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【解説】東日本大震災・原発事故「甲状腺検査」

ゼロからわかる福島のいま 第26回
  • 2023年03月16日

東京電力福島第一原発の事故のあと、福島県内では「甲状腺検査」が行われています。
甲状腺とは何なのか、なぜ検査が行われているのでしょうか?

甲状腺とは?

甲状腺は成長などを促すホルモンを出す臓器で、のどの前側にあります。
私たちの暮らしに身近な海藻や魚介類に含まれるヨウ素を取り込んでホルモンを作っていますが、原発事故などで放出される「放射性ヨウ素」も蓄積する性質があります。
放射性ヨウ素は放射性物質のひとつで、核分裂が起こる際に発生します。これを甲状腺が取り込んで
細胞の遺伝子に傷がつくと、特に子どもは細胞分裂が大人より盛んなことなどから、数年から十数年後にがんになるおそれがあります。

なぜ検査?

12年前の原発事故ではこの放射性ヨウ素が放出されたため、福島県は、子どもの健康状態を調査するため事故の7か月後から子どもの甲状腺検査を実施してきました。
対象は事故当時、福島県内にいた18歳以下で、およそ38万人にのぼります。
検査は任意で、事故後の経過年数や年齢に応じて繰り返し行われています。

去年6月末時点で、これまでにのべおよそ107万人が検査を受けました。
県によりますと、この調査で、去年6月末時点で、「がん」あるいは「がんの疑い」とされた人は296人で、このうち238人が甲状腺の一部やすべてを摘出するなどの手術を受けました。
通常、甲状腺がんは100万人に数人の割合で見つかるとされています。
しかし、たとえば直近の検査では受診した8万人余りのうち23人が「がん」あるいは「がんの疑い」と診断されています。
県の検査では甲状腺がんと診断される割合がかなり高くなっています。

「がん」「がん疑い」 なぜ診断多い?

国連の科学委員会=UNSCEARは2013年に「放射線による明らかな健康への影響が出るとは
考えにくい」と結論づけた報告書をまとめていて、さらにおととし、「超高感度のスクリーニング検査によるもので、福島第一原発の放射線被ばくによるものではない」とする報告書をまとめています。
そして、福島県の専門家会議も2015年度までの検査について「被ばくとの関連は認められない」とする見解を示しています。
一方で、原発事故による放射線被ばくとの関連性が強いとする意見もあります。

「過剰診断」と「早期発見」で議論も

甲状腺がんと診断される割合が高くなっている理由の一つに、甲状腺検査の精度が高すぎるという指摘があります。
たとえば、悪性ではない、手術の必要がないようなごく小さながんまで見つけてしまう過剰診断の可能性が以前から指摘されています。
一方で、精度が高い検査のおかげでがんの早期発見につながっているという見解もあります。
専門家の間でもさまざまな意見があり、継続して傾向を調査する必要があるとしています。

検査のメリット・デメリットの浸透を

県は、甲状腺検査について▽原発事故の健康影響を心配している人にとっては、安心材料になるなどのメリットと▽手術の必要がないようながんまで見つけてしまうなどのデメリットがあるとしています。この点が検査を受ける人にきちんと伝わっているのか、これまでも専門家の間で繰り返し議論されてきました。
「がん」と診断されることは、大きな負担になります。今後も検査は続く見通しですが、メリット・デメリットを合わせてしっかり浸透させていく必要があります。

  • 矢部 真希子

    NHK福島放送局 

    矢部 真希子

    2019年入局。玉川村出身。郡山支局を経て現在は県政担当。

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