クローズアップ現代

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No.34472014年1月6日(月)放送
シリーズ未来をひらく1 “二枚目の名刺”が革新を生む

シリーズ未来をひらく1
“二枚目の名刺”が革新を生む

“2枚目の名刺”が革新を生む

先月(12月)行われた、国際的な技術開発コンテストの表彰式です。
世界各国600点以上の中から第2位に選ばれたのは、日本の若手技術者3人が開発した筋電義手です。
筋肉の電気信号を使って、失われた手の動きを再現します。





「義手の、握る・開くを動かしています。」

筋電義手は通常200万円以上します。
動作を必要な動きに絞り、制御をスマートフォンで行うなどして4万円で作り上げました。


「名刺が2枚あるのですけれども、こちらが義手の方の名刺で…。」

「本当に自分でやりたい物作り、お金になるか分からないけどやってみた。」

会社とは別に、“2枚目の名刺”を持つスタイルがこれまでにないものづくりを実現しています。

午後9時、メンバーの1人、近藤玄大さんが仕事を終えて帰宅してきました。
昼間は大手電機メーカーでシステム開発をしている近藤さん。
義手の開発は会社から帰った夜、始まります。

小西さん
「どうも、お疲れさまです。」

大手電機メーカー 近藤玄大さん
「お疲れさまです。」

ほかの2人は別の会社に勤めています。
横浜と大阪に離れて暮らすため、打ち合わせはビデオチャットで行います。

大手電機メーカー 近藤玄大さん
「山浦さん、疲れてないですか?」

山浦さん
「ちょっと風邪をひいたので。」

大手電機メーカー 近藤玄大さん
「本業も忙しい感じですか?」

ソフト開発担当の近藤さんと機械設計担当の山浦さんは、大学院でロボットの研究を行っていた先輩と後輩。
デザイン担当の小西さんは山浦さんの会社のデザイナーです。



きっかけは、山浦さんが趣味で作ったロボットハンドの動画をSNSに公開したことでした。
学生時代の研究を続ける山浦さんの姿に刺激を受けた近藤さんは、一緒に開発しようと提案。
こうして、所属している会社のビジネスとしては到底認められそうもないものづくりが始まったのです。
大企業でなくても高性能の義手を作れたのは最新のものづくりの技術が個人でも手軽に使えるようになったためです。

大手電機メーカー 近藤玄大さん
「先端をゴム状にできるかどうか。」

小西さん
「先端もだし、この指の腹というか全部の関節の…。」

この日はデザイナーの小西さんが、指先を細長くして、より人間の手に近い形に変えたいという提案をしました。
早速、デザインのデータを機械設計担当の山浦さんにメールで送ります。

小西さん
「大丈夫そう?」

山浦さんは自宅にある、樹脂で立体を作る3Dプリンターで試作品を作ります。

山浦さん
「出力できました。
見ますか?」

僅か30分で、新しい指先が完成しました。

山浦さん
「こんな感じになるかな。
完成です。」

小西さん
「できてるじゃん。
ああ、でもいい感じ。」

これを足がかりにロボットなどの開発につなげられないか、夢を膨らませています。

大手電機メーカー 近藤玄大さん
「会社では世に出すためのすべやビジネス的なバランスを学びつつ、その放課後というか“2枚目の名刺”で、自分が本当に作りたいもの作る。
うちの会社がやってきたビジネスはもう終わりが見えていて、新しいことをやらないといけない。
社内でやるか社外でやるかわからないが、10年以内には起業したい。」

今、本業とは別に“2枚目の名刺”を持ち、新しいものを生み出そうという人たちが増えています。
起業を支援するシェアオフィスで、先月開かれたパーティーです。
ここでは、“2枚目の名刺”を持つ人たちが本業では実現できないアイデアを持ち寄ってきます。

開発者
「こうやって、光るペンライトみたいな。
ライブで使うと思うんですけど。」

これはIT企業に勤めるエンジニアと大学院生たちが開発した、スマートフォン用のアクセサリー。
GPSなどを使い、あらかじめ入力した場所や人の方向を向くと光る仕組みです。

開発者
「自分とマッチしそうな相手がいる方向に向けたときに光る。
その方向に歩いていくだけで、運命の相手と出会えるみたいな。
そんな新しい体験まで僕たちは作りたい。」


