特撮少年 福島に現る
- 2023年08月24日
驚きの才能や技術を持つ若い世代を紹介する「うわさのミラクルジュニア」。今回紹介するのは、特撮の神様と呼ばれる円谷英二のふるさと福島県須賀川市に住む高校生です。特撮への愛が高じ、自主制作の特撮映画を作り、“怪獣ドラガルモ”を生み出したことで注目を集めています。なぜ作品を撮ったのか。その熱い思いと、撮影秘話に迫りました。
作品「怪獣ドラガルモ ~岩中に現る~」
地元で話題になっている作品が、「怪獣ドラガルモ ~岩中に現る~」。地元の中学校に突如として怪獣が出現。驚く生徒たちを尻目に校舎を破壊して暴れ回る、という内容です。去年、須賀川市内の中学校に通っていた中学3年生たちが、10月ごろにわずか1か月間で制作。メイキング含め4分というシンプルな内容ながら、往年の特撮作品に見られる画角やミニチュア、着ぐるみの造型など意外にクオリティが高く、どこか懐かしさを感じさせます。中学校での文化祭でも好評だったというこの作品、いったいどんな子が撮ったのでしょうか?
“特撮は栄養” 監督した高校生
ぜひ会ってみたいと取材を進めると、8月のある日、監督を務めた人物を訪ねることができました。その人こそ、須賀川市に住む本田諒太郎くん(15)です。自室に案内してもらい、話を聞こうとすると、目に飛び込んできたのはさまざまな特撮関連のフィギュアやポスター。かなりの特撮好きであることがうかがえます。そんな本田くんにインタビューを始めると、いきなり特撮へのただならぬ愛があふれてきました。
(本田くん)
特撮は今までの自分を作ってきたものです。これまではこれ以外にあまり興味を持っていなかったので、“特撮は自分自身の栄養”と言えるかもしれないです。
特撮は栄養…。なんとも愛にあふれた言葉です。そんな本田くんに、特撮好きになったきっかけを聞いてみると、あるものを持ってきてくれました。手にしていたのは、本田くんが生まれる前からお父さんがせっせと録りためたウルトラマンやウルトラセブンのDVD。小さい頃から、1日これらの作品を何回も見ていたといいます。多くの同級生が年齢を重ねるにつれて特撮に興味を持たなくなる中、今も見続けているという本田くん。特撮への愛は、誰にも負けない自信があるといいます。
(本田くん)
これが父が録りためておいたDVDなんですけれど、それを僕は今は全然覚えてないんですけれど、母の話だと1日中同じやつを、ずーっと見てたみたいです。
制作のきっかけは“特撮塾”
本田くんを作品づくりに向かわせたのは、単に好き、という気持ちだけではありませんでした。そんな彼を育んだのが、この場所。定期的に訪れているという、須賀川市の須賀川特撮アーカイブセンターです。特撮の神様と呼ばれた円谷英二の功績をたたえ、特撮技術の後世への継承を目的に3年前に開所しました。
ここで、去年から開かれているのが「特撮塾」。映画監督の田口清隆さんなど、特撮の第一線で活躍する人たちが講師を務め、特撮に関心のある中高生たちが撮影のノウハウを学ぶことができます。1期生として入塾した本田くんは、ここで学んだ様々な撮影技術を生かして、作品を撮ってみたいと思うようになったといいます。
(本田くん)
いま第一線で活躍されている監督にいろいろな技術を教えてもらえるし、現場の細かい知識も教えてもらえるので、そこが作品づくりの後押しになりました。
こうして本田くんが監督した作品は、去年秋に中学校の文化祭で公開されると、自分たちの学校が怪獣に破壊されるという衝撃的な内容もあって大ウケ。評判を聞きつけたアーカイブセンターも今後、上映を検討するまでになり、いま地域で話題の作品となっています。
着ぐるみにミニチュア、段ボールで
作品づくりは、去年9月の終わり頃から始まりました。本田くんと同じように特撮塾に通っていた同級生や弟など、特撮好きな同志をたち5人を招集。しかし、文化祭は10月下旬。発表まで、あと1か月もないという状況でした。わずかな間に、どうやってあの迫力のシーンを撮影できたのでしょう? 話を聞いていくと、さまざまな工夫やアイデアが盛り込まれていることがわかりました。
まず、主役の怪獣は段ボールで原型を作りました。その原型に徐々に装飾を施す、という方法で作ったそうです。特にこだわったのが、爪の部分。手を上げながら空に向かって吠える際、高い頻度で画面に映り込む手の爪は、怪獣っぽさを演出するには、ある程度作り込まなくてはいけないポイントだったそう。爪のデザインや実際の制作は、手先が器用で、黙々と作業するのが得意な弟の雄惺くんがアイデアを出して作ってくれたそうです。
怪獣に派手に破壊され、作品を盛り上げるミニチュアにも工夫が見られました。制作の際に、本田くんが段ボールに実際の校舎の写真を貼り付けて使うという奇策を考案しました。
(本田くん)
段ボールならすぐ壊せるし、それなりに迫力もあると思ったので、段ボールに写真を貼って作ってみました。簡単に潰れるので、スーツアクターもやりやすいですし、運ぶときもそんなに重くないので、簡単に運べるというところもいい点だと思います。
野外ロケもアイデア勝負!
