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【福島】「国道6号」舞台の夢のレース

被災地駆ける「ツールドふたば」初開催
  • 2023年04月24日

東京電力福島第一原子力発電所の事故による避難指示の解除が進み復興しつつある“福島の今”を国内外に発信しようと、4月15日から2日間、原発周辺地域を舞台とする自転車競技大会が初めて開かれました。

初開催のロードレース

大会名は、「ツールドふたば」。

初日は、JR双葉駅前を出て浪江町、南相馬市をぐるっと回って戻ってくる全長40kmのサイクリングイベントのあと、大熊から双葉まで約6kmを北上するタイムトライアル。

2日目は、双葉町の伝承館から大熊町役場までの13.5kmを駆け抜けるロードレースが行われました。

被災地を走り 復興を体感

初日は、あいにくの雨模様。

それでも、サイクリング大会には7~81歳の約100人が参加し、去年8月にようやく住民の帰還が始まった双葉町を出発しました。

津波で被害を受けて震災遺構となった小学校や海沿いの景色を見ながら、思い思いの速度で走りました。

10歳の息子と参加した山形市の男性

「子どもは震災当時のことを知らないので、サイクリングしながら、震災や原発事故について学べる良い取り組みだと思います」

原発近くのロードを走る

午後は、福島第一原発が立地する大熊町から双葉町まで約6kmのロードコースで行われるタイムトライアルレース。約40人がカテゴリー別に競い合いました。

戦いの主な舞台は、浜通りを南北に貫く国道6号、通称「ろっこく」です。

この道路は、福島第一原発の敷地から1kmあまりの所を通っているため、今大会のコースとなった辺りは、原発事故から10年以上たっても歩行者や自転車の通行が規制されていました。

それが、避難指示解除に伴って、去年8月からすべての区間が自由に通行できるようになったのです。

ここを走れる日を待っていた

原発事故のため長い間走りたくても走れなかった「ろっこく」を通行止めにして行われる特別なレースを、地元の関係者は心待ちにしていました。

いわき市にある平工業高校の自転車競技部監督、小松久勝さんも、その1人です。

指導歴は20年以上。今は市内の競輪場を拠点に練習を行っていますが、東日本大震災と原発事故が起きる前は、毎日のように双葉町や大熊町の道路を通って練習していて、授業がある日は放課後南相馬市まで往復70~80kmほど、休みの日には宮城県との県境に近い相馬市まで往復100kmほど走って、ロード練習を重ねていました。

しかし、巨大地震によって道路に亀裂が入り舗装が波打つなどの被害が各地で発生し、練習環境は一変してしまいました。

小松久勝監督
「道路、ひどかったですからね。走れる状態じゃなかったし、震災後はしーんとしていて、墓場のようでした」

自ら線量測り 練習コース探す日々

しばらくして練習を再開できたものの、ロード練習に適した道がなくなってしまったといいます。

それでもなんとか練習コースを確保しようと、小松さんは、原発事故による避難指示が解除され始めると、走れるようになった道路の放射線量を自ら測って回り、生徒たちが安全に走れる場所を探してきました。

「線量計を常に携帯し、生徒たちに走らせる前に車で確認に行って、ところどころで降りては測っていました。途中でピーって鳴る所があるので、生徒を走らせることができないケースもありました」

コース周辺の放射線量を記録した資料を作って保護者に配り、納得を得ながら、徐々に走る場所を広げていきましたが、それでも不安がつきまとっていたといいます。

小松久勝監督
「生徒たちは10代なので親も気にしていましたし、道の両側に除染で出た土が保管されているのを見ながら走るような道路とか、『ここを走らせていいのか』と迷うこともありました。でも練習しないと大会に出ても良い成績を収められないので、とても困った状況でした」

国道6号の原発周辺の区間は、最近まで避難指示が続いていたため、自転車が通行できるようになったあとも部員を走らせていませんでした。

選手を送り出す小松さんも、出場する生徒たちも、原発のすぐ近くであの「ろっこく」を通行止めにしてレースが行われる日が来るとは、信じられない気持ちだといいます。

「あの近辺を走れるっていう予測が立たなかったので、本当に走れるんだなと感慨深いです。この地域の主要国道の6号線を通行止めにしてレースできる機会はなかなかないので、生徒たちには、自分の目で見て、感じて、楽しんでほしい」

平工業高校自転車競技部 渡邊琉聖選手

「祖父母が浪江町に住んでいたので、原発事故前は国道6号をよく通っていました。復興してきた福島のいまをみんなに見てほしいです」

“ろっこく”でのレース ついに実現

スタート地点で小松監督に見送られ、降りしきる雨の中、約6kmのコースに飛び出していった3人の教え子たち。

直前の取材で「楽しんで走り、結果を出したい」と語っていた3年生の渡邊琉聖選手が、24人が出場した高校生の部で見事優勝しました。

翌日のロードレースでは、一時渡邊選手が先頭に立ちましたが、強い向かい風や横風に苦しめられてゴール前で足が思うように動かなくなり、上位入賞はなりませんでした。

小松久勝監督
「この大会をきっかけに、原発事故後初めて双葉町と大熊町に行くことができました。久しぶりに見た国道6号はずいぶんきれいになっていて、ここでレースができて本当によかった。記念すべき第1回大会の初日で地元の高校に通う自分の教え子が優勝できてうれしいし、強風の中のレースになった2日目もけがなく楽しみながら走り切れたので、自分にとっても、選手にとっても、いい記念になりました。今後また開催されるのであれば、生徒を参加させたいです」

  • 髙野茜

    NHK福島放送局 記者

    髙野茜

    栃木県出身。2019年入局。警察担当を経て南相馬支局。趣味は浪江町でのバスケットボール。

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