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2017年1月11日(水)

あなたのペットは大丈夫!?~追跡 ペットビジネス・遺伝病の闇~

あなたのペットは大丈夫!?~追跡 ペットビジネス・遺伝病の闇~

いまや家族の一員、国内で推計2000万匹が飼育される犬や猫。その体に異変が起きている。遺伝性の病がかつてないほど顕在化しているのだ。全身の麻痺や失明、難聴…治療法がなく死に至るものも多い。 背景の1つとされるのが無理な繁殖だ。「かわいい」「めずらしい」ペットがメディアなどを通じて急激に人気を拡大。需要に応えようと短期間に繰り返し繁殖が行われ、病のリスクがある遺伝子が拡散したと見られている。 ペット消費社会のかげで広がる遺伝病の実態を追跡する。

出演者

  • 森達也さん (映画監督)
  • 春香クリスティーンさん (タレント)
  • 鎌倉千秋 (キャスター)

かわいいペットが突然… 広がる“病”の実態

ペットの飼い主たちの交流会です。
集まっていたのは、車いすが欠かせなくなった犬たち。

もともと異常は見られませんでしたが、飼っておよそ10年、まひが全身に広がる変性性脊髄症という病を次々に発症したのです。

飼い主
「そういう病気になるとは、全く思っていなかったので、かなりショックでしたね。」

飼い主
「みんなDM(変性性脊髄症)になっちゃった。」

この病気は、生まれつき遺伝子に異常があることで、体のまひを引き起こすと考えられています。
コーギーを無作為に調査したところ、その9割以上に遺伝子の異常があることが分かりました。

愛媛県に暮らす、野崎幸子さんです。
変性性脊髄症のコーギー、ハナコの介護を続けています。
ハナコは、2年前から後ろ足が震え始め、徐々に動かなくなりました。
まひは、少しずつ全身に広がります。

1年前、ハナコはまだ、前足を使って歩くことができました。
しかし今、前足にも障害が現れ、車いすを使って進むことも難しくなっています。

排せつもうまくできなくなり、野崎さんの手助けが必要です。
治療法はありません。
発症してからの寿命は3年余り。
最後は、まひが心肺に達します。

野崎幸子さん
「呼吸することもできなくなりますよ。
呼吸することができなくなると、厳しいですねっていう話で。
それを聞いたときは一番つらくて、苦しいだろうなと思って。
それがつらいですね。
今でもやっぱりつらいですね。」

ずんぐりした体形と愛らしい表情が特徴のコーギー。
日本で人気を集めたのは90年代後半、あるテレビCMがきっかけでした。
爆発的なブームが巻き起こり、コーギーは年間2万匹以上が繁殖されました。

変性性脊髄症の研究を行う、神志那弘明さんです。
ブームが起きた当時、遺伝子に異常があると知らないまま繁殖を繰り返したことで、病気が広がったと指摘します。

岐阜大学 応用生物科学部 神志那弘明准教授
「もろにメディアの影響を受けた結果、人気が出て数が増えた。
それによって起きる負の側面というか、たくさんの犬を繁殖に使った背景は、間違いなくこの病気が、今こんなに多い理由の1つであると思う。」

取材を進めると、業界では遺伝病のリスクが高いと知られていながら、繁殖されたペットもいることが分かってきました。

犬の保護活動を行っている髙橋幸子さんは、珍しい色のダックスフントを2匹引き取って飼育しています。

真っ白な毛が特徴で、「ダブルダップル」と呼ばれています。
ともに遺伝性の目の病気と診断され、1匹は完全に失明しています。

犬の保護活動を行う 髙橋幸子さん
「生まれて3か月くらいに目の玉が萎縮してなくなって、とろけてしまう。
完全に目はない状態です。」

ダックスフントは、茶色や黒を基調とした犬です。
しかし、消費者の好みに応じるように、さまざまなカラーが作られてきました。
中でも白は珍しく、ほかにはない目新しさが受け、一時、珍重されました。

ダックスフントの白は、突然変異で色素が作れなくなるマールという遺伝子を持つ犬に現れます。
しかし、マールは目や耳に障害を引き起こす確率が高く、繁殖は危ないことが分かっていました。

