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原発事故裁判 増え続ける原告 その思い

  • 2023年02月21日

国に原発事故の責任はあるのか-。去年6月、最高裁は「国の責任なし」とする判決を下し、原告の住民は敗訴しました。しかしそれに続く二次訴訟には、新たな原告が増え続けています。「声を上げないと、これから先の子どもたちに残していく未来が間違った方向になる責任を私が負うのではないか」。
原発事故からまもなく12年が経とうとする今、新たに声を上げはじめた住民の思いを聞きました。

福島県伊達市のいちご農家・佐藤紫苑(さとう・しおん)さん(37)と夫の巴胤(ともつぐ)さん(40)は最高裁の判決後の去年9月、原発事故裁判の原告に新たに加わりました。

豊かな土づくりにこだわる佐藤さん夫婦

震災当時、福島市で会社員をしていた紫苑さん。子どもたちへの原発事故の影響を考え、不安な日々を過ごしていました。しかし目に見えた被害が少ない自分たちは、事故の責任を問う立場にないと考えていたといいます。

これまで収穫した作物からも、幸い放射性物質は検出されていません。

子どもたちが外に出られないとか外で運動会が行えないとか、ガラスバッジを首からぶら下げさせられたりとか、そういうときには被害者だなと思います。でも裁判はもっと原発に近い方とか、暮らせなくなった方とかそういう方たちのものという感覚が強かった。無関心じゃないですけど、“当事者”にはならなくていいみたいな。

紫苑さんの考えが変わったきっかけは最高裁で下された、国に責任はなかったという判決でした。

原告弁護団は「全く受け入れられない判決」と述べた

判決文には津波は想定より規模が大きく、仮に国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても事故は避けられなかった可能性が高いと記されていました。

紫苑さんはこの判決を知り、自分の中にある違和感に気づいたといいます。

どこか「やっぱりな」という思いがあった。"小さい言葉"っていうのは、少なからず公にしてもらえない場合が多いと感じることが多い。


しかし、判決文の中には紫苑さんの裁判参加を後押しする内容が、書かれていました。

それは、判決文に併記された裁判官個人の反対意見。4人の裁判官のうちのひとりが、判決を真っ向から否定する意見を30ページにわたって述べる異例の内容でした。

たとえ想定以上の津波であっても国は万が一にも事故が起きないよう、真摯な検討を行うべきであると記していました。

紫苑さんは判決を通して、自分も原発事故の当事者として、未来へ真摯に向き合う責任があると感じて原告に加わることを決意しました。

原告の記者会見に参加した紫苑さん
はじめて公の場で自らの思いを話した

声を上げないと、これから先の子どもたちに残していく未来が間違った方向になる責任を私が負うのではないかと思って、原告団にあとからでも参加しようと決意しました。


二次訴訟は福島地裁で係争中である

最高裁での敗訴を受けて、原告は現在二次訴訟を続けています。

紫苑さんのように最高裁の判決後には687人が新たに参加。一次訴訟と合わせた原告の総数は5710人に増えました。

福島県内の各地で開催された住民向け説明会には若い女性の姿も目立っていました。

須賀川市に避難した女性 新たに原告に加わった

原告は父、母、弟、私、旦那、それから当時子どもがおなかにいたのでその子の合計6人です。これまでの経験は内心思っていても言えないので、こういう場があったから伝えられました。

公害や原発事故の賠償が専門の除本理史(よけもと・まさふみ)さんは、判決文に併記された反対意見によって「想定外」という言葉で「見えにくくなっていた被害」を問い直すきっかけになっていると指摘します。

大阪市立大学教授 除本理史さん

自分たちには被害がないかのように言われることもあるけれども、やっぱり釈然としない生活の変容を受けている。その意味は何なのかを自覚するきっかけになっている。
今回納得いかない判決が出たので、自分も参加して責任を問う側に回ろうと考える方が出てきたのだと思います。

紫苑さんは今、ふたりの息子とも事故や裁判についてお互いの考えを話しあうようにしています。

国から個人への賠償責任を問う裁判なのではなくて、もっと幅広い範囲で私たちの生活を守るための裁判なんだという認識が、判決を聞いて出てきた。一歩踏み出す場所として、裁判に原告として参加することを1つの選択肢として選ぼうと思えたのが、最高裁の判決だったと思います。

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