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【特集】処理水めぐる地元の葛藤 仲買人・旅館経営者

福島 シリーズ震災・原発事故12年 第2回「処理水の海への放出」(前編)
  • 2023年03月16日

東日本大震災と原発事故の発生から12年となるのを前に福島の復興の現状と課題を掘り下げる特集シリーズ。第2回は「処理水の海への放出」についてです。
東京電力は、政府の方針に従って、トリチウムなどの放射性物質を含む処理水を国の基準を下回る濃度まで海水で薄めて「ことし春から夏ごろにかけて」海に放出する計画です。
この問題をめぐるさまざまな立場の住民の葛藤や思いを前後編に分けて特集します。

※2月28日「はまなかあいづTODAY」で放送 ページ下部に動画リンクあり※ 

魚の仲買人は風評被害を懸念

2月26日、東京都内で開かれた被災地の海産物の魅力を紹介するイベント。
ひときわ注目を集めていたのは、いわき市の港から直送された大物のアンコウ。「つるし切り」という手法による、解体ショーです。
包丁を振るっていたのはいわき市の水産会社の代表阿部峻久さんです。

ふだんいわき市の久之浜漁港で地元でとれた魚介類の買い付けを行っている阿部さん。
原発事故のあと、操業できなくなり衰退の一途をたどっていた地元の漁業の復興に携わりたいと5年前に水産会社を立ち上げました。
一時、激減した水揚げ量も徐々に回復。会社の運営も軌道にのってきたいま、阿部さんが懸念しているのは、処理水の海への放出です。

阿部峻久さん
「風評がどこで出てくるのか。魚を扱いたくないとか、食べたくないとなることを懸念しているんです」

さらに不安増す出来事も

2月、阿部さんの不安を大きくさせる出来事がありました。
いわき市沖で水揚げされたスズキから国の基準は下回っていますが、県漁連が自主的に設けたより厳しい基準を上回る放射性物質が検出されたのです。
こうしたケースは、年に1度あるかどうかという程度ですが、処理水の放出後に似たようなことが起きると回復しつつある福島の海のイメージが再び損なわれるおそれがあると考えています。

阿部峻久さん
「放射性物質の検出は、12年前の原発事故の影響だと考えられるが、放出後はそれを処理水の影響で数値が出ているのではないかと言う人も出てくるだろう。分かっている人と分かっていない人がいるので誤解が生じる可能性がある」

“常磐もの”を売り込め

風評をおびえてただ待っているだけではいけない。
そう考えた阿部さんが取り組んでいるのが首都圏などで開いている海産物のPRイベントです。
「常磐もの」として重宝されている福島沖の魚介類のおいしさの魅力と安全性をいまのうちにしっかりと丁寧に伝えることで、風評に揺るがないブランド力と販路を築くのが狙いです。
この日、阿部さんがさばいたアンコウに首都圏の消費者たちは舌鼓をうっていました。

イベントに参加した保護者
「ちゃんと検査をして食べられるというのと、生産者はそれまで以上に考えて気を遣って出荷してくれているんだなとイベントを通じてわかりました。こういう取り組みでいろんなことを知ることで安心して食べられると思いました」

「常磐もの」の販路拡大を意気込む阿部さん

阿部峻久さん
「処理水が放出されることによる風評があるかないかは本当にこれからだが、その前に福島でとれた魚のおいしさとか魅力を発信することによって、風評にならないような状況をまずはつくっていきたい」

観光業界でも模索

地元の観光業界でも風評に負けず、宿泊客を確保していくための模索が始まっています。
県内有数の温泉地いわき湯本温泉で旅館を経営する里見喜生さんです。

旅館では地元産の食材を使ってきたため、原発事故のあとの福島県産の食品に対する風評などで宿泊客は激減し、売り上げは大きく落ち込みました。
12年かけて少しづつ事故前のにぎわいを取り戻してきただけに、処理水の放出によってこれまでの努力が水の泡とならないか不安だといいます。

里見喜生社長
「福島の海に処理水がという情報が全国、全世界に流れることによっていままでコツコツと積み上げてきたものが崩されていくような感じがする」

これまで、旅館で扱う食材について安全性の根拠を丁寧に説明してきた里見さん。
今後、処理水が放出されれば、不安を感じる人からの問い合わせが増えると想定し、旅館としてより丁寧に説明する準備を進めていくことにしています。

里見喜生社長
「いわき市に訪れる方のために信頼、信用を持っていただけるように処理水について説明できるレジュメのようなものを作っていかないといけないと思います。お客様にはきちんと誠心誠意伝えていくのがわれわれの使命でもあるかなと思います」

※リポートの動画は こちら

  • 潮悠馬

    NHK福島局コンテンツセンター

    潮悠馬

    神奈川県川崎市出身。2017年NHK入局。警察取材担当、会津若松支局を経て、現在は福島県政と東京電力の担当。

  • 髙野茜

    NHK福島放送局

    髙野茜

    2019年入局。警察担当を経て南相馬支局。
    栃木県出身。趣味は浪江町でのバスケットボール。

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