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福島 いわき “地域交通を守り抜く”バス会社の決断と覚悟

~人手不足と2024年問題~
  • 2023年12月28日

今後5年間に福島県内のバス事業者40社で見込まれる運転手の不足数は340人。
そのバス業界を直撃するのが「2024年問題」です。バス会社のいまを取材しました。

【“前例のない”ダイヤ改正】

11月18日(土)午前10時。
いわき市にあるバス会社が本社の1室に報道各社を呼んでの記者会見。幹部が苦渋に満ちた表情で話し始めました。

「来春のダイヤ改正で15路線廃止。ダイヤ数も削減。これまで市民生活を守るためにプライド持ってやってきたが限界がきてしまった。お詫びしかないがバス路線を残すための決断でありどうかご理解ををお願いしたい」。

温暖な気候から東北のハワイとも呼ばれる「いわき市」を中心に、福島県の沿岸地域、浜通りの公共交通を80年にわたって支えてきた新常磐交通が会見を開き、窮状を訴えたのです。

廃止路線の数は、山間部を中心に15にのぼり、廃止される運行距離は、路線バスの全運行距離519キロのおよそ1割にあたる50キロにのぼります。
また、市内で運行する133系統のうち、およそ半数の64系統を廃止し、これに伴って便数は、平日693便から70便を、土日祝日は342便から117便を、それぞれ減らしました。
一定の利益が見込める黒字路線を存続させるための苦渋の決断を下したのです。

【背景1:深刻な人手不足】

決断に至った最大の理由は、年々深刻化する人手不足。
バス会社の生命線である運転手の数は、定年などで退職が増える一方で、採用が思うように進まず、この5年で168人から138人へと2割近く、大幅に減りました。

運転手不足のためフル稼働できない高速・貸切バス

このため、稼ぎ頭である福島駅といわき駅を結ぶ高速バスの一部を運休させたほか、貸切バスの稼働率も30%を切るなど、深刻な影響が出ています。

社員の平均年齢は58歳。60歳以上が半数を占め、最高齢は75歳と、熟練ドライバーが会社を支えている状況です。
入社40年のベテラン運転手、今野義清さん(64)。朝6時に出社して夜7時過ぎまで働く毎日です。

「新しく入ってきた運転手さんも何年も経たないでやめていったりしています。やはり給料面とか労働条件とか、朝早かったり夜遅かったり、あと休みが少なかったりとそれが原因かなと思います。一番いいのは、給料が上がって、今より仕事量が少なくなるのが理想かなと。本当は私も若手を指導して一人前の運転手にさせたいという希望はあるのですが運行を優先させなければならずかないません。いまはお客さんの『ありがとう』の言葉を力に運転手を頑張っています」。

【背景2:2024年問題】

すでに人手不足に陥っている中で、来春の2024年問題への対応も迫られています。
来年4月から運転手の労働環境改善のため、年間の労働時間の上限が現在の3380時間から3300時間に引き下げられます。
また、運転手が退勤してから翌朝出勤するまでの休息時間は現在の「8時間以上」から「基本11時間、最低9時間以上」へと引き延ばされます。

その結果、朝の便を担当する運転手は勤務を早く切り上げる必要があり、これまで1人で担っていた夜の運行が実質できなくなるのです。
路線バスのダイヤをとりまとめる門馬常務は、来春の大規模なダイヤ改正には、2024年問題に先手を打つかたちで、人員数にあわせた路線規模にする狙いもあったといいます。

「直接的に影響出てくるのが夜のダイヤ。人手さえあればカバーできますが現状ではそれができないのでつらい選択をさせていただいた。2024年問題は、現在の人手不足に加えて、加えて影響が出ると」。

【背景3:コロナ禍による減収・燃料費高騰で赤字続く】

会社は、コロナ禍に伴う乗客の減少や燃料費の高騰などを受けて、路線バスの赤字額が昨年度(令和4年)時点で2億5000万円にのぼっています。
ことし10月からは、事業の継続のため15年ぶりに運賃を値上げするなど、試行錯誤が続いています。
バス会社には、国・県・市などから補助金が出ていますが、面積が広い、いわき市ならではの不利な側面もあります。
国では、路線バスが複数の自治体をまたいで運行して赤字が出た場合、補助を出す制度(地域間幹線系統補助)を設けていますが、この会社では、路線バスの9割以上がいわき市内での運行となっているため赤字となっても補助を受けられない状態です。
いわき市は、昭和41年に5市4町5村が合併して誕生し、その面積は1232平方キロメートル(神奈川県の約半分)と、県内の自治体では最大、全国の自治体の中でも15番目の広さがあります。
自治体間を走行していないだけで補助の対象にならないという考え方は、現場の実態にそぐわない硬直化したルールとも言え、地域の公共交通を守るために弾力的な制度のあり方が求められています。

【利用客への影響は】

会社では、人手不足を受けて、ことしすでに3度にわたる異例のダイヤ改正を実施。
時刻表の灰色に塗られた部分は運行がなくなった便で、影響が比較的少ない時間帯を中心に減らしました。

利用客は・・・。

女子高校生

「いつも乗っているバスが減っちゃって不便になったなと思います」。

男子高校生

「勉強してから帰ろうとしてもバスがなかったりとかでどうしても帰る時間が限定されてしまって。受験も近いので焦りもあってそこだけでもどうにかなってくれないかなと思っています」。