そのマールを持つ犬を掛け合わせたのが、ダブルダップルです。
病気になるリスクが高いにもかかわらず、珍しさを追い求めて繁殖が繰り返されたのです。

広がる犬・猫の“病” 追跡 ペットビジネスの闇

消費者のしこうを優先して行われていた危険な繁殖。
大手ペットショップの専属獣医師が取材に対し、販売側の問題を告発しました。

ブリーダーから主にショップ、飼い主へとペットが流通する日本。
獣医はこの大量消費の仕組みが、病気の動物を市場に出回りやすくしていると指摘します。

獣医の働くショップでは、病気のリスクがある動物でも、安く大量に仕入れて販売しているといいます。

大手ペットショップ 専属獣医師
「見た目で分かる異常、いわゆる奇形。
目にすることは度々あります。
『何か異常があれば治療して販売しなさい』と。」

遺伝病は、ほとんど治療することはできません。
また、病気の疑いがあるペットを十分に見極められないこともあるといいます。
獣医はショップに対して、動物の健康に配慮しないブリーダーからは仕入れをやめるべきだと訴えてきました。
しかし、意見が聞き入れられることは一切ないといいます。

大手ペットショップ 専属獣医師
「安く買って商品として売れれば、もうけられる。
どういう子でも仕入れてしまうスタイルをとっている限り、悪質ブリーダーも減らない。」

こうした中、一部のブリーダーは、動物の質よりも出荷数を増やすことに力を注ぎます。
四国で長年ブリーダーを続ける男性です。
消費者のニーズに合わせて大量生産する仕組みがある限り、近親交配などリスクの高い繁殖は止められないといいます。

ブリーダー
「交配ができなかったら、半年先まで子犬ができない状態になるから、無理やりにでも、いける子でいくかって。
(病気は)外見では分からないことが多い。
やっぱりお金じゃないですか。
何でも売れれば作るじゃないですか。
売れんもんは作らんけど、売れるものなら何でも作るじゃないですか。
買う人がおる以上。」

かわいいペットが突然… 広がる“病”の実態

ゲスト 森達也さん(映画監督)
ゲスト 春香クリスティーンさん(タレント)

森さんは、動物の命をテーマにしたドキュメンタリー作品を作っているが、改めて、この現状をどう見る?

森さん:僕もミニチュアダックス飼っているんですけど、写真が出ていますね。
これは、ちょっとかわいそうで、不細工な顔が映っちゃっているんですけど、もう少しかわいいんですけど。
(少し元気がなさそうだが?)
今、目が見えないんです。
7、8歳で失明しちゃいましたね。
子どもも1回産んだんだけど、やっぱりちゃんとした子どもが産めなくて、獣医に行った時に、恐らくは遺伝的な疾患があるだろうと。
ダップルではないんですけれども、その時は説教されましたね。
非常にミニチュアダックスが流行のころで、みんなが飼うから、要するにどんどん雑多なミニチュアダックスが売られていって、こういうことが頻繁に起きてしまうという話を聞いて、でも、飼ってしまったものは、もちろん取り返しつかないですからね。
今も元気ですよ、元気ですけれども、全く目が見えない状態で過ごしています。

視聴者の方より:「私のコーギーは遺伝病で寝たきりに。ペットビジネスに疑問を持つ」。
遺伝病というのは、先ほどに出てきた以外の人気の犬や猫にも数多く存在しているんです。

例えばチワワ、今一番人気のトイプードルに多いのは、失明に至る病気ということなんです。
また、しば犬にも割合は少ないものの、脳神経などに支障を来して、1歳余りで死に至る遺伝病があるんです。
それから、猫です。
今、最も人気があるスコティッシュフォールド。
特に、この折れ耳と呼ばれる、これが大人気なんですけれども、この折れ耳自体が骨の異常を持っているということでもあるわけなんです。
遺伝病のことを私たちは知らずにいるが?

