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福島でも広がるチャットGPT その実態は?

利用が急拡大する対話型AIの現状からあすを考えます
  • 2023年07月13日

業務の効率化をねらいに各地で導入されるなど、利用が急拡大を見せる対話型の生成AI「チャットGPT」。その大きな波は、東北の一地方である福島にも及んでいます。何かと話題の存在ですが、わたしたちの暮らしを変える強力な味方になるのでしょうか? 記者も試しに使ってみながら、県内の最新情勢を取材しました。

“チャットGPT、始めます”

福島市役所

そのニュースを知ったのは、6月も半ば。福島市がチャットGPTの導入を本格的に検討しているという話でした。福島県では、6月初めに県庁が補助的に業務の利用に使うことを認めたのみで、事実なら県内の自治体では初めてのこと。市の担当部署に確かめてみると、6月29日に正式に利用を決める見通し、とわかりました。早速その日、市役所を取材してみることに。

福島市の情報企画課

担当部署のようすを見に行くと、何やら皆さんせわしないようす。部署の責任者、デジタル改革室長の尾形真一郎さんによると、市役所内の会議で、つい先ほど正式に業務での利用が決まったとのこと。具体的に、どんな使い方を考えているんでしょうか?

福島市の尾形真一郎デジタル改革室長

(尾形さん)
当面は、部署内の打ち合わせや会議の議事録の要約、一般に向けた広報文や外部に向けた行政文書のたたき台の作成など、職員がふだん行っている業務支援に限って利用する予定です。

なるほど。ごく基本的な業務の支援に限定して、職員の負担を軽減するという話なんですね。利用に関して、内部向けの詳細なガイドラインもまとめていることがわかりました。

福島市がまとめたチャットGPTのガイドラインの一部

ガイドラインには、生成された文書は必ず職員がチェックしてそのまま外部には出さないことや、個人情報などは入力しないことなどが定められていました。チャットGPTは主役ではなく、あくまで業務の支援をする、という役回りを想定しているようです。しかし、現在のチャットGPTが公開されて1年もたっていません。それから考えると、かなり早い導入です。なぜ、自治体はこうもチャットGPTの導入に積極的なのでしょうか。

人手不足解消の起爆剤に?

取材中も忙しそうに働く福島市の職員たち

尾形さんに疑問をぶつけてみると、こんな切実な答えが返ってきました。「業務量に対して、人手が足りない」というのです。特に役所では業務量を自分たちで一気に減らすことができません。一方、これからは職員が減っていくのは確実です。福島市は隣の飯野町と15年前に合併し、今もなんとか2000人台の職員数を維持していますが、10年後、20年後もこの数を維持できる見込みはありません。つまり、今後限られた貴重な戦力を有効活用するとともに、業務の効率を最大化しなければならないという現場の危機感がスピーディーな利用決定の背景にあったというんです。

業務効率化は喫緊の課題だという尾形さん

(尾形さん)
今後は1人ひとりが本当に貴重な戦力になります。煩雑な文書作成などの負担がAIで肩代わりできるのであれば、それに越したことはない。できるものはAIに任せ、人が本当にやるべき仕事に力を注いでいく。これからは、そうした考え方が求められていくと思います。

チャットGPTが人手不足解消の起爆剤になるのだろうか?

福島市では、窓口対応などほかの業務にも使えるのか、今後3か月間にわたって最適な使い方を見極めていくとしています。

対話型の生成AI チャットGPT

チャットGPTのメニュー画面

ここで、チャットGPTについて簡単にまとめておきましょう。チャットGPTは、対話するように利用することから「対話型」、そして文章を作ることから「生成AI」といわれるAI=人工知能の一種です。
アメリカで開発されたこのサービス、最大の特徴は質問を入力すると、会話しているように自然な文章で答えてくれる点。ネット上の情報を基に、人間が応答しているかのような滑らかさで文章が出力されます。ネット環境があれば、無料で誰でも利用でき、検索窓に質問を入力することで、いろいろな質問や要望に応えるのです。利用する際の手軽さ、簡単なところも大きな魅力です。

人間 vs チャットGPT 対決してみた!

