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福島の"特別な米"で仕込む勝負の酒

  • 2023年02月08日

日本酒のできを競う「全国新酒鑑評会」。福島県はことし、都道府県別の金賞受賞数で10連覇がかかっています。この鑑評会に向けた酒の仕込みに、こだわりの米を使い続ける酒蔵が浪江町にあります。ふるさとのプライドを取り戻そうと酒造りに挑む杜氏(とうじ)の思いを取材しました。

浪江町で、江戸時代から続く鈴木酒造店。その酒は、祝いごとに欠かせないと言われるほど地元で愛されてきました。これまで全国新酒鑑評会で入賞した実績があります。

代表銘柄の「磐城壽(いわきことぶき)」 
海の近くにあった酒蔵は漁師に親しまれていた

東日本大震災で被災し、おととし10年ぶりに浪江の新しい酒蔵で酒造りを復活させました。いま、全国新酒鑑評会に出品する特別な酒の仕込みに挑戦しています。

社長で杜氏(とうじ)の鈴木大介さんです。

鈴木酒造店 杜氏(とうじ)鈴木大介 社長

「これは全国新酒鑑評会の出品を目指している純米大吟醸のお米ですね。地元の浪江町産のコシヒカリのお米になります」

鈴木さんが仕込みに使うのは浪江町でとれたコシヒカリ。全国のほとんどの酒蔵が「酒米」(さかまい)と呼ばれる酒造りに適した米を使うなかであえて地元のコシヒカリを使います。

全国新酒鑑評会の仕込みには約8割の酒蔵が
酒米の「山田錦」(やまだにしき)を使う

こだわりの酒造りをするようになったきっかけは震災と原発事故でした。

鈴木さんは、家族ともども避難した山形で、震災の5日後、インターネットの動画に映し出された浪江の様子を目の当たりにします。

「あ、うち。何もねえや、この辺だべ、あー」「何にもねえや、何もない」

 海のすぐそばにあった酒蔵は津波で全壊し、浪江町での酒造りは一時途絶えました。

「誰もいないところで本当に大泣きしましたね。本当にできないなってすべての記録が無くなっているので、蔵の歴史ごと流された」


被災から8か月後、奇跡的に津波の被害を逃れた酵母を使い、避難先の山形県長井市で酒造りを続けました。

そして、原発事故の3年後には浪江町で米作りが再開されました。

浪江の米を避難先から駆けつけて確認する鈴木さん

鈴木さんは、浪江で作られ、浪江で食べられている米で酒造りを復活させようと、避難先から通い準備を始めていました。

「食べてるお米で挑戦することで、より食べるお米に対しての皆さんのハードルが下がっていきますし、コシヒカリっていうのをわざわざ選んでやってるって形ですよね。傷つけられたふるさとがそのままというのはちょっと耐えられないですね」

新酒鑑評会用に”勝負の酒”の仕込みに
浪江の人がふだん食べているコシヒカリを選んだ

鈴木さんは、震災10年となる2021年に海から離れた道の駅のとなりに酒蔵を再建。浪江でふだん食べられている「食用米」のコシヒカリを使って鑑評会用の酒造りを始めましたが、最初は満足のいく酒にすることができませんでした。「食用米」を使った酒造りならではの難しさ。それは「酒米」に比べ粒が小さく粘りが強いため、味が酒に出にくいことでした。

「お米の溶けが弱いんですよね。なので、やわらかい味を出すというのが一番難しいかなと思っています」

今回はコシヒカリの精米の方法や水を吸わせる時間を工夫し鑑評会に挑みます。福島県の金賞受賞数10連覇がかかることし、鈴木さんは地元の米にこだわった酒造りでふるさとの暮らしが戻りつつあることを多くの人に伝えたいと考えています。

「コシヒカリで(金賞を)取れたってなるとおそらく浪江の人達も喜びを身近に感じる事ができますし、いまの浪江の農環境であったり、自分たちの暮らしてる風土に対しても自信をもてるんじゃないのかなと思っているので、ここはもう浪江のコシヒカリにこだわってやっていきたいと思っています」

ふるさとのプライドを取り戻すために、鈴木さんの挑戦はこれからも続きます。

”浪江のコシヒカリ”で新酒鑑評会に挑み続ける
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