屋外のロケでも、本田くんのアイデアと特撮塾仕込みのノウハウが光りました。作品のハイライトとなる、煙の中を怪獣が暴れ回る様子を収めたこのシーン。
本田くんは、怪獣が暴れ回る様子を迫力あるものにするため、祖父が農作業で使っている軽トラックに着目。荷台を利用することで、開放感ある空を背景に、怪獣を下から撮って、その大きさを表現することに成功しました。
迫力ある雰囲気作りに一役買っている煙は、身近にある花火で代用することにしました。これで、怪獣が暴れる時の臨場感を出すことに成功したのです。
本田流演出術“遠慮も妥協もなし”
実際の撮影となると、遠慮も妥協もしないのが本田くんのスタイルです。この日は、どうやって撮影をしたのか、本田くんたちに頼んで、軽トラックも出して再現してもらいました。すでに完成している作品の撮影風景を再現するだけなのに、納得のいくまで怪獣の動きやミニチュアの位置を何度も確認し、テイクを重ねる熱心さ。ふだん温厚で思慮深い本田くんの印象は変わらないものの、自分の撮りたいものを追求する確かな熱意を感じます。
今回の作品で着ぐるみに入って怪獣を演じた、同級生の菅野拓斗くん。本田くんの厳しい演技指導を信じ、演じきったといいます。監督・本田諒太郎の演技の要求レベルについて感想を聞いてみると、額から汗を垂らしながらこんな風に話してくれました。
(菅野くん)
自分が思い描いているものを撮るために、本当にそれまで徹底的にやる。演技に関してはダメ出しすることが多いんですけど、こちらの演技がよかったら本当にきちんと褒めてくれたりするんで、いい監督だとは思いますね。
“実際にそこにあるような迫力が魅力”
周囲の協力も得ながら、限られた期間でクオリティの高い作品を作る。特撮への強い愛と熱意は、プロにも負けていないように思えます。そんな本田くんに、特撮の魅力と今後の作品作りの意気込みを聞いてみました。
(本田くん)
特撮って実際に作って、それを壊してっているというものですよね。CGとは違って、実際にそれが現実にあるように感じる。迫力が伝わってくるので、そこが一番の魅力だと思っています。高校生になったのでますます忙しくなったのですが、今後は1か月とか短い期間ではなくて、ウルトラマンみたいな、本当に長期間で自分の作りたいものが撮れたらいいなと思っています。
取材後記:印象深かった“好き、貫いて”
特撮少年、本田くんの取材の過程で深く印象に残ったのが、母・あゆみさん(43)の話です。小さい頃から繰り返し特撮作品を見続け、自分の好きを貫く本田くん。そんなぶれない姿に、一時は心配したこともあったといいます。
(母・あゆみさん)
私自身があまり特撮を知らなかったのもあり、ウルトラマンや仮面ライダーは子ども向けのものだと思っていたんです。だんだん小学校に上がると、周囲の子たちも特撮を卒業して芸能人や歌手に興味関心が移っていくのに、諒太郎はまったくその気配がなく、変わらず特撮一直線でした。ですから、ちゃんと大人になれるかなと親ながら心配していたんですよね。
しかし、近所にアーカイブセンターができて、本田くんが特撮塾に通うようになると、あゆみさんの考えも徐々に変わっていったといいます。
(母・あゆみさん)
アーカイブセンターの開所式の時に伺って、諒太郎が特撮塾に通うようになると、本当に制作に携わっている皆さんが真剣にやっていて、これはれっきとした文化なのだということを理解できました。将来、本当に特撮の道に行けるかはわかりませんが、諒太郎には好きを貫いてほしいですし、その姿を見守っていきたいです。
特撮をはじめとした映像作品は、競技性のあるスポーツや、成績が点数化される勉強とは異なり、評価も見方も様々です。そうした分野で一定の評価を得るというのは、競争の激しい競技の世界とはまた異なる厳しさがあるのかもしれません。しかし、自分の“好き”を貫き、周囲の理解も得ながら、みんなを巻き込んで作品を作り上げる本田くんは、取材した私から見ても十分な素質があると感じました。監督・本田諒太郎の次回作に期待したいと思います。頑張れ、本田くん!