したわけですから、多くの人が不安に思うのは当然だったわけです。
しかしながら、今はある程度回復してきて、拒否している層というのは2割ぐらいしかいないんですけど、やはり流通業者の人たちの中で、そこにまだ多くの人が不安に思っているじゃないだろうかと。そこに認識のずれが、まだ残っているんだと思います。
(風評にとらわれているのは、むしろ、今は流通段階?)
流通の構造として、そうなってしまっているという状態です。

鎌倉:流通業者と消費者との認識のずれ。
それを裏付けるデータがあります。先ほどの調査で、2015年の時点で、福島県産の食材を積極的に避けている人の割合23.3%でした。一方で、流通業者に対して、どれくらいの人が拒否していると思いますかと聞いたところ、この23.3%という実態よりも多いと答えた割合が、小売り業者で7割、卸売業者で6割を占めました。つまり流通業者は、実態よりも多くの消費者が拒否していると思っていたんです。
さらに調査によりますと、流通の現場では「福島県産の食品は、地元の給食でも使われていないのに、県外の人が食べるわけがない」。これ、実際には、給食で使われていまして、その量はすでに震災前の水準まで回復しています。
それから「西日本の人の不安感が強い」。これも調査でそうした傾向は見られず、むしろ西日本の方が低かったことが分かっています。このように事実と異なる情報が、いまだに流通現場で広まっているんです。

これまで風評被害というと、消費者の受け止めの問題だと考えられていたが、必ずしもそうではないと?

関谷さん:6年が経過して、今、福島県内ではお米については全量全袋検査が行われていますし、野菜も含めてモニタリング、徹底して調査が行われているわけです。ですので直後とは、その安全性のレベルというか、担保されるレベルが全然違うわけですね。
にもかかわらず、やはり福島県産のものは怖いというふうに思われているんじゃないか、この思い込みから、なかなか直接、うちで食べるお米としては売られていない。安全で安心でおいしいことは、業者の人たちは分かっているので、業務用米に流れてしまいやすいという傾向があるんです。

そうすると、6年たった今、最大の問題点は?

関谷さん:まずは、きちんと状況が変化してきて、多くの人が不安感がなくなっているっていうこと、また、検査もちゃんと行われているということ、これら、状況が変化しているということを、きちんと理解をして、それで流通の現場に流すということが重要だと思います。

流通の現場に、福島県産という文字が出ないと。これは消費者側も選ぶことができなくなってしまうが?

関谷さん:福島県産米は今、もうほとんど流通しているんですね。ですので、私たちはコンビニエンスストアですとか、外食で、福島県産のお米を食べている状況です。けれども、ちゃんと意識して食べるようにならないと、福島県産のお米は大丈夫だっていうふうに、なかなか認識が変わらないわけですから、きちんとその意識して食べていけるような、そういうふうな流通の現場を作るということが重要だと思います。

厳しい状況が続く、福島県産の米。取材していきますと、風評被害によって、農家の生産意欲をそぎ、福島の農業の未来が奪われかねない事態になっていることも見えてきました。

“風評被害”新たな実態 福島・農業の未来は…

郡山市にある福島県農業総合センターです。ここでは、新品種の開発や農作物の育成についての研究が行われています。ここで15年の歳月をかけて開発されたのが、「天のつぶ」。

新たな福島県の主力品種に育てたいと、期待がかかっていました。しかし、本格的な栽培が始まった直後に震災と原発事故が発生。津波による塩害や、降り注いだ放射性物質の影響で計画は大打撃を受けました。

福島県農業総合センター 佐藤誠作物園芸部 部長
「震災以降はガクッと減ってしまいました。実際、作りたくても作れないというような状態が多かったということですね。」

そして今、風評被害によって、天のつぶは、さらに皮肉な状況に追い込まれています。
佐藤重久さんです。南相馬市で、50年間農業を営んできました。佐藤さんの田んぼでは、今年(2017年)天のつぶを植える予定です。しかし、その用途は本来とは異なるものでした。

農家 佐藤重久さん
「飼料米。奨励品種なのに、飼料米に回さなきゃなんない。もったいないけどな、飼料米なんて。」

飼料米とは、牛や豚など、家畜の餌として用いられる米です。

こうした飼料米作りは、国の政策で進められています。中国などで、牛肉の需要が高まり、家畜の飼料代が高騰。現在、そのほとんどを輸入に頼る日本は、飼料米作りの支援に力を入れているのです。風評被害で将来が懸念される中、佐藤さんは、飼料米への転用に踏み切ったといいます。

農家 佐藤重久さん
「原発の風評被害だな、一番は。飼料米に取り組まざるを得ない。」

飼料米の買い取り価格は、1キロ当たり、わずか30円。佐藤さんが金銭面で頼っているのは、飼料米作りに支払われる国からの交付金です。200万円ほどの交付金によって、一般的な米作りと変わらない収益は保証されますが、農家としてのやりがいは見いだせません。

