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語り部クロス

クロストーク1

「戦争」「災害」
関心がない人にどう伝える?

【福島】宗像 涼さん(24)
 × 
【沖縄】稲福 政志さん(25)

対話:2022年11月24日

 福島県富岡町出身の語り部 宗像涼さん(24)。震災からまもなく12年がたとうとするなか、「周囲の関心の薄れ」や「東日本大震災を知らない世代へどう伝えていけばいいのか」悩んでいました。そうした中、宗像さんが「伝え方」を学ぼうと訪ねたのが沖縄です。
 出会ったのは、大学生の時から沖縄戦について語り始め、県内外から訪れる人たちに興味・関心をもってもらう工夫をしながら伝えている稲福政志さん(25)。
語る内容は違っても、伝えたいという思いは同じ。
戦争や災害を各地で伝える語り部同士の対話の記録です。
(福島放送局 アナウンサー 武田健太/ディレクター 佐野風真)

PROFILE

宗像 涼さん(24)

宗像 涼さん(24)

福島県富岡町出身。小学6年生のとき、原発事故により、福島県中心部にある郡山市に避難。2019年に、すでに避難指示が解除されていた富岡町に戻り、“ふるさとを忘れないでほしい” と地元のNPOで語り部として働き始める。震災から時間がたつにつれて周囲の関心が薄れてきていると感じるなか“伝え方”に悩んでいる。

稲福 政志さん(25)

稲福 政志さん(25)

沖縄県那覇市出身。観光や修学旅行で沖縄に来た人などを案内。大学生のときに祖母から沖縄戦の話を聞いて衝撃を受け、県内外の人に沖縄戦について語り始める。聞いてくれる人が興味・関心を持てるようにワークショップを取り入れるなど工夫をしながら語り部の活動を行っている。

INDEX

  • 生まれ育った地元が好きだからこそ伝え続ける
  • 言葉が届くタイミングは人それぞれ
  • 興味・関心がない人には “きっかけづくり”を大事に
  • 経験している人が語る言葉の重み

写真1

1.生まれ育った地元が好きだからこそ伝え続ける

稲福稲福

よろしくお願いします。稲福政志といいます。沖縄の施設や資料館だったり、観光地だったり、いろいろな所に連れていくガイドをしています。

宗像宗像

福島県富岡町から来ました宗像涼といいます。個人ではなく団体に所属して語り部として活動しています。富岡町という被災地をご案内しています。

稲福稲福

もともと僕は沖縄に関心を持っていなかったし、別にそんなに熱い思いがあったわけでもないんです。でも、フィリピンやアメリカに住んでいる親戚が沖縄に来てくれたときに水族館だとか首里城に連れて行ったんです。そのとき自分自身、沖縄のことを何も知らないなと、おもてなしするつもりが何も話せなくて。それじゃあだめだなと思って勉強を始めて、おじいちゃんおばあちゃんに沖縄戦の話を聞いたときに、ちゃんと自分は沖縄に向き合わないといけないって思ってガイドを始めました。

宗像宗像

小学6年生のときに原発事故で福島県の郡山市に避難しました。そのあと20歳になって専門学校卒業のタイミングで親と一緒に戻ってきました。たまたま専門学校のときに先生だった方が富岡に住んでいて、語り部団体の仕事をしていると。それで、誘われてこの町のためにやろうと思って町を案内したり震災のことを伝えたりし始めました。僕ももともと富岡町出身だけど町について全く知らなかったんです。まず勉強しないとしゃべれないと思ってほかの語り部についていって勉強して。図書館で勉強したりもして。それでまずは台本を作って本格的に語り部を始めました。月5~6回ぐらい学校、団体、企業さんとかに伝えています。

