クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.38962016年11月22日(火)放送
カネ余りなのに借りられない? ~“金融排除”知られざる実態~

カネ余りなのに借りられない? ~“金融排除”知られざる実態~

“金融排除” 知られざる実態

超低金利で、お金を借りやすい状況にもかかわらず、金融機関の融資に対して不満を抱く企業が今、6割にも上っています。

カネ余りなのに“金融排除”

日銀はマイナス金利政策など、異次元の金融緩和を行って、消費や企業の投資を活発化させようとしていますが、経済の好循環にはつながっていないと指摘されています。

なぜ、お金の流れが目詰まりを起こしているのか、原因の1つとして金融庁が挙げたのが、金融機関による金融排除です。
本来、金融機関は企業の将来性を見越して、お金を貸して経済を活性化していくことが役割ですが、過剰なまでにリスクを取ることを恐れて、積極的な融資ができずに金融排除を引き起こしているんです。
金融排除で企業はどんな事態に直面しているのか、取材しました。

“金融排除” 知られざる実態

焼き鳥の移動型店舗をチェーン展開する会社です。
年間売り上げは、およそ60億円。
全国39か所に営業拠点を持っています。
スーパーの店先での移動販売という独自のビジネスモデルと、秘伝のたれの人気で事業を拡大してきました。

会社の資金繰りを担当している、伊藤嘉洋さんです。
会社は、材料を海外からの輸入に頼っているため、ここ数年の為替の変動で収益が不安定になっていました。

やきとり竜鳳 総務部長 伊藤嘉洋さん
「こちらが土地利用計画案です。」

為替の影響を防ごうと計画したのが、国内での加工場の建設。
そのためには、およそ2億円の資金を銀行から借りる必要がありました。

やきとり竜鳳 総務部長 伊藤嘉洋さん
「建物を建てるとか、(予定地に)既存の建物があって、内装工事とか、とにかく資金が必要。
(銀行から)調達可能か見極めないと、大きな投資はできない。」

これまで会社は、本業そのものは黒字だったため、9つの銀行から融資をさせてほしいと持ちかけられ、取り引きをしていました。

ところが、今回の新しい設備投資について、応じてくれる銀行はありませんでした。
すでに不動産の担保枠いっぱいの融資を行っているというのが、その理由でした。
資金が必要な時に限って融資をしてくれない銀行の姿勢に、伊藤さんは不信感を募らせています。

やきとり竜鳳 総務部長 伊藤嘉洋さん
「“都合が悪くなったので貸せません”ということが結構あった。
こうしてほしいという対応や要望に、あわせてもらえなかったのが実情。」

こうした事例を、金融庁は新たに「日本型金融排除」だと定義。
問題視しています。
事業に将来性があったり、地域の雇用を支えたりする企業に対し、不動産などの担保にこだわり過ぎるあまり、金融機関が十分な融資を行っていないというのです。

金融庁のアンケート調査によると、企業の6割がこうした融資の姿勢に不満を持っていました。
かつてない金融緩和で金が余っているといわれる中金融機関は、なぜ融資に踏み切れないのか。

ある地方銀行で働く、現役の銀行員が匿名での取材に応じました。

融資先には見せられないという資料。
金融排除の背景には、企業を格付けする仕組みの存在があると明かしました。

融資業務担当 現役銀行員
「『財務格付け』をするシステム。
銀行共通で使うシステムがある。」

この銀行では、ほかの金融機関と共通の格付けシステムを使い、過去の財務内容などを基に、企業のランクを導き出しているといいます。

一時的に業績が悪化し、格付けが低くなった企業には、不動産など担保に見合う分だけの融資しか行いません。
格付けに依存するあまり、たとえ事業に将来性があっても、追加での融資を行うのは難しいといいます。

融資業務担当 現役銀行員
「融資をする際に“あの企業は何格だ?”と。
“1格”か“2格”か“3格”かと。
“6格か、う〜ん微妙”だと、そういう判断基準になる。
その企業の将来を見た貸し方というのは、リスクをとるとり方は、出来づらいのが本音。」

金融機関が、こうした格付けに縛られるようになった背景には過去の金融行政があります。

90年代以降、不良債権処理を巡る金融不安が日本中を覆いました。
国は、金融機関が二度と不良債権問題を起こさないよう、厳格な融資の判断基準を求めたのです。
そこで生み出されたのが、格付けシステムでした。
リスクを取っても貸せという今回の金融庁の大きな方針転換に戸惑いを感じるといいます。

融資業務担当 現役銀行員
「(金融庁は)いかに銀行の不良資産を作り出さないかに注力していた。
いきなり取り組みが十分でないと言われても、なかなか意識を180度変えるのは難しい。」