こうしたビジネスの芽を育てていくため、このオフィスでは、共同で使えるレーザーカッターや3Dプリンターなど最新設備を用意しています。





「目標金額50万円と設定されています。」

インターネットを使った資金の調達や、契約書作りを代行する会社も入居してサポートします。



起業支援オフィス 代表 後藤英逸さん
「公園に集まってきた人たちが、たまたま話し合って生まれる新しいSNSみたいな、イノベーションが起きていく基地にしたい。」



“2枚目の名刺”が生み出したイノベーション。
海外で事業展開を果たすケースも出てきています。
アメリカで今年(2014年)発売される、新しいコンセプトの乗り物です。
今、街なかで実験を繰り返しています。




「なんだそれは!」

「なんだそれ?」

「新しい“未来のノリモノ”だよ。」

「自分で作ったの?」

「そうだ。」

「マジで!」

砂利道をものともしないタフな走りや、小回りのよさが売りです。
もともとは、日産やソニーなどに勤めていた日本人の技術者たちが、趣味の延長で開発に取り組んだものです。

開発会社 CEO 杉江理さん
「一人の車いすユーザーが100メートル先のコンビニに行くのを諦めるという話があって。
いちばん最初は興味本位です。
東京モーターショーに発表して世界各国から反響を得たので、これはやる意味があるのかなと。」

手応えを感じたものの、1枚目の名刺である本業の会社にはビジネスにする手だてがありませんでした。
メンバーは1年前、会社を辞めて渡米。
175万ドルの投資を得て本格的に起業しました。

開発会社 CEO 杉江理さん
「どこでなら本当に自分のやりたいことが実現できるのかとなったら、どこでもよかった。
やれるなら。
すべての人の移動を楽しく、かっこよくするということをミッションとしていて、それはずっと僕らブレていない。」

“2枚目の名刺”が革新を生む

ゲスト米倉誠一郎さん(一橋大学教授)
ゲスト箭内道彦さん(クリエイター)

●日本はまだまだ捨てたものではない?

米倉さん:ワクワクしますね。
これ、すごいことが起こりつつあると思います。
3つ言いたいなと思ったのは、1つは義手。
200万円していたものが、4万円でできると。
僕は、日本企業って付加価値を付けろ、付けろって言って、よいものを高く売ろう、高く売ろうとしていたと思うんですけど、これ基本的に間違ってて、やっぱりよいものを安く売るっていうのがすごく大事なんです。
その王道に乗ってますから、新興国をはじめとして、これは戦争とかいろいろあった国で大活躍する気がするんですね。
もう1つ、車いすの方は、障害者の人たちのものだというのを、実はニューマーケットでもって、われわれで使えるぞって新しいマーケットを開発しただけじゃなくって、世界中からどこか好きな所に行って、やってやろうという、「ワールド・イズ・フラット」を実現してますよね。
これもなんかすごいなと。
全体的には今、すべてそうですけど、モバイルとか、ウエアラブルですよね、電話機もそうなったし、音楽も持ち運びできるようになった。
気が付いてみたら、自動車も自分の体の一部になっているっていう、大きな方向にも向いてるから、これもなんかすごいみんなが気軽に乗り始めたらおもしろいかなという気がしました。

●放課後の感覚で若者がものづくりをする姿、どう見たか?

箭内さん:ライフワークっていうことだと思うんですよね。
本業があってライフワークがあって、僕はよく、なりたい職業よりやりたいことって言うんですけど、だから、彼らはロボットが作りたい、もちろんそうなんですけど、困った人を助けたいっていう思いがあって、それを実現するのが“2枚目の名刺”なんだと思うんですよ。
で、本当は本業とライフワークが一致していくっていうのが、すばらしい働き方だと思うんですが、なんて言うんですかね、彼らを見てると、戦ってる悲壮感が全くなくて。

米倉さん:そうですね。

箭内さん:本当に楽しんでいるってことが、力にもなるし、イノベーションを生み出すし、脅威でもあるなと思います。

●本来は1枚目の名刺でできること、なぜ日本ではできない?