稲福稲福

続けるモチベーションってどこにあるんですか。

宗像宗像

最初にやりたいなと思ったきっかけが、最初にご案内した企業さんのとき。ちゃんとご案内もできなくて、体験談とかもちょっと話したりしたんです。そのときに若い人が「聞けて良かった。今まで年齢がちょっと上の方のお話を聞いてきたけど、若い人の目線からの話は聞いたことがなかった」って最初に言われたんです。あ、若い人の話を聞く機会があんまりないんだって思って。そこからたくさん活動するようになりました。それで自分の町、自分の地元をいろんな人に知ってもらえるというのが、うれしいですね。

稲福稲福

確かに。

宗像宗像

楽しいというよりはうれしい。

稲福稲福

うれしいですよね。

稲福稲福

全く一緒です。いろんな地域から来てくれたりするからうれしいし、全然沖縄と関わりがなかった人たちとかが沖縄を好きになってくれたり、また来てくれたりとかしてくれるとうれしいし楽しいしやっててよかったなと思ったりしますよね。僕のモチベーションは、自分が沖縄のことが好きだからです。自分が生まれ育った場所だから好きでいたいという気持ちもありますね。

写真2

2.言葉が届くタイミングは人それぞれ

宗像宗像

傷つく言葉というのは、「福島県って住めるの?」と言われたりするんです。いや、住めるからって。でも、結局住めない時期があったから「被災地は住めないんじゃないの?」という人たちもいたりはする。

稲福稲福

時が止まってアップデートされてないってことですよね。

宗像宗像

そうそう。そのときからもう全く興味関心はなく、そのままだという方もいる。

稲福稲福

自分は沖縄好きだけど、県外の人と話すと、「米軍基地についてどう思ってんの」とか、「戦争大変だったね」って、そこしか聞かれないということがすごくつらいんです。自分は沖縄のこと好きなのに、外から見たらかわいそうだよね、みたいな目線で見られるのがすごく嫌だったんです。だからこそいろんな人に知ってほしいというのはあって。

宗像宗像

福島でも、興味関心を持たないで、話しているときに寝ている人とかいるんです。

稲福稲福

(沖縄でも)修学旅行とかでやっぱり話していてもおしゃべりしていたり寝てたりとかはある。でもその人たちにとって、やっぱりそれぞれタイミングがあると思ってて。気づくのは今じゃなくてもいいと思ってるんです。でも、できるだけその人たちに、今じゃない、後につながるきっかけを残してあげられるか。例えば修学旅行で沖縄に来るんだったら、1つでもいいから思い出を作ってもらうとか。そうすると、結構大学生になって戻ってくる人たちとかもいたりするんです。だから今は届いてないかもしれないけど、その人の中に何か種を植え付けることができれば…

宗像宗像

育つまでね。

稲福稲福

うん。それがいつか、何年後、10年20年後かもしれないけど、何か戻ってくれば、やる意味はあるのかなと思いながら、そういう場面でも、自分もそういうことを思って頑張ろうと思っています。

宗像宗像

それは確かにありますね。

稲福稲福

でも僕ら自身も気づいたタイミングってあるわけじゃないですか。

宗像宗像

そうですね。すごく若いうちではなかったんで。

稲福稲福

ですよね。だからそれは人によると思うから。だから続けることが大事だなというのはすごく思います。

写真3

3.興味・関心がない人には “きっかけづくり”を大事に

宗像宗像

小・中学生はもう東日本大震災の記憶がない世代なので、そういう子たちが「うーん」ってなってるのかなというのはある。やっぱり「お勉強ですね」という感じなんです。

稲福稲福

やり方でいうと、修学旅行の受け入れ授業とかやらせてもらっていて。ワークショップ形式というのを取り入れていますね。例えば、グループに分けて戦争で亡くなった方の名前を渡すんです。この人がどういう亡くなり方をしたのか、それを調べてきてくださいといって資料館に行くんですよ。資料館の中には証言集とかがあるので、その人の娘さんとかお知り合いの方が証言を残していて、それを見てどういう戦争の被害にあったのかというのをそれぞれ各自で調べてもらうんです。そしてチームごとに発表してもらうとか。軽くなりすぎるのもよくないとは思うんですけど、自分事として捉えられるワークショップも大事かなと思っています。

