クローズアップ現代

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No.38052016年5月16日(月)放送
オモロいこと はじめまっせ~“笑いの総合商社”の新展開~

オモロいこと はじめまっせ~“笑いの総合商社”の新展開~

“商機は地方に” お笑いビジネス最前線

吉本興業が今、次の時代をにらんで目を付けているのが地方なんですわ。
先月、開催した沖縄国際映画祭。
吉本の人気芸人を一目見ようと、4日間で35万人が訪れました。

そのさなか、6,000人の芸能人を率いる吉本興業のトップが取材に応じました。
ダウンタウンも見いだした大﨑洋社長。
東京に依存し続けるといずれ頭打ちになると、そろばんをはじいています。

吉本興業 大﨑洋社長
「日本の高度経済成長とともに放送局さんの広告事業収入が上がって、そこに出入り下請けしていた吉本として、つられて右肩上がりできました。
これからの21世紀、それでいけるならば、こんな楽しい、楽なことないんですけど。
組織、タレント、社員、ひとりひとりのノウハウとか経験がすごく偏ってしまう。
テレビだけに頼っているとバランスが悪くなるんじゃないかな。」

吉本は今、47都道府県すべてに芸人を移住させ、東京に頼らない新たなお笑いビジネスを模索しています。

今、吉本が最も手応えを感じているのが沖縄です。
去年(2015年)、那覇市の中心部に新たな劇場まで作りました。

「誠意を持って、謝ります。
本当にごめんなサンバ。」

「謝る気ないだろ。」

「ちんすこう、股間に挟んで親不孝。」

題して、「おきなわ新喜劇」。
東京でも活躍する沖縄出身のゴリさんが、企画から演出まで手がけています。
沖縄の笑いには、デリケートなテーマも盛り込めるといいます。

ガレッジセール ゴリさん
「笑ってもらいたいっていうのが一番ですけど、やっぱりその中に沖縄を、ちょっとディープに好きになってもらう。」

この日の新喜劇では、アメリカ兵と自衛官にふんした芸人が、普天間基地問題をギャグにしました。

「お会計お願いします。」

「600円ずつになりますね。」

「はーい。」

「あっ、しまった。
俺、今、ドルしか持ってないや。
ごめん、俺の分まで払っといて。」

「やだよ。」

「頼むよ。
600円ぐらい、いいじゃないかよ。
ほら、普天間返還するから。」

「安っ!600円で普天間。
えっ?600円で返還?」

「いいのか。
じゃあ、仲直りだ。」

「そうだな。
日米安全…。」

「保障条約。」

出演者は沖縄出身。
吉本興業は、沖縄には東京にはない可能性があると見込んでいます。

ガレッジセール ゴリさん
「観光のひとつになって、お客さんも常にいつも入ってくれて、沖縄新喜劇の作家になったら、裏方になったら、演者になったら、こんなにお客さんにも喜んでもらえて、満足できる給料もいただけてってなったら、夢があるじゃないですか。」

全国に移住した、名付けて「住みます芸人」は103人。
地元のテレビやラジオ局に食い込み、187のレギュラー番組に出演。

さらに各地の自治体で延べ600の街おこしの事業を展開しています。

東京では鳴かず飛ばずだった芸人も、地方でチャンスをつかみ始めているようですわ。

5年前、福島に移住したお笑いコンビ、ぺんぎんナッツです。

コンビを組んだのは10年前。
東京ではさっぱり売れず、芸人としての月収はライブ1回分の出演料、500円だけでした。

ぺんぎんナッツ いなのこうすけさん
「公園で寝てました。ずっと公園で、寝袋と下に段ボール敷いて。
段ボール敷くとだいぶあったかいんで、それでずっと寝てましたね。」