入局4年目の新星・相原記者

文章を書くことを仕事としている私たち、記者。文章を書くチャットGPTが、いったいどれだけの能力があるのか、試してみたくなるのが人情です。そこで、両者で原稿を書く速さ、正確性、内容にどれだけ差があるのか見てみることにしました。人間代表は、入局4年目の相原理央記者。只見線の全線再開や、福島特産の日本酒の取材を精力的にこなすなど、福島局の報道現場の中心的存在になりつつある若手の敏腕記者です。対決の趣旨を話して頼んでみると、一も二もなく快諾してくれました。

(相原記者)
これまで短いものから通常のニュース、企画のような長いものまで1500本近い原稿を書いてきたので、負けられないです。

 

対決前、両者の間にはただならぬ緊張感が漂う

対決の内容は、福島局で取材・放送したニュースをお題に、両者に大まかな取材情報を与えてニュース原稿を書いてもらう、という形式にしました。選んだのは、6月29日に実際に県内向けに放送された、わせの桃「はつひめ」の初競りが始まったことを伝えるニュースです。

お題は実際に放送されたニュースから

チャットGPTには、日時、取材の概要、競り落とされた桃の価格や、ことしの桃の出来などの背景を入力した上で、ニュース原稿を書くように指示。相原記者にもまったく同じ情報が書かれた紙を渡し、1分間読んでもらったあとで原稿を書いてもらいます。

原稿を書くのはお手のもののはずだが…

そして、対決スタート。開始の合図とともに、相原記者も猛然と愛用のノートパソコンのキーボードをたたき始める。さすが若手の有望株、早いなぁ! と感心しながら、エンターキーを押して指示を出したチャットGPTを見てみると…!

”秒で”ニュース原稿が出てきた

すでに文章ができていた! しかも、ふだんわたしたちが書くニュース原稿と似ています。指示を出してから、30秒もたっていません。わずかな間にこれだけの文章が出てくるとは、正直驚きです。相原記者に感心していた自分は何だったんだ、と急に気持ちが冷め始めます。

最後まであきらめない相原記者

しかし、相原記者もチャットGPTの速さに驚きつつ、20分近くかけて、最後まで原稿を書いてくれました。

4年目記者“脅威だ”

作例を見てみましょう。以下が、30秒ほどでチャットGPTが書いたニュース原稿。

チャットGPT作例(約30秒)
<ニュースタイトル> 
福島市で桃のシーズン到来、初競りで高値15万円で落札 
<ニュース本文> 
福島を代表する果物である桃のシーズンが本格化し、福島市の卸売市場で桃の初競りが行われました。競りにかけられたのは、福島市で栽培される主力品種である「はつひめ」です。
福島市公設卸売市場では、6月29日の午前6時半から桃の競りが開始されました。競りにかけられたのは糖度11以上の特に品質の良い桃で、16個入りの2ケースで出品されました。落札価格は1箱あたり15万円と、高値で落札されました。
卸売市場では、この競りをPRするために福島の果物の魅力を伝えるためのイベントも行われました。福島の果物の魅力をアピールするため、ミスピーチ10人が出席しました。 
福島市では、春に暖かい日が続いたため、桃の生育が順調であり、甘くて大ぶりな桃が収穫されています。地元農業協同組合(JA)によると、桃の品質は非常に高く、消費者にとって魅力的なものとなっています。 
福島市の仲卸業者の担当者は、「福島のおいしい桃を多くの人に提供したいという思いを込めて、15万円の価格をつけました」と語っています。また、ミスピーチの穂積璃乃さんは、「農家が大切に育てた桃が食べられる季節になり、とてもうれしく思います。はつひめは甘く、食感もなめらかでおいしいです」と話しました。
福島市の桃のシーズン到来により、市場では一層賑わいを見せています。これからも福島の農家が育てたおいしい桃が、多くの人々に楽しまれることが期待されます。 以上、福島市で桃のシーズンが到来し、初競りで高値15万円で落札されたことをお伝えしました。
【ニュース原稿終わり】 ※原文ママ

そして、次が20分かけて書いた相原記者の力作です。

相原記者作例(約20分)
タイトル:桃のシーズン本格化で初売り
福島県を代表する果物、桃の収穫が本格化するなか、きょう福島市の市場で初競りが行われました。
福島県を代表する果物の桃が収穫の時期を迎え、けさ(29日)福島市の卸売市場では初競りが行われました。
競りにかけられたのはわせ種の「はつひめ」で、参加した業者らは威勢よく、糖度が高く品質のよい桃を買い求めていました。
競りでは、福島市の仲卸業者が1箱15万円と、最も高値をつけて落札しました。
また、市場では桃を宣伝するイベントも開かれ、福島の果物の魅力を伝える「ミスピーチ」の10人がことしの桃の甘さや食感などをPRしていました。
JAによりますと、ことしの桃は春に暖かい日が続いたため、生育が順調で甘くて大ぶりだということです。
最も高値で桃を落札した仲卸業者の担当者は「ことしも福島のおいしいモモを売ろうと思いを込めて落札しました」と話していました。