宗像宗像

福島はまだ12年目だけど、若い子たちがどう学んでいくのか考えるという似たようなところも沖縄でもあるんだなと感じましたね。

稲福稲福

語り部活動とかって過去の歴史を知ることによって自分たちの未来につなげるものじゃないですか。これって自分たちのことなんですよ、自分たちの未来をしっかり守っていくためなんですよ。学ばないといけないことなので、少しでも届いてくれるといいなと思います。

稲福稲福

「僕は生まれ育った場所が好きだけど、あなたにとってそれはどこ?」というような話し方をするようにしていて。やっぱり自分は生まれ育って住んでいるから沖縄のことを思えるけど、県外から来た人とかが同じような感情が芽生えるかといったらなかなかそうでもない。バックグラウンドが全然違うので、そこをできるだけ埋めるためにも何か共通の話題を見つけることをすごく意識しています。それこそ、今回も福島から来られるってことだったから福島のことを調べたりだとか、福島とかの震災がテーマになっている映画を見たりとかしました。たぶんお互いに地元があって、お互い大事にしているものがあると思うんです。お互いが尊重しあえてリスペクトできれば、お互いの話が入ってくると思うんです。

宗像宗像

なるほど

稲福稲福

入り口に映画の話だとか、音楽の話をしている。沖縄の有名なアーティストが結構いるけどみんな地元は違うんですよ、沖縄の中でも。島出身の人たちは島出身なりのバックグラウンドがあるからこそ、それを歌詞に込めて歌うんだよとか。そうするとどんどんその土地その土地のカラーが見えてきて。最初は“楽しい”でいいと思うんです。楽しいから入って、でもどういう思いでそういう人たちが活動してるのかとか、どういう思いでこの歌が書かれたのかとかを考えると、どんどん沖縄の明るい部分だけじゃないところが見えてくるんです。そこからまずは身近に感じてもらって。それで興味を持ってもらうということを意識していますね。

宗像宗像

そうですね。まずは興味をもってもらうことが大事ですよね。聞いた情報だけじゃなくて実際来てみたら、「あ、こういう感じなんだ」という人が多い。最初のきっかけが人それぞれ違って、それで来る来ないが変わる部分がありますね。

写真4

4.経験している人が語る言葉の重み

稲福稲福

僕は沖縄戦の当事者ではないじゃないですか。自分の経験を話しているわけでもないですし。あくまで、読んだ本の話をしていたりなので、沖縄から遠く離れた人をなかなか想像させることができない。そういう人たちに、当事者意識を持ってもらうことって難しいじゃないですか。

宗像宗像

難しいです、難しい。

稲福稲福

宗像さんは当事者ですから、受け取る側からしたら、やっぱりそこの言葉の重さはちゃんと伝わると思うんですけど、何を伝えたいですか?

宗像宗像

僕は体験したことを全部わかってほしいとは言わないんです。そういう出来事がいつかは起きてしまうかもしれないというのが大前提だと伝えています。起きる可能性はゼロではない。そういうときに、避難したり、逃げたりしなきゃいけないという“覚悟”をみんな持たなくてはいけないよというのは言っています。そのことをちょっとでも知ってもらえれば。他人事からちょっとでも自分事化する。それでいつか起きるかもしれない被害を減らせるかもしれない。

稲福稲福

そうですね。やっぱり僕らの世代はまだ直接的に体験した人の話を聞けた世代なので僕らの世代がどうするかでこれから本当に変わってきますね。

宗像宗像

そうですね。今回沖縄に来て「伝え方」を学んで、そのヒントが自分の中で見つかり始めたかもしれないです。ずっと頑張っていこうと思えました。

稲福稲福

いいですね。僕もずっと続けていくので一緒に頑張りましょう!

クロストーク イラスト

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