一番最初に得た仕事は、震災直後に作られた、小さなラジオ局のパーソナリティー。
縁もゆかりもない土地で奮闘する2人の知名度は、少しずつ上がっていきました。

ぺんぎんナッツ いなのこうすけさん
「はやっている芸人教えて、小学校で。」

子ども
「トレンディエンジェル。」

子ども
「俺はぺんぎんナッツ。」

ぺんぎんナッツ いなのこうすけさん
「かっけー!『俺はぺんぎんナッツ』。
いただきました。」

地元に根ざした活動は、震災後、癒やしを求める人々にも浸透していきました。

この日、2人が営業に訪れたのは、原発事故で町民全員が避難を強いられている浪江町。

浪江町まちづくり整備課 菅野孝明さん
「そこに笑顔が生まれていくようなことで、何か助けていただくというか、一緒にやっていただけたら。」

ぺんぎんナッツ いなのこうすけさん
「僕らお祭り芸人として。」

浪江町まちづくり整備課 菅野孝明さん
「人をつなぐ部分を、お笑いというか、笑いでつないでいくという部分が期待できるんじゃないかなと。」

移住から5年。
今、収入は大幅アップ。
月10万円程度になりました。
東京では味わえなかった、芸人としての充実感を初めて覚えています。

「それではいつものいっちゃいましょう、いきますよ。
頑張っちゃっても、いいんじゃないの。」

格闘ゲームにまつわるネタ。
“もしキャラクターが、地元の民芸品だったら”。

「赤べこVS.三春駒。」

「あら、これおもしろそうな対決じゃないの。」

「ブーン!ブーン!
おっと、赤べこ首を振り出したぞ。」

「なるほど、これで攻撃だ。」

「おっと、三春駒、ずっとにらみをきかせている。
そして赤べこ、より一層首を振ったぞ。
…決着つかず!」

「何やってんだよ!解決せえよ。」

「動かないなら決着つかないでしょ。」

「確かに民芸品だから動かないのは分かるけど、そこをなんとか。
あのさ、格闘ゲームだから。
勝敗決めてもらわないと。」

「勝敗決めるの?」

笑いの腕はどうですやろ。
せやけど、会社にとってはどうやら思惑どおりのようですわ。

吉本興業 大﨑洋社長
「彼らはすごく地元愛とか強くて、芸人ですから、売れていないけども芸人ですから、ボルテージも高いんですよね。
彼らのボルテージに引っ張られて、ついついつられて元気を出したり、一歩踏み出したりというような役目ができればいいかな。」

狙いは地方 その思惑は

ゲスト:平田オリザさん(劇作家・演出家)

ゲスト:西岡研介さん(ノンフィクションライター)

この吉本興業のプロジェクト、背景にはどのような戦略がある?

西岡さん:戦略というより、もともとこの「住みます芸人」というのは、東日本大震災の前の年の年末に、大﨑社長がテレビでニュースを見てて、若者の雇用が伸びないというのと、地方の経済が疲弊していると。
それで自分が省みて、自分たちは、要するにお笑いは、なんの貢献もできてへんなと。
だから何かお笑いとしてお笑いの企業としてエンターテインメント企業として何かできることはないかなというので、そしたらまあ東京や大阪に売れてない芸人いっぱいおるやないかと。
その子らに、とりあえずいっぺん47都道府県住んでもらおうかと。

それについては、小さいけれどもその芸人をマネージメントするその社員を、47都道府県から47人という小さい雇用ですけれども、生み出そうやないかっていうふうな形でスタートした。
(ニュースを見て始まった?)
そういうことですね。
(かなり投資もしているのではないかと思うが?)
いや、投資はあまりそんなに。
芸人さんを住まわすだけなので。
ただ、社員さんは契約社員で、大体2億円ぐらいの人件費がかかると見込まれていたんですけれども、実は吉本興業さんが思ってたよりも地方の自治体のほうの反応がよくて、単年度黒字になっているというふうな形で聞いてますけども。

今、大都市への一極集中が進む中で、時代の空気を捉えているようにも見えるが?

平田さん:そうですね。
待機児童問題なんかに象徴されるように人口の集中の弊害が出てきていて、地方は一方、とにかく若い人に帰ってきてもらいたい。
あるいはIターンとか。
ところが私自身も大学の教員を16年やってますけど、大学の学生で、地方は雇用がないから帰らないって学生は、実はもうあんまりいないんですね。
今、雇用は実はあって、若者人口減っちゃってますから、人手不足なぐらいなんです。
でも帰らない。

学生たちが口をそろえて言うのは、「地元はつまらない」と言うんですね。
だから東京や大阪で刺激的な生活をしてしまったら、もう帰れないというわけです。
僕はよく、地方自治体の方に申し上げるのは、じゃあ、つまらなくない街を作ればいいじゃないかと。
おもしろい街を、刺激のある街を作ればいいじゃないか。
広い目での文化的な政策が必要になってきますね。
文化って、もちろん私たちがやっている演劇とか、音楽とか芸術もそうなんですが、それは例えば食であったり、環境保護運動であったり。

お笑いっていうのも非常に日本が誇る文化ですから、そこに目をつけたというのはやっぱり、吉本さんは先見の明があるなというところですよね。

短期的な利益を考えれば、地方で事業を展開するというのはそんなに易しいことではないと思うが?

