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「キッチンカー貸します」福島県田村市の移住促進策がユニーク

  • 2023年05月10日

福島県田村市の移住促進の取り組みがおもしろすぎます。移住者にキッチンカーを無料で貸し出してくれるというのです。そのねらいは一体どこにあるのでしょうか?

移住してきた3人の起業家

ことし3月、福島県田村市で、あるイベントが行われました。カレーにハンバーガー、いれたてのコーヒーとそれぞれ自慢のグルメを販売する3台のキッチンカーが勢ぞろい。実はこれ、田村市に移住してきた店主たちをお披露目するイベントだったんです。

彼らが移住してきたきっかけ。それはまさにこのキッチンカーです。田村市では去年、市内を拠点として新たにキッチンカービジネスを始めたい人を応援するプロジェクトを企画しました。その名も「キッチンカー移住チャレンジ」。最大3人の募集に対して、茨城や大阪など全国から20代~60代まで合わせて17人の応募がありました。選考の結果、選ばれたのは年齢も出身地も異なる3人の男性でした。

なぜキッチンカー無料貸し出し?

※募集は終了しています

田村市がこの取り組みを始めた背景には、原発事故などによる人口減少がありました。2010年に4万人を超えていた人口が、去年には3万4000人を下回るまでに減少。これまでも様々な移住促進の取り組みを行ってきましたが、課題となっていたのが「働き口」の問題でした。そこで、目をつけたのが飲食業、それも実店舗よりも維持費のかからないキッチンカーでの起業による移住促進でした。住んでから「仕事がない」と困るのではなく、まず仕事を決めて生活の基盤を確保したうえで移住してもらおうというのです。

キッチンカーの営業を始めるには、車両だけでも200万円以上かかると言います。それを田村市が無料でリース、出店に必要な基礎設備の費用も支援します。それだけでなく、キッチンカー専門の企業に委託し、収支計画の立て方から商品開発まで、経営に必要なノウハウも提供しました。もちろん、移住にあたっても物件探しから合格者3人が利用できる移住支援金の紹介・手続き、さらには地域の人たちとの交流の機会を作るなど、手厚いサポートをしました。食材の仕入れ先や営業場所の紹介などで支援します。

こうして営業を開始した3店舗、最低居住期間である5年以内に結果を出すことが期待されます。 

夢があるから田村へ来た

「キッチンカー移住」のチャレンジャーに選ばれた近藤拓也さん(36)です。新潟県から移住し、コーヒーのキッチンカーを始めました。学生時代のアルバイトをきっかけにコーヒーの世界にのめり込んでいった近藤さん。コーヒーにミルクで絵を描くラテアートを独学で習得し、かつて世界大会に出場したこともあります。その後、家業を継ぐためコーヒーの世界から離れましたが、心のどこかで「再び、ラテアートを提供したい」という夢を諦めることができませんでした。そんなときに田村市の「キッチンカー移住チャレンジ」の募集を知り、迷わず応募。この地で夢をかなえたいと、移住を決めました。

近藤さんは、こだわりのコーヒーに加えて季節のフルーツを使ったパンケーキを提供することにしました。生地には田村産の米粉を使用。フルーツも田村産のものを取り入れました。こうした商品で田村の農産物をPRすることもチャレンジャーに期待される役割です。

 店の名前は「Paddy Village Cafe」。Paddyは「水田」、Villageは「村」という意味です。田村で暮らしていくことへの決意を込めました。 

近藤拓也さん
少しでもはやく田村の一員になれるように。地元の方と交流して仲間を増やしながら、もっと福島のことを知っていきたいです。

彼らと田村の新たな一歩

キッチンカーのお披露目イベントは、大勢の地元の人たちでにぎわいました。移住仲間の2人も、手応えを感じています。

千葉県から移住してきた渡邉輝さん

渡邉輝さん(22)ハンバーガーを販売
こんなに売れると思ってなかった。「楽しい」というのを発信していきたいし、そこから田村をPRしていきたいです。

埼玉県から移住してきた竹前敬治さん

竹前敬治さん(46)カレーを販売
移住をして助けられていると感じるので、地元の方たちに還元できる事業を展開していきたい。

近藤さん
田村市の農産物をアピールするというのが一つの役目でもありますし、カフェの文化を少しでも多くの人に知ってもらって、楽しんでもらって、日常の一つに取り入れてくれたらうれしいなと思います。

田村でのお披露目初日、3人はそれぞれに手ごたえを感じていたようです。キッチンカー移住というユニークな取り組みが続くのかは、彼らの成功にかかっています。

  • 添田拓郎

    NHK福島放送局 記者

    添田拓郎

    2021年入局。須賀川市出身。県職員を経て、現在、郡山支局で県中地方や農業分野を中心にニュース取材を担当。

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