春香さん:その背景を知るというのも大事ですし、日本の方もそうですけど、このように家族の一員として、すごく大切に育てている一面がある一方で、やはり飼う時に、きっかけが例えばCMだったり、はやりだったり、ブームだったりっていうのが1つありますよね。

問題の背景にあるのが、日本のペットの流通の仕組みです。
大量生産、大量消費を前提として生み出していて、中でも、メディアで特定の種類が取り上げられると、そこに人気が殺到します。
そうすると、偏った繁殖が繰り返される状況がある。
しかし、動物愛護法では、具体的な繁殖の規制はない状況なんです。

森さん:ピケティ以降、資本主義のひずみというのが、叫ばれるようになりましたけれども、実はもう、ずいぶん前から、随所に資本主義のひずみは現れていて、まず代表がメディアです。
つまり情報ですね。
みんなが喜ぶ情報ばかりが流通する。
結果としては、みんなが見たくない、知りたくない、そういった情報は消えてしまう。
例えば、前回もやった、ペットビジネスの闇。
殺処分の話。
あれは、みんなが見たいわけじゃないです。
でも、やっぱり知らなきゃいけないことなんですね。
そういったものはどんどん消えてしまう。
もう1つが、市場原理のひずみというか、言い換えれば、まさしくペットビジネスがそうです。
つまり、大量生産、大量消費ですから、消費者は少しでも安く買いたい。
作る側は、売る側は、少しでも安く多く売りたい。
普通の品物であれば、それはそれで成立するかもしれない。
でも命ですから、その構造が本当にいいのかどうかというところです。

こういった遺伝病について、本来、売る側からきちんと説明されるべきなんですけれども、されていない実態も数多くあります。
例えば、国民生活センターには去年(2016年)1年間、ペットの相談が1,300件余りありました。
内容は「病気になったら、同じようなものと交換しますよと言われて、納得できなかった」というものがあります。

森さん:それを言われた瞬間に怒らなきゃだめですよ。
もしかしたら怒らない人いるんでしょうね。
それを言われて、「ああ、そうですか」って納得して飼う人がきっといるんでしょう。

こういった状況がある中で今、売る側が事前に遺伝病のリスクを把握しようという取り組みも始まっているんです。

ペットの“病” どう減らす 始まった模索

どうすれば、遺伝病を減らすことができるのか。
全国に100店舗以上を展開する、国内最大規模のペットショップです。
この企業は、社内に遺伝子検査を行う研究所を設けました。
病気のリスクが高い繁殖を避けるため、仕入れの契約を結ぶブリーダーに検査を促しています。

ブリーダーから、繁殖に使う動物の口の粘膜を提出してもらいます。
そこから遺伝子を抽出し、検査機にかけて病気のリスクを判別します。
検査の結果は、直接ブリーダーに連絡。

「キャリア(遺伝子異常あり・発症なし)になります。」

遺伝病を生み出す確率が高い犬や猫を繁殖から外すよう伝えるのです。

大手ペットショップの研究所 筒井敏彦所長
「ブリーダーが健康なものを作るという責任はある。
我々ペットショップは健康なものを世の中に出していく義務がある。
両者が組んでいかないと(病気が減る)スピードは上がらない。」

しかし、検査にかかるコストがブリーダーに重くのしかかっています。
30年にわたって、ブリーダーを続ける男性です。
すでに、一部の親犬に遺伝子検査を導入しています。

ブリーダー
「PRA、目が異常あるか、ないか検査して、検査結果はクリア(異常なし)。
いいものを作っていきたいというか、いい犬を残していきたい。」

それでも経済的な理由から、すべての犬の検査を行うのは難しいといいます。
現在、男性は40匹ほどの犬を繁殖に使っています。

検査費用は1つの病気につき、1匹7,000円ほどかかります。
さらに遺伝子に異常がある犬が見つかった場合、繁殖に使わなければ、飼育費用だけがかさみ続けるのです。

ブリーダー
「結構いろいろと経費がかかる。
ますます(経営が)難しくなるんじゃないか。」

ペットに広がる“病” 問題解決のカギは?

ブリーダーにすべてを任せることで、根本的な解決につながるかというと、そうも見えないように思うが?

森さん:法規制など、対処療法も全く効果がないとは思わないけれど、でも、しょせんは、このメカニズムが変わらない限りは根本的な解決にならないし、代わりに遺伝子チェックをして、じゃあ、そこではじかれた犬はどうなっちゃうのか、また、そういった問題が出てきますよね。

大量生産、大量消費が前提となっている、今のペットの流通 作る側も、売り出す側も、買う側も、どう意識を高めていく必要があると思う?

