浜通り
汗と涙の“はまどおり”
東京都、調布市。ここに小さな福島がある。
居酒屋はまどおり。
相馬のツブ貝、会津の馬刺し、田村のイワナ、南相馬の辛み漬け。
店主が選び抜いたこだわりの福島産が、人気のお店だ。
店主の田中和人さん、56歳。
原発事故が起こるまで、福島とは全く縁もゆかりもなかった田中さんが、
福島のファンになり、福島愛が高じて居酒屋まで開店させることになった原点は、
田中さんが東電のグループ企業に勤めるサラリーマンだったことにある。
2011年、原発事故で避難してくる人の受け入れを手伝うため、埼玉に向かった田中さん。
そこで見たのは、大型バスに揺られ数千人の人が避難してくるという、惨状だった。
「大変なことが起こった」
はじめて、そのことに気づかされ田中さん。
電気事業とは全く異なる営業マンではあっても、東電に関わる人間として、責任を感じずには居られなかった。
すぐさま、長期で休みをとり、田中さんは混乱を極める南相馬にボランティアで向かった。
体育館の避難所に、数百人が寝泊まりしている中、田中さんは意外な光景を発見する。
「鼻ピアスをしている若者がおばあちゃんの足をさすっていたり、大変な状況の中でみんなが支え合う姿に感動しました。東電とか加害企業とか関係なく、ただ純粋にこの人たちが好きだと思いました」
さらに、田中さんの福島愛を決定づけた人が居る。
田中さんと、一緒にボランティアをしていた、南相馬出身の高村美春さんだ。
当時、自分の素性を隠してボランティアをしていた田中さん。
ボランティア仲間の間でも東電の悪口が出たり、東電お断りと張り紙を出した飲食店などを見ていただけに、打ち明けることができなかった。
そんな中、故郷のために頑張る高村さんだけには、自分の素性を隠しておけないと、ある晩打ち明けた。
「帰れ!といわれるのを覚悟で、ボロボロ泣きながら言いました」
すると翌日、高村さんはボランティアの人たちのために作った帽子を笑顔で田中さんに渡した。
「これをかぶって、頑張りましょう」
自分を仲間として受け入れてくれたことが、田中さんは心底嬉しかった。
2年後、田中さんは会社を辞め、居酒屋はまどおりを開店。
福島を長期的に応援できる方法を考えての決断だった。
旨い福島、優しい福島、仲間と思ってくれる福島のために、田中さんは今日も福島をPRし続ける。
居酒屋はまどおり (定休日 日曜・祝日 17:30~23:00(L.O22.:30)
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