農家 佐藤重久さん
「本来は農家だからちゃんとした主食用として、良いもの作って、高く売りたい。原発のせいにしたいけどな。前向き、前向きって今までやってきたから、今もそのように考えながらやっていかないとダメかなと思っている。」

米農家の将来へのやりがいまでも奪う風評被害。県の担当者も、抜本的な解決策を見いだせずにいます。

福島県農林水産部 水田畑作課 大波恒昭課長
「農家が経営の中で自由に選択できるような体制を、我々としては仕組んでいくことが大事。」

「人が主食としているのがエサ米にあがっているのはどうなんですか、県としては。」

福島県農林水産部 水田畑作課 大波恒昭課長
「それはやむを得ないんじゃないですかね。やむを得ないというか複雑というか。」

“風評被害”新たな実態 福島・農業の未来は…

農家の方々の意欲がそがれる、これは本当に福島の未来に影響を及ぼす大問題だと思うが?

関谷さん:全国的に米の消費が落ちて、やっぱり農業もいろんな形で転換していかなければならない時期ではあるんですよね。また、原子力災害に限らず、自然災害というのは、その地域の課題、その産業の課題っていうのを加速させる傾向があります。農業の場合は、やはり、その構造の転換を迫られているというのが実態なんだと思うんですね。ある意味、飼料用米を作らなければいけない、要は自分たち農家の方々が望んでないのに、そういうふうな、作る作物の転換を迫られていると、これがある意味、原子力災害の1つの側面だろうと思います。

廃炉には40年以上かかるとも言われている。いつまで、この風評被害が続くんだろうという不安をお持ちの方も多いと思うが、そういった難しさについては、どう思う?

関谷さん:BSEとか、鳥インフルエンザとか、今まで風評被害と言われていた問題は、安全だっていうふうな前提があれば、ある程度の時期を見れば回復してきたわけです。けど、福島原発事故の場合ですと、40年間以上、廃炉までかかるというふうに言われていますし、いつ収束するかも分からないわけです。
また今、風評被害で問題になっているのは、農業生産ができるようになった、回復している現場ですけど、まだ帰れない地域もありますし、これからやっと復興に向けて動き出した地域もあります。ある意味、福島県内で復興している地域と復興していない地域、回復と課題というのを両方見ていかなければいけない、この難しさが風評被害にはあると思います。

鎌倉:では、この問題を視聴者はどのように考えているでしょうか。番組に寄せられた声です。「安全が確認されているのなら進んで購入する」「近所にあれば福島米買います」。一方で、「安全と言われても信じられますか?放射能のことは分かっていないことが多い」という声も寄せられています。
もう1つ、こういったデータもご紹介します。福島産の米は99.9%が放射性物質が検出できないレベルのNDなんですが、そのことを知っている人は、実は2割にも満たないんです。8割以上が、その事実を知らないということなんです。

8割の人が福島県産に抵抗はないというデータの一方、福島の米の検査体制について正確なことを知っている人は2割に満たないというデータ。この2つのデータ、これはどういうふうに考えたらいい?

関谷さん:福島県内ですと、全量全袋検査を知っているのは9割ですし、あと、検査結果としてNDだということを知っているのも6割ぐらいです。ある意味、不安だからこそ、そういうことを知って、かつ、それを消費しようとしていろいろ考えてきたわけですよね。けど、それ以外の、福島県以外の地域の方々は、どちらかっていうと、何となく大丈夫じゃないかな、あまり詳しく認識しないまま、何となく消極的に受け入れてるっていうのが、今、現状だと思います。もっときちんと今の現状を知って、積極的にこの福島の現状を知るということが重要だと思います。

米だけじゃなく、ほかの農産物も今、ほとんどその基準を下回っている。そういった現状も正確に知る必要があると。
震災発生から6年余りたつが、いまだに残る風評被害に対して、今すべきことは?

関谷さん:6年間の変化を理解するということだと思います。検査体制はちゃんと整えましたし、あと検査結果として、ほとんどNDになりました。また、この6年間で農家の方々が努力をしてきているって、これが今の福島県内の現状を作っているわけです。
福島原発の事故というのは、回復している場所もあれば、回復していない場所もありますし、それをきちんと認識していくことって、これが一番重要なんだろうと思います。
(6年間の変化。この間にさまざまな努力があった。そのことを、被災地以外の地域も、しっかり目を向けて、認識するということですね。)
そうですね。

福島の米、安全性は証明されています。品質も以前と変わっていません。しかし、根強い風評のために、いまだに農家は苦しみ、しょうがないと諦めの声さえ出ているんです。この理不尽な状況を、1人でも多くの人が知ることが、今できる対策ではないかと思います。