春香さん:先ほど、費用の話がありましたけど、コストがかかる検査とか。
それだけ情報を提供するのは、一つ一つの情報はすごく大切だなって、それに価値があると思うんですよね。
それは、ペットを買う側の安心にもつながりますし、そういうのを求めてもいいんじゃないかなと。
そういう情報があるところは、やっぱり安心材料にもつながると思うので、買う側にとっても、それだけの値段の負担がかかってもいいんじゃないかなと思いますけどね。
(コストの部分でも、健康な子を仲間にするために、飼い主側がある程度、覚悟をしてもいいんじゃないかと?)
そういう認識があってもいいのかなって思います。

いろいろなひずみが生じているペットの大量生産、大量消費。
今、こうした在り方自体を見直そうという動きも出ています。

脱・大量生産 ペットの命と向き合う

ボーダーコリーのブリーダー、小根山さん夫妻です。
利益だけにとらわれず、犬の健康を最優先に繁殖を行うことを目指しています。
繁殖の数を極力減らし、リスクのある交配は決して行いません。
そのため、子犬を求める人は1年以上待つこともあるといいます。

生計は、子犬の繁殖ではなく、犬の雑貨の販売によって立てています。

子犬はペットショップなどを介さず、直接販売します。
飼育の環境やペットに対する考え方を聞き取るなど、飼い主と十分に話し合ってから引き渡します。

ブリーダー 小根山由里子さん
「奥さんや娘さん、必ずご家族が、みなさんが同意をしていないと、お渡しはできないので。」

子犬を希望する男性
「一生責任はありますので、そういった責任を全うするためにも、『かわいいから』『この犬がほしいから』という衝動買いはしたくない。」

さらに、犬を引き渡した後も、飼い主たちと交流を続けます。

小根山さんが飼い主に必ず送る、パピーノートと呼ばれる手帳です。
ワクチンの接種状況や、遺伝病のリスクなどを細かく記しています。
このノートをもとに、犬が健康に過ごせるよう生涯、手助けを続けるのです。

ブリーダー 小根山由里子さん
「久しぶり、元気にしてた?」

ブリーダー 小根山由里子さん
「人間の都合で生まれて、人間社会の中で生きていかなければいけないのが、ペットと呼ばれている子たちだと思うので、飼い主さんに渡して終わりでいいのか。
生涯に渡って犬を飼い主さんと一緒に、最期の最期まで面倒をみていく作業をブリーダーがやってもいいと私は思っています。」

大量生産・消費社会 ペットの命とどう向き合う

ブリーダーの取り組みはどう見た?

春香さん:こういう言い方はよくないかもしれないけれど、普通というか。
あるべき姿、そうであってほしいという健全な姿なのかなっていう。
(つまり、スイスでは、この取り組みはもう当たり前?)
ブリーダーさんが飼い主側をチェックすることもありますし、あとは、例えばブリーダーさん側から「ちょっとごめんなさい、飼える環境にないですよね?」っていうふうに言われることもあります。
でも、それだけやっぱりコミュニケーションを取ることが安心材料にもつながると思うんですよね。

例えば、面接があったりすると、飼う側からすると少しハードルが高いかな?と思ってしまうところもあるが、そういうものであってほしい?

春香さん:ブリーダーさんとのコミュニケーションもこれからも続きますし、逆に、その子について聞くこともできますから安心材料でもあるんじゃないですかね。
(それが、命をやり取りすることだという?)
預かるということだと思いますけど。

視聴者の方より:「遺伝病で苦しむペットや飼い主を増やさないために、私たち、飼う側の意識も変えなければいけないのではないでしょうか」

森さん:全くそのとおりですね。
メディアの市場原理に対して、僕たちがどう対抗するかって、一人一人がリテラシーを持つこと、つまり賢くなることですよね。
同じようにペットについても僕たちが知識を持つこと。

そして、何よりも「流行に過熱しない」。
要するに、みんなが飼うから私も飼う、みんなが生むから私も生む、それがとても強い国なんです。
だから、そこを流行に過熱するような意識から少し脱すれば、ペットに対しての見方も、実際の買い方も、つきあい方も、ずいぶん変わるんじゃないでしょうか。

確かに、流通の仕組みは出来上がってはいますけれども、飼い主側、買う側が少しずつ小さなアクション、情報を求めたり、ブームに走らないなどの動きから少しずつ変えていくことができるかもしれないですね。