そうですね。
ただ、それは例えば工場とかを大規模なものを誘致すれば雇用は増えるんですけれども、でもそれ、ずーっと何十年とやってきたけど、結局、若者戻ってこなかったじゃないですか。
そうすると、文化みたいなものというのは短期的には利益は上がらないんだけれども未来への投資ですから、そこにおもしろい若者が戻ってきたり、この街に居続けてもいいなと思ってくれる、そういう投資のほうが重要になってくる。
もう1つは、西岡さんがおっしゃられたように、実はそんなに大した投資ではない。
要するに工場を作るほどの何十億という投資ではなくて、これ、ソフトへの投資なんで。
建物を作るわけじゃないから、だめだったら撤退すればいい。
そういう意味では非常に機動性のある投資なので、ビジネスとしてもしっかり成り立ってるんだと思います。

さて、地方戦略を推し進める吉本興業ですが、今、その目は海外にまで向けられています。

次の一手 “住みますアジア”

国内の「住みます芸人」の活躍に、味を占めたんやろか。
去年(2015年)吉本興業は、プロジェクトをアジアの6つの国と地域に拡大させると、ぶち上げました。
選ばれたのは、一発逆転を狙う芸人たち、16人。将来のアジア戦略の足がかりとして、現地で自力で人気者になってもらおうというのが吉本の思惑です。

ねらいはアジア アラフォー芸人の奮闘

でも、ことばも文化も違う国で、ほんまに笑いが取れるんやろか?
このプロジェクトのおかげで、大変な目に遭っている芸人がいます。

タイに送り込まれた、ぼんちきよしさんです。
各地を自転車で回りながら、ネタを探しています。

10年前に比べてGDP・国内総生産が2倍に増えたタイ。
それに伴いエンターテインメントの市場も急成長しています。


タイの人気コメディアン ホイさん
「最近は芸人のオーディションもよくやっている。
若い人もどんどん増えているよ。」

ぼんちさんはこのチャンスをものにできるのか。
生活に必要な最低限の給料はもらっていますが、会社からは売れるまで帰ってくるなと言われています。

ぼんちさんは、実は22年のキャリアを誇るベテランです。
歴史ある漫才コンテストで受賞経験もあります。

しかし、タイの人の笑いのツボがどこにあるのか分からず、悪戦苦闘を続けています。

ぼんちきよしさん
「40歳でこんなんしているおっさん、おもろいなって思うし、『おまえ頑張れよ』って、自分でやりながら悲しいと思ったら悲しいかもしれないけど、やりながら『おまえ頑張れよ』って。
『これで売れへんかったらアホやで』っていう。」

タイに来て1年。
この日、訪れた市場で新しいネタのヒントが見つかりました。

「1個、タダであげるよ。」

ぼんちきよしさん
「優しいですね。」

スイカをもう1つ押しつけてくる、ちょっとありがた迷惑なタイ人を、身ぶり手ぶりで表現してはどうかと考えたのです。

ぼんちきよしさん
「1個買って袋の中にスイカ入れてくれたら、もう1個おまけにあげるっていう、そういう優しさとか、『2個もいらんねん』って突っ込みそうになるところとか、そういった人たちの、ふれあいながら形態模写でネタができたらいいかなと。」