高齢者

「やっぱりバスがないと私ら年寄りは不便ですね。バスをなくしては困る。若い人は運転するからね。私らみたいな運転できないのは困りますね」。

会社では、来春の大幅ダイヤ改正で、1日あたりおよそ3000人の利用客に、路線や交通手段の変更などの影響が出るとみています。

【打開策はあるか】

現状を打開するため、会社では運転手の確保に奔走しています。

県内のバス会社と協力して、体験型の就職説明会を実施。1人の採用につなげました。
また、採用サイトで新入社員に支度金50万円支給をPRするなど、あらゆる手だてで人材を確保しようとしています。

【厳しい現実が明らかに】

門馬常務が取材中、何回も口にしたのが「運転手のなり手を探そうにも大型2種免許を持っている人が見つからない」という言葉。
大型2種免許とは、客を輸送するバス運転手に必要な免許で、この免許を取得しないことには何も始まりません。
何が起きているのか気になり調べたところ、警察庁が毎年、都道府県ごとにとりまとめている「運転免許統計」のデータを見つけました。
そこで分かったのは、

▼免許の保有者数が去年末の時点で1万5082人とこの10年でおよそ3000人減少。
▼免許の新規交付数は同じく去年末の時点で110件とこの10年で3分の1に減少。

▼保有者を年齢別に見ると、60代以上が7割近く、50代が2割、40代以下は1割余りに。
つまり、今の60代以上の運転手が定年や体力の限界などで次々に辞めていく中で、そもそも若い世代の免許保有者が少ないため、この先、バスを動かす人材は確実に減り続けるということがわかったのです。

バス業界の現状に詳しい福島学院大学の寺田一薫教授は、公共交通としてのバスを維持していくための社会的な課題は大きいと指摘します。

福島学院大学・寺田一薫教授

「バスの黄金時代は昭和40年代ごろで仕方がない側面もある。当時、免許を取得した人たちに頑張っていただかないといけないが、一方で若い人の採用に向けて、新卒の人がある程度応募できるような魅力ある仕事にする必要がある。例えば、将来運転手を卒業して運行管理者や管理職として活躍できる道が開かれることなどを示すことが重要。また、これまでの4人ぐらい応募して1人採るという一時期のようなことはできなくなっていて、バス会社として応募者のほとんどを採用したうえで、免許の取得から養成していく、社内で育てていくなど発想の転換が必要だ。人手の代わりに自動運転の話が出ているがそれをもって一気に解決されるというわけではない」。

一方で、いわき市の人口は、現在(12月1日時点)32万人あまりですが、2040年には25万人台、2060年にはおよそ半減の17万人台まで減少するとする推計もあり、人口減少問題に対しては、待ったなしで対応が求められています。

【バス会社としての“使命”と“覚悟”】

80年にわたっていわき市を中心に、浜通りを支えてきた新常磐交通。
オイルショック、モータリゼーション、震災・原発事故、コロナ禍と幾多の困難を乗り越えてきました。
抜本的な解決策がなく厳しい状況下でも最善策とは何かを模索し、公共交通としての使命を果たすため、難しい判断と運営を迫られています。 

「私たちも運転手の確保にしっかり取り組んでいかなくてはならないが、どうか公共交通を維持するという意味ではね、行政も含めて社会全体で運転手を育成し、確保していくようなそういったような努力、支援策をぜひお願いしたい。我々は決して幹線を撤退したわけではありません。不便をおかけしますが、これからも幹線を守り、地域の公共交通をしっかり守っていくという姿勢は変わっておりませんので、これからもどうか不便にはなりますがご理解をお願い申し上げるしだいです」。

【取材後記】

いかにコストを抑えて路線を守るか。取材の中で新常磐交通の自前の整備場にお邪魔すると、整備士が黙々と修理・改装作業に当たっていました。路線バスの車両の多くは、都営バスや私鉄バスを中古で安く購入して、改装や整備を行った上で再利用しています。努力の賜物を見せつけられた思いがしました。

営業所の一角に設けられた整備場

毎日、当たり前のように目にする路線バス。朝夕の通勤・通学時は混み合っていますが、時間帯によっては空席ばかりで、運転手はどのような気持ちで走っているのかなと、思うことがあります。
「他業種に比べて賃金は決して高いとは言えず、運賃も利用者を思えば大幅には上げられない」。「赤字前提でも地域の人たちを守るためには走らせ続けなければならない」。「公益性を達成するための採算性。矛盾はするが永遠のテーマであり努力しなければならない」「高速バス・貸切バスを運行したくても運転手がいない、それでも常磐交通ブランドを頼って待ってくれている人たちがいる」。多くのものを背負っていることを、門馬常務の表情やひと言ひと言から感じました。

これまで、私たちの生活の足は、バス運転手の長時間労働のもと支えられてきました。一方で、待ったなしの人口減少社会において、生活に欠かせない公共交通をどの程度の規模で維持し、存続させていくか、いまはその議論の最中です。行政や民間で協議が進んでいますが、任せきりにせず、利用する私たち一人ひとりが一緒に考え、形にしていくことが求められていると思います。

  • 金澤隆秀

    NHK福島放送局・記者

    金澤隆秀

    2010年入局。福島県鮫川村出身。いわきの海で泳ぎ釣りを楽しんだ幼少期。街中で独特なカラーリングの常磐交通バスを見ては「いわきに着いた!」と興奮していました。引き続き公共交通の現状を取材・発信します。

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