チャットGPTの原稿は、消費者にとって魅力的になるように、勝手に出力したと推測される部分もあります。しかし、かなりの速さで文章が作られる時点で、スピードでは人間を圧倒しているのがわかります。人間代表として対決した相原記者に、対戦後の感想を聞いてみました。

チャットGPTと自分の原稿を見比べて苦笑いする相原記者

(相原記者)
わずかな間にこれだけのクオリティのものが出てくるのは、驚きですね。情報量も多いし、何より本当に人間が書いた文章のようになめらか。最終的に変なところがないかは人間がチェックする必要があるんでしょうけど、このスピードにこの品質、文章で仕事をする人間として、正直脅威に感じてしまいました。転職を真剣に考えた方がいいかも…。

実際に放送されたニュース、気になる方はこちらを参照してください。https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/20230629/6050023089.html

文章だけじゃない!? ITの現場では

会津若松市のITベンチャー 株式会社シンク

チャットGPTが文章作成に関してかなりのポテンシャルを持つことがわかりました。しかし、取材を進めてみると、人間の言葉以外にも、その利用は広がりを見せていることがわかりました。

黙々とパソコンに向かう社員の皆さん

従業員70人ほどの、会津若松市にあるITベンチャー企業です。自治体のシステム開発などを手がける会社ですが、ことしに入ってからチャットGPTを試験的に導入。実際にプログラムを書かせてみるなど、ソフト開発に利用しているといいます。

リリース直後から可能性に着目してきたという宮森さん

チャットGPT導入の中心的な役割を担ってきた宮森達弘さん。いま取り組んでいるのが、県内のホテルや旅館などの宿泊施設をまとめたデータベースづくり。ネット上の情報からこのデータベースを作成するため、チャットGPTにプログラムを書かせている様子を見せてもらうことができました。

(宮森さん)
簡単なものであれば、指示を出すだけでかなり正確にプログラムを書いてくれます。どちらかというと、どういうものをどういう風に書いてもらうか、指示を出す側の技量やセンスが求められる感じです。

指示を出すと画面にはまたたく間にプログラム言語の羅列が

そう言うと、キーボードを素早くたたいてチャットGPTに指令を送る宮森さん。すると…出てきた出てきた、わたしたちが間近で見たニュース原稿のように、画面にはあっという間にソースコードと呼ばれる、プログラムの内容がどんどん書き出されていきました。人間の言葉である文章だけでなく、コンピューターの言葉であるプログラムもまたたく間に生成できるとは、重ねて驚き。実際の商品開発にどの程度利用しているのか聞いてみました。

導入は不可避だという宮森さん

(宮森さん)
まだ導入には試験的な段階で、実際の開発にどこまで使えるかを探っているところです。しかし、導入は不可避だと考えています。取引先には自治体も多いですし、行政が導入する例も急速に増えていますので、チャットGPTなど生成AI系の需要は今後は飛躍的に増えていくでしょうね。実際にわれわれにとっては非常に便利ですし、会社内でのガイドラインなどの整備を急いで進め、本格的な利用に向けて体制を築いているという段階です。

この会社では、プログラムだけでなく、システムやアプリの利用規約などもチャットGPTに書かせ、業務効率化を図ろうとしているそうです。特に利用規約はネット上に手本にできるさまざまな製品の文書があるため完成度が高いものを作りやすく、社員の負担軽減に役立てられるのではないかと考えているということでした。地方でも行政だけでなく、民間も急速に利用する動きが進んでいる実態がありました。

専門家“副操縦士だと思って”

さまざまな場面で利用が急速に広がる中、懸念はないのでしょうか。特にチャットGPTが出す回答や文章が、事実と異なっていないのかどうかなど、慎重に扱うべきだという見方もあります。生成AIの現状に詳しい専門家は、業務を大幅に効率化できる一方で、個人情報や機密情報の入力で情報漏洩につながるリスクや、AIに判断を委ねてしまわないよう、人間が責任を持ち、慎重に使っていく必要性があると指摘しています。

