クローズアップ現代

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No.34602014年1月29日(水)放送
グローバル企業の責任はどこに ~海外で高まる人権リスク~

グローバル企業の責任はどこに
~海外で高まる人権リスク~

安さの裏で過酷な労働 問われるグローバル企業

世界経済の中心地ニューヨーク。
去年11月、国際NGOがバングラデシュの工場労働者の代表を招き、過酷な労働を黙認するグローバル企業の責任を追及しました。

バングラデシュ 労働者代表
「聞いてください、私たち工場労働者に公正な補償金が支払われるべきです。」

これは、国際NGOが劣悪な労働実態を告発するために制作したビデオです。

NGO制作のビデオ ナレーション
「バングラデシュの輸出品の大半は欧州向けです。」

靴などに使われる皮を加工する作業。
素足には薬品がつき、皮膚は、ただれています。

NGO制作のビデオ ナレーション
「労働者は長時間働いても、1日50セントしかもらえません。」

国際NGOは途上国の人々の人権を守らない企業を糾弾し、不買運動を呼びかけるなど厳しい対応を迫っています。

NGO制作のビデオ 女性
「労働者の血にまみれた服なんてほしくない。」

今、国際NGOが最も問題があると見ている国の1つが、ミャンマーです。
グローバル企業が、より安い労働力を求め押し寄せています。
ロンドンに本部がある国際NGOの現地責任者ボビー・サンタマリアさんです。
去年から、ミャンマーの労働者の実態について調査を進めています。

国際NGO 東南アジア責任者 ボビー・サンタマリアさん
「衣料業界の企業が得る利益は、工場の低コストによるものです。
危険な労働や極めて低い賃金がまかり通っています。」

このNGOの協力を得て入手した、靴工場の内部映像です。
商品は日本にも出荷されています。
やすりをかける作業では、手袋も支給されず、手にけがをする事故も多発しています。
ローラーの中に髪を巻き込まれて大けがをする事故も発生しました。
この映像を提供した労働者です。
ミャンマーでは労働法が十分に整備されておらず、工場側も労働者の声を無視しているといいます。

靴工場 労働者
「政府はこれまで、一度も会社の検査をしていません。」

靴工場 労働者
「会社は頼んでも、何の改善もしてくれませんでした。」

NGOが去年まとめた報告書です。
タイトルは「現代の奴隷労働」。
“企業が労働者を奴隷のように扱って、強欲に利益を追求している”と非難しています。

ヤンゴンにある縫製工場を取材しました。
33人の若い女性たちが働いていました。
全員が工場で寝泊まりし、休みは、月に2日だけです。
食事も工場の中で済ませます。
月の労働時間は330時間以上に上り、国際的な基準のおよそ2倍です。

女性
「家には月に1回だけ帰れます。
出来高制なのでがんばって働くしかないんです。」

NGOが特に問題視しているのが、15歳未満の児童労働です。
靴工場で14歳のときから働く少女に話を聞くことができました。
少女が働く工場では、作っている靴の8割を日本に輸出しています。

少女
「こんにちは。」

少女は父親を失ってから家計を支えるために学校を辞め、工場で働き始めました。
年齢を偽るため、他人の証明書を借りたといいます。

少女
「私たちの工場には13歳の子供もいます。
小さい子が20人くらいいるんです。
本来なら勉強しなければならない年頃ですが、生活のため働かなければならないんです。」

NGOは、グローバル企業がこうした実態を黙認し、低コストを追求していると非難しています。

国際NGO 東南アジア責任者 ボビー・サンタマリアさん
「企業に圧力をかけ、労働者の状況を変えなければ、いつまでも安い労働力として利用されるだけなのです。」

国連も動き始めています。
先月開かれたビジネスと人権に関する国際会議。
途上国の労働者の人権を守るための指導原則を策定し、今、グローバル企業への働きかけを強めています。


国連 作業部会 アレクサンドラ・グアケッタ議長
「企業はすぐにでも取り組みを始めるべきです。
今後、企業は人権についての責任をより問われることになります。」

グローバル企業の責任は 海外で高まる人権リスク

ゲスト足達英一郎さん(日本総研理事)

●人権問題や企業責任 この認識が途上国で広がる背景は?