自分のネタは受けるのか。
ぼんちさんは、この日、目標にしているコメディアンに意見を聞くことにしました。

日本でいえば明石家さんまさん級。
国民的コメディアン、ウドム・テーパーニットさんです。

去年5万人を動員した単独ライブ。

タイの国民的コメディアン ウドム・テーパーニットさん
「女性に攻めて欲しいのなら、まず男性が誘わなきゃいけませんよね。

こう座ればいいじゃんか。」

日本人には分かりにくいギャグですが、タイの人には大受けです。

ぼんちさんは、市場で思いついたネタをウドムさんに披露しました。

ぼんちきよしさん
「タイ人です。
スイカ売り。」

ぼんちさんが演じた、ありがた迷惑なスイカ売り。

「ウドムさんはハンサムだから、タダであげます。」

スイカだけでなく、着ている服まであげてしまうというオチ。

しかし、ウドムさんは、外国人がタイで受けるには別の方法が必要だと指摘しました。

タイの国民的コメディアン ウドム・テーパーニットさん
「あなたは日本人でしょ、日本人としてタイで笑いをとろうとしてるんですよね。
だとしたら、タイ人のものまねよりも、日本人が感じるギャップを面白がってほしい。」

ぼんちさんは、タイで人気者になれるんやろか?

ぼんちきよしさん
「この1年間、ずっともやもやしとったんですよ、ずっともやもやしとって。

いける!売れるぞ!」

吉本のアジア進出は、うまくいくんやろか。

オモロいこと はじめまっせ “笑いの総合商社”の新展開

ぼんちさんはウドムさんからのアドバイスを生かして、今、タイ人に突っ込む日本人というキャラで受けているそうです。これはすごい戦略?

西岡さん:さっきも言ったように、戦略というよりも、基本的に彼らは「思いつき」、勘で基本的に動いていく集団というか組織なので、吉本のDNAとしては、要は、おもしろいことはなんぼでもチャレンジせいと。
そのかわり損はするなというような発想なので。
だから、先ほどの芸人さんが言われてたんですけど、「成功するまで帰ってくるな」と。
そういうような形でどんどんどんどん触手を伸ばしていくというふうな形で、戦略は後からついてくるんやと思うんですね。

吉本のアジア進出は今、始まったばかりだが、どう見る?

平田さん:私自身も海外で20年ぐらい仕事してきたんですけど、最初のうちはね、私もどうすれば受けるかとか、どうすれば受け入れられるかって一生懸命考えたんですけど、結局ね、ヨーロッパのアーティストと同じことをやってたんでは、そんなライバルはいくらでもいるので、だめなんですね。
結局、私に期待されているのは、日本人としてヨーロッパをどう見てるかって、その目が期待されてて、これね、タイなんかまさにそうで、国が豊かになってきますと、自分の国のアイデンティティーを探し始めますね。

そうすると必ずそこに、「外タレ枠」っていうね。
イーデス・ハンソンさんから今の厚切りジェイソンさんに至るまで、必ずあるわけですよ、ニーズが。
ここもさすが吉本で、西岡さんがおっしゃられるように、勘でうまく新しいビジネスチャンスを見つけたんじゃないかなと思いますけどね。

経済成長も頭打ち、人々も内向きになってイノベーションが生まれにくいというのが、今の日本の現状だと思うが、この時代に吉本の取り組みからどのようなヒントを見いだせる?

平田さん:もう人口減少社会で、解決策は2つしかないと思うんです。
やっぱり海外に新しいビジネスチャンスを見つける。
それが1つ。
もう1つは国内の、まだある豊かな資源を中で小さく回していく。
要するにパイは増えないんですけども、パイを増やすことを考えるんじゃなくて、あるものをちゃんと回していく。

僕はこれを「ソフトの地産地消」と呼んできたんですけども、地域の人たちが自分たちで楽しんで、そこにちょっとでも付加価値を加えると、よそからも人が来てくれる。
沖縄の吉本の成功なんかまさにそうだと思うんですけど、まず自分たちで楽しむ。
そこはですね、そんなに大きな投資がいらないんで、まさにやってみようという吉本精神と合致したんだと思うんですね。

西岡さん:やっぱり彼らは要するに「吉本興業」という、興業というのは「興す業」で、新しいものにチャレンジしていくということと、もう1つは「興行を打つ」。
いわゆる「住みます芸人」にしろアジアにしろ、要はタレントさんが実は、芸人さんがそれ一つ一つ小屋になってるんで、劇場になってるんだという発想で、でも、「失敗したら撤退してもええやないか」と、そういうような発想も込み込みであると思うんですよね。
そういう身軽さが強さだと思います。

(自治体も笑いで元気になっていくといいですね。)
平田さん:元気のある自治体というのは職員も住民も元気になりますね。
笑いは元気を生み出す。
そこがポイントかなと思います。

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