金融排除で問われているのは融資の姿勢だけではありません。
金融機関が事業を深く知ろうとしない傾向も問題視されています。

建物の鉄骨を製造する、従業員20人の中小企業です。

社長の榊原清孝さんです。
リーマンショックの危機を乗り越え、現在、業績は回復しています。
会社には、数年前に建設会社で設計を学んだ息子が入社。
事業を引き継ぎたいと考えています。
そのため、老朽化した機械などを更新する、設備投資を検討し始めました。
しかし、金融機関の担当者は工場の中を見学するなど、現場を訪れることはほとんどありません。
会社の将来像を踏まえて融資の相談をしたいと思っていますが、できていないのが実情です。

榊原建工 社長 榊原清孝さん
「実際にヘルメットをかぶって工場内を見たり、従業員に声をかけたり、そういうことをした銀行の方は、いままでなかった。
理解をしてもらいたいと強く感じる。」

カネ余りなのに “金融排除”なぜ?

ゲスト 村本孜さん(成城大学名誉教授)
ゲスト 幸田真音さん(作家)

インタビューにもあったが、テレビドラマに出てくる銀行員のように実際に現場を回って、「一緒に頑張りましょう」と声をかけてくれるような銀行員は本当はいない?

村本さん:たくさんいらっしゃいます。
銀行の方、大変頑張っていらっしゃいますね。
ただ、昔に比べて銀行の方はとても忙しい。
昔は1つの支店に30人、40人いたんですけど、今はもう半分ぐらいしかいませんから、外で仕事をする人も本当に少なくなってしまった。
そうすると、やることは多くなったけれども、企業を回る、現場を見る力というか、そういう機会が大変少なくなってきてしまったのではないかと思います。

今のVTRを見ると、お金は余っているが、貸し出し先に困っているというような印象 実情はどうなっている?

村本さん:お金は本当にたくさん日本にはありますけれども、必要な所に回っているかという考え方でいくと、やや問題があります。
というのは、先ほど格付けというのが出てきました。
これは、なぜやっているかと言うと、企業にお金を貸した時に返ってこないと困りますから、それぞれの段階に応じて、引き当てというお金を積んでいるということが必要なわけです。

これが不良債権を生み出さないもとになっているわけですけれども、どうしても上のゾーンのリスクが少なくていい所にお金を貸すという、つまり優良企業にお金がどんどん出てしまって、それで競争が起こります。
金利ダンピングと言われるぐらいに、本当に競争している。
ところが、そのちょっと下の4、5、6あたりですけれども、ここは少しリスクがあるんですが、ひと手間かければ良くなる、リスク対応すれば、とても良くなるというゾーンです。
ここが、なかなかお金が回らない。
ここで金融排除という言葉が使われるようになったんですね。
そうすると、ここはどうすればいいかと考えると、ひと手間かけるというのは、この財務ですから、そういう決算とか、担保とかというものでないものをここでやろう。
そうすると、過度に担保保証に依存しないということが出てくるんですけれども、ひと手間かけて、非財務といいますけれども、その企業の持っている成長力、あるいは特許で表せるような技術力などを、きちっと評価できれば、もう少しお金が出ていくのではないか、目詰まりが溶けるのではないかという、今、金融排除という言葉で言われているゾーンで、ここでお金を出しましょうということです。

幸田さんは長年、金融機関の取材を重ねているが、このマイナス金利時代の貸し渋りともいえる金融排除をどう思う?

幸田さん:金融排除、心情的にはとてもよく分かるんですが、本当に銀行側としては、さぞ戸惑いがあるだろうと思います。
今まで、不良債権の処理のころから健全経営ということを言われて、ところが今、マイナス金利で環境がころっと変わりました。
とはいえ、預金者からお金は手数料はすごく取れない、利ざやを本当に薄い利ざやでしか融資ができない。
そうすると、もう健全化のためにはバランスシートを縮小していくしかないというのが現状だと思います。

マイナス金利政策の中で、リスクを取ってでも「貸せ」と言われていることには、どんな意味がある?