東西冷戦が終わりまして、世界が1つのある意味でマーケットになったわけですね。
生産も国境を越えてどこでもできるようになった。
その結果、本当にコスト、コストということが至上命題になりまして、立場の弱い人、あるいは立場の弱い企業に、そのしわ寄せがずっと蓄積しているということだと思うんですね。
もう1つは、出稼ぎ労働の皆さんであるとか、途上国のそういう工場労働者の皆さんが、最初は、今までになかったような収入源が、これによって得られるということで、喜ばれるわけですけれども、今、こういう携帯電話とか、インターネットが、これだけ普及した時代ですから、例えば隣の工場の待遇はどうなのと、労働安全衛生はどうなのと、あるいは隣の国でもし働いたらどうなのと、最後はこの製品が使われている先進国の労働者は一体同じ仕事をして、いくらもらってるのっていうような情報が、瞬く間に共有されてしまうわけですね。
そうすると、それが人権意識の高まり、われわれは、不平等だということにつながってくるという構図だと思いますね。

●進出企業はどこまで人権問題をたどり掘り起こすべきか?

そうですね、手がかりとしては、この分野、国際的な規格、あるいは基準という、先ほどもビデオの中に出ていましたけども、そういうものがもうすでに作られているのは事実なんですね。
ですから今、欧米の企業はそれをベースにして、例えば皮革業界であれば、川上から川下までの業界のスタンダードを作っていくという形で動いていますね。
(部品やその原材料、かなり深くまでたどる必要も?)
おっしゃるとおりですね。
ですから今、紛争鉱物という言い方をしますけども、アフリカのコンゴ民主共和国、ならびにその周辺国で取れる鉱物、4つの鉱物なんですけども、これを使ってるか使ってないかを、アメリカの証券取引委員会に報告しなければいけないと、こういう制度すら動き始めていまして、それによって、武装勢力の資金源を断つということなんですけども、この問題もビジネスと、人権の大きな今、テーマにまでなっているということですね。

●海外の人権リスク 日本企業の対策は?

やはり、例えば海外進出をする、あるいはサプライチェーンを結んでいったときに、思いもよらなかった事柄に出くわすということがあるんだろうと思います。
例えば一例を挙げると、例えばいろんな宗教を信じてらっしゃる方がいらっしゃる。
そういう人たちに、お祈りの場所をどうするのかとか、そんなことも、人権の尊重の要素の1つとして、問われるようになってきているという側面もありますね。

●人権問題への対応 理解から始めないといけない企業も多い?

そうですね。
ですから今、日本企業はまず問題は何なんだということを理解して、そして欧米企業のスタンダードを参照しながら、どこまで、どれだけのコストをかけて取り組めばいいのかというところを模索しているというのが事実ではないでしょうか。

海外の人権リスク 対応迫られる日本企業

世界中のメーカーが生産拠点を置く国の1つカンボジアです。
低賃金の若い労働力が、海外ブランドの服や靴の生産を支えています。
この日、日本の大手スポーツ用品メーカー、アシックスの監査チームが委託先の工場を訪れました。
自社の求める労働環境の基準を満たしているか確認し、もし満たしていない場合は契約の見直しも検討するという厳しいものです。
チェックするのは照明や換気、火災への対策など独自に定めた240項目です。

従業員の労働実態も勤務記録をもとに労務担当者から徹底的に聞き取りを行います。

アシックス 監査担当 徳谷裕之さん
「これ、あれ?」

調べてみると残業の許可を1日ごとではなく、1か月まとめて出していることが分かりました。

アシックス 監査担当 徳谷裕之さん
「1か月に1回にしてしまうと、1日ごとの確認ができていない。」

残業が常態化し、過重労働を生むおそれがあると指摘しました。

アシックス 監査担当 徳谷裕之さん
「人事ファイル、代表的な物を見せてください。」

中でも念入りに確認したのは、児童労働についてです。
工場側は、従業員の年齢を出生証明や戸籍証明など、複数の証明書で確認していると説明しました。

アシックス 監査担当 徳谷裕之さん
「IDカード。
あれ、ファミリーレコード(戸籍)がない。」

ところが、ほとんどの場合、1つの証明書でしか確認していませんでした。
仮にその証明書が偽物だった場合、この工場でも、児童労働が見過ごされるおそれがあります。

アシックス 監査担当 徳谷裕之さん
「児童労働は非常に問題になっているということがあるので、年齢確認は必ず2種類以上の書類でしてくださいとお願いしています。
会社は十分注意していても、発生する可能性はすごく高い。」


このスポーツ用品メーカーが海外の委託先の監査に取り組むようになったのは、アテネオリンピックがきっかけでした。
社長の尾山基さんです。
当時、ヨーロッパを統括していた尾山さんのもとに、国際NGOから報告書が届きました。
世界のスポーツ用品メーカーが、途上国の工場で過酷な労働を強いているという告発でした。
その中にアシックスも含まれていたのです。

さらに、去年5月委託先のカンボジアの工場で天井が崩落。
2人の犠牲者を出し、発注元のアシックスの名前もメディアで大きく報じられました。
これまで専門部署を設置し、委託先の労働環境を守る取り組みを続けていた尾山さん。
さらなる徹底が必要だと痛感しています。