米倉さん:それがいけないと思うんですよ。
日本だけじゃないんですよ、実は。
だけど、われわれずっと20年間、日本はだめだ、日本はだめだと言ってたわけですけれども、アメリカだってヨーロッパの大企業だってできないんですよね。
大企業にいるかぎりは。
ハーバード大学にクリステンセンっていう先生がいて、イノベーションのジレンマっていうすばらしい本を書いたんですけど、あの本の基本メッセージは、「大企業は優秀じゃないから失敗する」んじゃなくて、「優秀だからこそ失敗する」。
要するに、いい製品をよりよくして、より安くして、今ある顧客に価値を届ける。
そのしっかりしたバリューチェーンの中で物事をどんどん進めますから、やればやるほど、新しいテクノロジーに目がいかなくなる。
なぜかっていうと、新しいテクノロジーって基本的には、性能が悪くて、高くて、使いづらくて、それがはじめなんです。
例えば携帯電話、初め高かったですよね。
車に積むのに30万円とか、月額料金。
しかも途中でぶつぶつ切れると。
固定電話の人だったら絶対こんなもの、と。
僕が覚えてるのは、固定電話の人たちが、携帯電話でぷつって切れちゃったら、みんなかけ直して、ごめん切れちゃったって。
ああ、これでいいんだと。
それまで固定電話の人は、途中で切れるなんてありえなかったんですよ。
だから、もうはなから携帯電話なんて余地がないと思い込んでしまった。
ですから日本だけじゃなくて、大企業はうまく経営をすればするほど新しいイノベーションから遠ざかってしまうという、宿命的な運命があるんですよね。

●よく成功体験が邪魔していると言われるが?

米倉さん: その成功体験っていうのが、過去の価値観の作り方。
だから新しい企業がやっぱり入ってこざるをえない。
だから、われわれはずっとベンチャー、ベンチャーって言ってたんですけど、今日の話を見て、ああ、社内ベンチャーも結構いけるかなと。
だから1枚目でうまくやれば、できる可能性が出てきたのかなって気がしましたね。

●日本でそういったものが社内で生まれない理由、どう見る?

箭内さん:逆襲が始まってるときだと思うんですけど。
昔、ケーキ屋さんに話を聞いたことがあって、ケーキ屋さんが、素人が作るケーキには勝てないよ、僕たちって言うんですよね。
それは、材料もたっぷり、お金をかけるし、時間もかけるし、大切な人のために一生懸命ね、徹夜して作るし。
企業はやっぱりそれが許されなくて、短期的な利益を追ってしまうんですけど、僕なんか自分の仕事は、ハイリスク・ノーリターンでありたいなと思って、目の前の利益じゃないものを追いかけたときに、イノベーションに出会ったり、将来大きな利益がやってきたり、そういうことは絶対あると思いますね。

社員を解放して新市場開拓

静岡市にある子ども専門の歯科医院です。
虫歯が出来てから治療するのではなく、予防に重点を置いた新しいタイプの歯医者です。
実は、大手の広告会社が地元の歯科医と手を組んで生まれました。

「それ、シュシュシュ。
おー、上手。
気持ちいいなあ。」

保育士も雇い、子どもたちに歯磨きの大切さまで教えます。
このビジネスのきっかけは、広告会社が新たに作った社内ベンチャー制度です。
伸び悩む本業の広告に頼らないビジネスを生み出すため、会社では前代未聞の条件を打ち出しました。

事業内容が本業と無関係でもよい。
社外の人と組んでもよい。
そして、失敗しても会社に戻れる。
社員を会社に縛りつけるのではなく、あえてつながりを緩めて新規事業の開拓につなげるねらいです。

子ども向けの歯科ビジネスを立ち上げた、神保剛康さんです。
広告会社では営業マンでした。




幼なじみの歯科医から、子どもに怖がられない歯医者を作りたいと聞いて、そこに新たな市場の可能性を感じていました。



広告会社 神保剛康さん
「広告会社で培ったノウハウを、広告以外のビジネスにと。
僕が考えていたことで。
世の中を良くしたいという思いが、ベンチャー企業として会社として(認めて)もらえるのはすごく良い制度だと思う。」

スタートから4年。
400以上の提案が寄せられ、すでに9つの会社が誕生。
美容に特化した野菜や工芸作品の販売ビジネスなど新たな分野への進出が始まっています。


広告会社 イノベーション創発センター長 赤木直人さん
「いろいろな外の場で人に会ったりアイデアに触れたところで、イノベーション、新結合が生まれることがあると思う。
我々としては取り組んでいきたい、一緒にやりたい。」

組織をどう変え 革新を生み出すか

●箭内さんは、もともと今紹介された会社に在籍していた?