幸田さん:「貸せ」というのは、私は、ちょっと厳しい言い方ですけど、政策のために銀行に責任転嫁をしているような気がします。
確かに銀行の中では、いわゆるビジネスマッチングということで、相手にはそのままでは貸せないけれども、例えば、ほかの企業とジョイントベンチャーを作らせたり、あるいはアジアとか海外の企業と組ませたりして、貸し出せるような努力、融資とアイデアを一緒に持っていくということはしています。
だから、そういうことができる人材を育てるということ、それがやっぱりキーではないかと思います。

この日本社会を覆う金融排除の問題をどうやって脱却していったらいいのか、設備投資を受けられずに困っていた、あの移動販売の焼き鳥チェーンですが、その後、大きな進展があったようです。

脱却できるか “金融排除”

金融排除でお金を借りたくても借りられなかった、焼き鳥の移動販売会社です。
新たな設備投資のための2億円の融資を得ることができ、材料の加工場の建設に乗り出しています。

会社に融資を行ったのは、栃木県を拠点とする地方銀行です。
13年前、この銀行は不良債権問題で経営破綻。
地元経済にも大きな傷痕を残しました。
経営再建したものの、地元企業を成長させなければ生き残っていけない。
そうした危機感から、3年前に独自の専門チームを立ち上げ、不動産の担保に依存しない融資を進めることにしました。

「いままで目を向けていなかった売掛債権や商品、そういったところを有効活用できないかと。」

このチームでは、融資の相談が持ち込まれると企業の決算の数字からは見えてこない商品の状態や、特許の有無などを詳しく調べます。
それらがどのくらいの価値を持つのか、専門の機関に評価を依頼し、担保にとらわれない新たな融資を行っていこうというのです。

銀行が焼き鳥の移動販売会社に融資をする決め手になったのが、倉庫に保管されている焼き鳥の材料です。

やきとり竜鳳 総務部長 伊藤嘉洋さん
「海外から輸入をすると、不測の事態もあるから。」

各地に保管された食材の価値は、およそ2億円に上ることが分かりました。
この評価をもとに設備投資への融資を行ったのです。

やきとり竜鳳 社長 鈴木亮裕さん
「銀行のてこ入れ、後押しがあって、初めて進んでこられた。
これからも後押し、応援をもらいながら頑張っていく。」

さらに銀行が新たな評価の対象として注目しているのが、知的財産です。

農作物の肥料を製造している企業です。
3年前に、特許技術を使って特殊な土を開発しました。
作物の収量が増え、生育も早まるといいます。
外部の機関によって、国内外での市場で大きな需要が見込めることが分かりました。

関東農産 社長 郡司祐一さん
「評価をいただいて、われわれではわからなかったことが数値化されて。
ありがたい話です、力強いですよ。」

銀行は、この評価を根拠に、海外進出などを後押しする融資を検討し始めています。

担保ではなく、企業の将来性を見る新たな融資。
これまでに90件。
総額は130億円に上っています。

チームの責任者 足利銀行
融資第一部 狩野浩二さん
「入り口は手間もコストもかかるが、それ以上のものがある。
そこでつきあいを長くしていったほうが、地方銀行のビジネスモデルとしていい。」

金融機関の中には、地域を巻き込んで、新たな融資の枠組みを作る動きもあります。

石川県七尾市に拠点を置く信用金庫です。
取り引き先である地元企業は廃業などにより、ピーク時から3割以上減少しています。

そこで2年前から始めたのが、創業支援プロジェクト。
新しく事業を始める人に、積極的に融資を行うものです。

「(メニューは)ソースカツ丼と、しょうゆカツ丼と、あと塩バターカツ丼。
(名物として)“石川・七尾”を発信したい。」

融資を検討する場には、金融機関だけでなく、市役所や商工会議所の職員も参加します。

これまで担保を持たない個人が事業を始めようとしても、金融機関はほとんど融資を行ってきませんでした。
しかし、関係機関が一体となり、補助金の申請や取り引き先の紹介などサポートすることで融資につなげるようにしたのです。

この仕組みを利用し、今年(2016年)9月に創業したレストランです。
経営者には担保がなかったものの、東京の有名レストランで修業を積んだ実績を評価。
融資に踏み切りました。

「うまくお客様を取り込めているか。」

レストラン経営者 平田明珠さん
「ランチタイムが想定していたより大勢のお客様がいらして。」

これまでに創業した会社は、2年間で46社。
将来の収益の基盤につながると、金融機関は期待しています。

のと共栄信用金庫 理事長 大林重治さん
「小口、零畑、小規模に特化していく(信用金庫が)生き残る大きな意味がそこにある。」

脱却できるか “金融排除”

この足利銀行のような取り組み、うまく回れば1つの理想的な形とも思うが、本当に全国に広がっていく?