アシックス 社長 尾山基さん
「何か間違いがあれば、株価は落ちる。
全世界で不買運動が起こる。
そこまでやるとコストが高くなるという議論はあります。
でもこれは社会的投資というか、それをしなかったときのリスクのほうが倍もする。」

しかし対策を取らなければならないのは、直接の委託先にとどまりません。
現在、カンボジアで生産を委託しているのは7社。
その委託先は、布や革など材料納入や染色などさらに複数の業者と取り引きしています。
これらすべてに対して適切な労働環境を守るよう求めなければなりません。
しかし、その数はあまりにも多く、末端まで把握できないのが現実です。

有効な手だてがない中で考えたのはまず、直接委託している7社に意識を高めてもらうことです。
研修を行い、その先の業者の指導役になってもらおうというのです。

「安全のための道具が何もありません。」

「何が必要ですか?」

「ヘルメットや長靴です。」

グローバルに事業展開するかぎり、地道に、こうした取り組みを進めるしかないと考えています。

アシックス 社長 尾山基さん
「まずは自前のチェックと監査、できることであれば教育する。
これをしなければ、どんどん相手(委託先)に任せておけば、そういうところへ行って、安くあげてくることが起こりうるし。
それは自ら自分の首を絞める行為になると思いますので、社会からノーといわれたブランドというのは、なかなか生き返るのは大変だと思います。」

今、東京オリンピックを前に日本でも、ビジネスと人権に関するセミナーが次々と開かれています。

講師
「相手は価格が安いからここにしました、ということではなくて、やはり環境、社会、ガバナンス、これを配慮した形で製品が納入されているのか、まず確認しなくてはいけない。」

人権は、企業が融資を受ける重要な条件の1つになろうとしています。
この銀行では、海外に展開する企業への融資を決める際労働者の人権への配慮を判断基準に加えました。

三井住友信託銀行 理事 金井司さん
「グローバル基準で企業が判断されているという状況になっている。
人権意識をとにかく研ぎ澄ませてもらおうということが非常に重要だと思う。」

海外の人権リスク 日本企業の対策は

●日本企業が人権の問題にどう向き合うかが問われる?

そうですね、あまり日本では知られていないかもしれませんが、ロンドンオリンピックというのはですね、環境、社会から見た持続可能性に配慮したイベントという、国際規格に従ったんですね。
だから、日本でやる場合に、例えば日本食でおもてなしをする。
おすしを出してエビはどこから来るのかというと、タイから来ます。
その加工をしているのは、ミャンマーの皆さんだったりするわけですね。
ですからそういうことも配慮していかなければいけなくなると思いますね。

●コストがかかる時代 戦々恐々と向き合う人も?

そうなんです。
ですから、消費者もこれ、意識を持って変わっていかなきゃいけないと思いますね。
単に安いからとか、あるいは性能だけではなくて、この製品が作られるプロセスにどんなことがあるのか。
イギリスでは、こうしたことを考える消費者のマーケットがどんどん大きくなってきているという統計もあるんです。
(人権問題がない商品かを見極めて買う消費者?)
そうですね。
そういうところまで企業は情報開示をして、それを消費者は読み取って、購買意思を決定するということですね。
あるいは投資家も今、動いてます。
年金基金がどの企業に投資をするのかっていうのを考えるときに、国際基準での人権配慮というものがきちんとできてる企業なのか、あるいは問題を起こしている企業なのかということで、投資先を決めているという状況もありますね。

●生産拠点をどこに置くか 判断が変わる可能性も?

そうですね、安全・安心というようなことを考えると、国内のほうが実は相対的な比較優位が高くなってくるという例も、これからは出てくるかもしれません。

●大きな国際的な流れ 底流にあるものとは?

格差、あるいは不平等というものが、社会の大きな脅威になっているのではないかという考え方だと思いますね。
(不平等が脅威やリスクに?)
不平等があると。
あの人はあんなに豊かなのに、私はなぜこんなに貧しいんだろうということが、人権の問題と連想されて、私は差別を受けてるんではないかと、平等ではないという意識をさらに高めて、そしてそれに絶望したりすると、これは社会の秩序を乱すような事件に発展するということが、国際社会でも認識され始めてるんだろうと思うんですね。

●企業も行動を変えなければいけなくなってきたという転換?

そうですね。
ですから、これまでは、コストが安ければいい。
それはもう、短期の売り上げのためだということでしたけれども、今、大きく経済が長期にどう考えるか、長期目線に動いている、その兆しを表しているように思えてならないところがあります。

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