浜通り
77歳、遊ぶ
橋本尉記さん(やすのり)
【77年、遊ぶ。】
誰もやってないことをするのが、3度の飯より大好物。そんな、ぶっ飛んだポジいちゃんがいる。
橋本尉記さん、77歳。髭は山羊のように長く、へへへといつでも楽しそうに笑う。
南相馬市の沿岸部、小高区村上地区。津波で人が新たに家を建てられなくなった場所に、橋本さんは毎日通っている。小高い山の中腹にある古い小屋を借りて、ここで日夜、誰もやってないことにチャレンジするのが、橋本さんの生きがいだ。
橋本さんの自慢の一品は、例えば菊。3年かけて1メートル以上に根を伸ばし、それを流木のような木に這わせると、巨木から花が咲いたような姿になる。
「人と違うこと、違うこと、ってやってたら、こんなことになっちまった、へへへ」
誰も使わなくなったガラクタも、橋本さんは大好きだ。
草刈り機の先に、湾曲した鉄板を取付けると近くに川に向かう。これで船を動かそうというのだ。
エンジンをかけると、見事に船が走り出した。
「新しい物には興味がない。古い物を自分のしたいように作るのが好きでな」
人がまずやらないことと言えば、橋本さんはこんなこともしている。
歌が得意な橋本さんは、月に一度、地域の高齢者用デイケア施設などで、歌を披露。いわゆる慰問活動だ。
変なものを作るのも含めて、人を楽しませたり、喜ばせたりすることが、橋本さんは好きなのだ。
2011年3月11日。
橋本さんが生まれ育った沿岸部の村上集落は、高さ9m以上の津波に襲われ、壊滅的な被害を受けた。
家が流され、家族同然だった62人の仲間が亡くなった。
新潟に避難した橋本さん。ひと月経った4月、避難所の体育館の空気を少しでも和らげようと、得意の歌を唄った。そして、歌い終わって帽子をとりお辞儀をすると、橋本さんの坊主頭には、顔の落書きがされていた。
避難所がはじめて笑いに包まれた。
人がやらないことをやる。そして、人を喜ばせたい。ポジぃちゃん、橋本さんの意地だった。
誰も住めなくなった村上に毎日通い、墓も守る。
「馬鹿なことをやって、訪れた人たちを少しでも楽しませたい。そして、故郷のことを忘れないでいてほしい」
橋本さんは逆境をはねのけ、いつでも誰かを思っている。
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