AIの利用や行政のデジタル化の動向に詳しい武蔵大学の庄司昌彦教授

(武蔵大学 庄司昌彦教授)
AIはパートナーに過ぎず、わたしたちを導いてくれるものではありません。人間が操縦士で、AIが操縦を補助する副操縦士だという関係を理解する必要がある。わたしたちが責任を放棄してAIの言うことを鵜呑みにせず、記事でも論文でも行政文書でも人間が見て判断して外部に出すことが重要。人間とAIの関係を逆転させないようにしながら、正しく使っていくことが求められると思います。

利器として使いこなせるかどうかはわたしたち次第だ

うーん、なるほど。AIが主役にならないように、きちんと人間が責任を持って使わなければいけないというご指摘、もっともだと思います。これだけ便利で強力なツールですから、こうした文明の利器と賢く、うまくつき合っていくわたしたち人間の側の技量やモラルが、いま改めて試されているのかもしれません。

取材よもやま話:“シンギュラリティ”は近いのか

連日、その話題が新聞や雑誌、テレビなどメディアを賑わせるチャットGPT。そのパワフルさから、人間をしのぐ知能が出てくるのではないかという、やや飛躍した印象の話題も盛んに出ています。「2001年宇宙の旅」に「ターミネーター」…確かに知能の面で上回るAIが、人類の危機として描かれる作品は古くから多数あります。

レイ・カーツワイル著「シンギュラリティは近い」(NHK出版)

2045年には、AIの能力が人類の能力を上回るという予測もあります。アメリカの発明家、レイ・カーツワイルなどが主張する説で、“シンギュラリティ(技術的特異点)”と呼ばれます。加速度的にAI(コンピューター)の性能が上がる中、ついにその能力が極限にまで達し、これまで考えられている技術的発展がわれわれの予測を超える時代に突入する、というものです。
大変刺激的な話ですが、複数の専門家に見解を聞くと、”まだ能力的にはその段階ではなく、生成AIが自律的に考え判断し、ましてや人間の脅威になることは現時点では考えにくい”とのことでした。

一方で、取材の中で特に印象に残ったのが、会津若松市の会社が試験的に開発していた自殺予防向けのチャットボット。チャットGPTがスクールカウンセラーを演じ、悩む9歳の子どもの相談に乗るという対話形式のアプリです。やり取りの流れはとても自然で、画面の向こうで答えているのがAIだと言われなければ、本物の人間としか思えないぐらいの流ちょうな受け答えでした。

開発中の自殺予防チャットボットの関西弁版(画像提供:株式会社シンク)
まるで人間と話しているような違和感のなさ

こうした対話の能力を生かし、将来的には亡くなった人の情報を読み込ませ、生前の人と同じように振る舞う疑似人格を生成AIで作ることができれば、伴侶を亡くした人の心を癒やすチャットボットもできる。それが高齢化が進むいまの日本で、孤独なお年寄りを減らす社会課題に向き合うことになるのではないか、とエンジニアの人が話していたのが心に強く残っています。一見、荒唐無稽な話を実現可能なことのように話しているところに、確かな未来を感じました。

どれだけのポテンシャルを秘めているのだろう

インターネットやスマートフォンの登場と同じくらいのインパクトを持つといわれるチャットGPT。まだ人間の受け答えを模倣しているに過ぎませんが、今後こうした技術がどう使われ、発展し、私たちの暮らしがどのように変わっていくのか、関心は尽きません。今後も取材を続けたいと思います。

  • 藤ノ木 優

    NHK福島放送局

    藤ノ木 優

    コンピューターやAIの技術的発展に昔から興味があり、取材を続けています。こうした長い記事も、いずれAIがすべて書いてくれる時代が来ることを願ってやまない。自律思考できるAIが登場したら、対話しながら福島の酒を酌み交わすのが夢。

  • 相原理央

    NHK福島放送局 4年目

    相原理央

    2020年入局、警察担当を経て、会津若松支局で只見線の全線再開や酒蔵の取材を重ね、今春から遊軍。ローマ字表記だとAihara。名前のAIの2文字があり、不思議な縁を感じる。4年目の重責を感じながら、日々取材にまい進しています。

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