箭内さん:そうですね、10年前に。
会社辞めますって言ったときに、偉い人が、どういう条件をかなえたら辞めないでくれるのかと言われたときに、僕が出した条件、あの3つなんですよ。
で、それはごめん、今は無理って言われて外へ出たんですけど、やっぱり僕は外に出ることでいろんな人をつなぎたかったのでね。
すぐやった仕事が、電通のCMプランナーと、博報堂のコピーライターを使った仕事とかね、そういうことをしたかったんですが、でもやっぱり今見てて、すごくこう身近なことを花にしていくというか、実現させていくというか、特に女性の起業なんていうのはいろいろ大変だと思うんですよね。
そんな中で、こういうふうに失敗したら戻ってこれるよっていうところで、身の回りにあったらいいなってことがかなうのはいいなと思いつつ、やっぱりベンチャーって、やってごらんって言って、会社がはんこ押してやるベンチャーって、なんかちょっといいなっていうか、甘い部分もあるかなと思いますけれども、でもやらないよりはずっといいと思うんです。
いい会社になっていると思います。
戻ってこいと言われたら、戻ろうかなと思います。

●社内ベンチャーではだめだという考えが変わったと仰ったが?

米倉さん:社内ベンチャーって甘いから、最後のところで、不退転の決意が出てこなくて、あんまり成功した事例見ないんですよね。
ただ、さっきも言いましたように、新しいモバイルを使ったり、ネットチャットを使ったり、3Dプリンターとか、時間的余裕が今まで会社が終わってからやれる時間の中でできることが、3倍、4倍になってるから、会社と両立したり、あるいは会社から、ある種の支援をもらってやるほうが近道だと。
だから、ある意味では、会社がベンチャーキャピタルになったと思えば、結構できるのかなっていう気がしたのが、この新しい事例を見て思ったんですけど。
あともう1つは、やっぱり経営戦略において多角化っていうのは、資源の再利用なんですね。
だから1つのベルト、工場を持ってたら、1個だけじゃなくていろんな製品を使ったらいいと。
でも、電通、博報堂みたいな会社にとって最大の資源は人ですよ。
そうすると、箭内さんみたいな人に、1つの仕事じゃなくて、2つ、3つ、4つさせたほうが、絶対いいんですよ。
今までは本業が非常にしっかりしてて、テレビ、あるいは新聞の広告業界、ここにいればなんとでも生きていける。
でもそれが急速に縮んできたんで、自分たちの経営資源を、やっぱり再発見しようと。
だからやっぱり人に行き着いたんで、この人たちを解放してなるべくたくさんのことをやらせたほうが、はるかに資源の有効利用になるというふうに気がついたんだと思うんですよね。
そういう意味では日本の大企業、まあ世界中もそうなんですけれども、大企業って人材の宝庫ですよね。

箭内さん:そうですね。

米倉さん: 中小企業だって、欲しくても取れない人が、まあ偏差値的にいえばごろごろいるわけですよ。
ある球団みたいなもんで、4番バッターとエース級がずらっといるけど、それがみんなベンチに座っていると。
彼らを使ったほうが絶対にいいぞっていうことを、やっと気が付き始めたのかなという気がしますね。

箭内さん: そしてやっぱり一企業の利益じゃなくて、社会に貢献するために、自分の会社の才能たちをいろんな所で使ってもらうっていうのは、今の時代に特に必要なものなんじゃないかなと思いますよね。

米倉さん: 大手弁護士でも、会計事務所でも、外でプロボノ(社会貢献)してきてNPOを助けたり、絶対に本業にプラスになっている。
ここが、すごく重要なところです。

箭内さん: フィードバックされてきますよね。

●イノベーションが花開く社会の空気を育てるには、何が一番大事?

箭内さん: まだまだ開通してないトンネルがたくさんあるので、とにかく横をつないでいくということだと思うんですね。
自由に、一番大事なのは楽しく競争していくってことなんじゃないかなと思いますね。

米倉さん: 僕は3つあって、1つ若者に言いたいのは、「就社」から「就職」。
だから1つの、僕は博報堂で働きたいんじゃなくて、広告マン、あるいはクリエイターとして一流になりたいんだと、そうすればどこでもつながっていけると。
2つ目は、経営者に言いたいのは、タレントをマネジメントする、人材マネジメントなんですよね。
3つ目は、社会に言いたいのは、やっぱりリスクを取れって言ってる以上、失敗は増えるんですよ。
それを許容する、転んだやつは笑わないっていう社会にならなきゃいけないと思ってます。

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