村本さん:足利銀行は一時、国有化されたということもあって、真剣にどうやったらいいか、地元に還元できるかを考えたんですね。
そういうことを考えている金融機関は、まだたくさんあります。
その時、私は重要だなと思っているのは、企業をきちっと見る時に、財務情報と非財務情報をトータルで見る。
それを見るために今、経済産業省が「ローカルベンチマーク」というのを作って、あらゆる企業がそれを健康診断のように「今すぐ受けてください」と。
そうすると、みんなが同じ情報を持って企業を育てるとか、あるいは、いざという時に助けるということができるようになると思いますので、そういうものもぜひ活用して、みんなが頑張っていけるような体制を作ってほしいと思っています。

不動産担保を基準に今までやってきた銀行員が、将来性を見て判断していく銀行員に育っていくのかも重要だが?

幸田さん:実は今、融資だの金融排除だのと言っているところじゃないというぐらいに、経済や金融に大きな転換期が来ているんです。
例えば、「フィンテック」や「AI」といったインターネットの進化で、個人と個人を結ぶ、いわゆる「ソーシャルレンディング」とか、「クラウドファウンディング」とか、そういった中で、それが新しいものにどうやって適合して、チャンスを見つけて、リスクテイクできる人材をどうやって育てていくか、これはもう銀行経営の肝だと思います。

銀行、金融が転換点に来ている中、銀行や銀行員にこれから何が求められる?

村本さん:金融機関というのは、やはり地域に責任を持つ、あるいはそれを前提で責任を持つという意味で、志をぜひ持っていただきたい。
そして、企業に寄り添うという姿勢をぜひ出してほしい。
それを怠けてしまうということが時々ありますので、それを注意して、ぜひ頑張ってほしいと思っています。
(特に地方にとっては、こういう銀行が存在してほしいが?)
伴走という言い方をしますけれども、ガイドランナーという感じで、企業と共に歩くという姿勢が大事じゃないでしょうか。

幸田さんは「発想力」が求められるということだが?

幸田さん:例えば、なぜ貸せないかと言うと、回収力が日本の金融は弱いんですよね。
その辺のところとか、信用が低い所には例えば、高い金利を取るような、そういった制度設計をするとか、そういった発想の転換と言いましょうか、さっきも申し上げた新しい環境に適応するような発想の柔軟性を求められると思います。
あと「金融力」と書きましたのは、金融って、実はものすごく可能性があるんですよ。
すべての基本ですから、今まで融資がどうだってことにとらわれないで、日本の金融力を高めていくと、お金が回って、そして、それが地方の経済の活性化にもつながります。
いろんな夢が実現して、元気になれるような、本当の金融力を日本はつけていきたいなと思います。
(これから若い世代、こういう人たちが育っていく?)
ぜひ、育ってほしいと思います。

村本さん:ぜひトライしてほしいのは、例えばクラウドファウンディングのような新しい手法があります。
そういうのも銀行員はトライする価値のあるものだと思っています。

今だからこそ、挑戦してほしいですね。

今回のグラレコ

番組の内容を、「スケッチ・ノーティング」という会議などの内容をリアルタイムで可視化する手法を活かしてグラフィックにしたものです。

質問
コーナー

Q1

金融庁は今後、「金融排除」に対してどのように取り組むつもりなのでしょうか。

金融庁は、今後、「実態調査」を行うとしています。銀行や企業に対して、 アンケートや面談などを行い、来年秋頃までには、結果を公表する見通しです。 ただ、個別ケースにおいて、「金融排除」と判断するのは、容易ではないと金融庁の担当者も認めていて、 問題の全体像が明らかになるかどうか注目されます。 また、金融庁自身も、ここ数年、「金融検査マニュアル」に基づいて、金融機関の個別の資産を細かく査定する方針を改め、 企業の将来性を重視した融資を行っているかを評価する新たな指標を導入するなど、変革を進めています。 人口減少やマイナス金利で経営環境が厳しさを増す中、金融機関が、格付中位のミドルリスク層の企業に、 目利き力を高めて、相応の金利をもらうビジネスモデルに変わっていけるか、 金融機関も金融行政も問われています。
Q2

「金融排除」を行わない銀行に変わるには何が必要なのでしょうか?

専門家によると、「銀行内の収益性」と、「現場の評価体系」の2点が指摘されています。事業の将来性を見て融資する作業は、手間やコストがかかり、融資が焦げ付くリスクも高まります。そうした中で、通常より高めの金利や手数料をもらうなどして、他の業務に比べて収益面で見劣りしないビジネスモデルを設計できるかが、一過性の取り組みとして終わるか、銀行の収益の柱にできるかの分かれ目になります。また、各支店の担当者にとって、将来性を見た融資が人事評価されなければ、結局、目先の融資額などノルマに追われていまいます。小手先ではなく、10年、20年先を見据えた、継続的な変革が、金融機関には求められています。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス