【解説】東日本大震災・原発事故「賠償基準の見直し」
- 2023年03月08日
去年12月、原発事故の賠償をめぐり、賠償額の目安となる基準「中間指針」が9年ぶりに見直され、多くの県民に追加の賠償が支払われることになりました。
原発事故の発生から12年もたとうしているのになぜこのタイミングで指針が見直されたのか、その背景を解説します。

中間指針は“賠償額の上限ではない”
原発事故のあと、避難を余儀なくされるなど損害を受けた人たちに迅速な賠償を行おうと、国の審査会は、賠償額の目安となる基準「中間指針」を策定しました。
東京電力はこの指針に基づいて賠償を行っているほか、被害者が賠償に納得できない場合は、国の「原子力損害賠償紛争解決センター」が和解の仲介を行ってきました。
「中間指針」はこの地域の人には少なくともこれくらいの損害が認められるだろうと一定の基準を設けたものです。つまり指針に示された賠償額の目安は上限ではなく、指針を超える賠償も認められることになります。ただ実態はそうとばかりにはなりませんでした。

相次ぐ和解案の拒否
「中間指針」を根拠に、東京電力が紛争解決センターが示した和解案を拒否する事例が相次ぐようになったのです。当時の中間指針は事故の2年後に改訂されたもので被害の実態にあっていないなどと被害者から見直しを求める声があがりました。

最高裁で指針上回る賠償額確定
こうした中、見直しの機運が一気に高まる出来事がありました。
去年3月、原発事故で避難した人などが各地で起こしたおよそ30件の集団訴訟のうち7件について、最高裁判所が中間指針を上回る賠償額を確定したのです。

9年ぶりに指針見直し
国の審査会は、見直しが必要かどうかを議論しその結果、指針を策定した当時は十分に考慮されていなかった損害が認められるなどとして、去年12月、賠償の対象を大幅に広げる指針の見直しを9年ぶりに行いました。最高裁判所の判断が見直しを後押ししたのです。

賠償の対象は148万人
追加賠償の対象となるのは、東電が自主的に支払う地域も含め福島県内42の市町村と宮城県丸森町のあわせておよそ148万人で、賠償額は総額およそ3900億円にのぼる見通しです。
東京電力は請求の受け付け開始日や具体的な手続き方法を3月中にも示すとしています。

見直しを評価する一方で…
ただ、この問題を巡る県民の受け止めはさまざまです。
中間指針の見直しを評価する声は多い一方で、この9年間なぜ見直しが進まなかったのか。
そして、賠償によって事故前の暮らしが戻るわけではないとやるせなさを抱えている住民がいることを
忘れてはいけないと思います。