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これからどうなる?福岡県の“人口”

“人口増”の粕屋町と“人口減”の岡垣町 それぞれの町の取り組みは
  • 2024年04月30日

    【福岡×人口問題】あなたのまちの将来は?

    国立社会保障・人口問題研究所のデータをもとに地図化

    いま、国の研究機関が発表したある数値が福岡で話題を呼んでいます。それは2020年の人口を100とした場合の2050年の推計人口指数。全国的に100を下回る=人口が減少する自治体が相次ぐ中、福岡では福岡市をはじめとする福岡都市圏の7つの市と町(福岡市、福津市、志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町)で人口の増加が見込まれているのです。一方、その他の9割近い自治体では人口は減る見込みで、中には住民の数が2020年の半数以下になると推計されている町や村も。福岡県で今何が起きているのか?取材しました。(NHK福岡放送局 松木遥希子)

    “増加率1位”の粕屋町では

    町の中心部にあるJR長者原駅

    県内で最も人口増加率が高い見込みの粕屋町。現在の住民はおよそ4万8000人で、2050年には5万2000人を超えると推計されています。町内にはJRの駅が6つあり、福岡空港まで車で10分ほど。九州自動車道の福岡インターチェンジがあるほか、福岡都市高速も通っていて、利便性の高さが人気を呼んでいます。

    特徴は住民の平均年齢にも表れています。41.6歳と県内の市町村で最も若く(2023年10月時点)、生まれてくる人が亡くなる人より多い「自然増」がある全国でも珍しい町です。

    子育てしやすい町を目指して

    かすやこども館

    町が力を入れているのが子育て支援です。中心部にある「かすやこども館」は0歳から18歳までが利用可能で、乳幼児の遊び場に加え、体育館や中高生向けの自習スペースもあります。午後8時まで開いていて職員が常駐しているため、子どもたちが安心して過ごせる場所になっています。

    乳児の母親

    とても便利で助かっています。遊び場にいる保育士の先生たちや同じくらいの子どもを持つお母さんたちと話ができるのもうれしいです。

    乳幼児の母親

    この春、熊本から引っ越してきました。粕屋町は子育てに力を入れていると聞きましたが、確かに小さい子どもが多く活気がある印象です。

    町内には小規模のものも含めると保育所が12か所あり、待機児童はほぼいないということです。こうした施設が充実していることなどから転入者が増えて税収も増える中、町では今2か所目のこども館を建設する計画を立てています。

    住宅需要も高止まり

    戸建て住宅の建設予定地(粕屋町)

    人口増加を背景に町内では宅地開発が相次いでいて、売れ行きも上々だといいます。最寄り駅から歩いて5分のところにある空き地には、ことし6月に戸建て住宅が完成予定ですが、不動産会社によると、まだ建設が始まっていない段階で早くも問い合わせが相次いでいるということです。

    こうした状況に県内の不動産に詳しい専門家は。

    福岡県不動産鑑定士協会 高田卓巳さん

    福岡県不動産鑑定士協会 高田卓巳さん
    「福岡市の中心部の地価高騰によって、粕屋町であれば戸建てがほしいという消費者にとって魅力的な物件がまだあります。今後もニーズに合う物件が供給されていけば、人口は増加していく可能性が高いと思います」

    粕屋町 箱田彰町長

    粕屋町 箱田彰町長
    「将来を担うのは子どもたちなので、子育て世代が満足できるような町作りを進めています。子育てにまつわる保育や教育のニーズは多様化していて、それらへの対応には財源が必要です。粕屋町ではまだ開発の余地がある場所が広く残っているので、企業誘致のほか、住宅街や商業地の開発など複合的な開発を進めて財源の確保も同時に行っていく方針です。また、昨年度「市政対策室」を新設して市政への移行も目指していて、町のブランド力の向上にも努めていきます」

    コンパクト化にかじを切る町も

    玄界灘に面する自然豊かな岡垣町

    県内ではこうした町がある一方で、人口が減ることを見越してコンパクト化にかじを切り、動き出した町もあります。福岡市と北九州市の間に位置する岡垣町はベッドタウンとして発展してきましたが、2010年をピークに人口は減少していて、現在の住民は3万人余り。少子高齢化が待ったなしの課題として立ちはだかる中、町はコンパクトシティー化を進めるための「立地適正化計画」を策定しました。

    「立地適正化計画」って?

    岡垣町の立地適正化計画

    立地適正化計画とは、財政などの面で自治体が持続可能な運営をするために特定の区域を定めた上で住むエリアや病院、商業施設といった都市機能が集まるエリアなどを誘導するもので、国がパッケージを作っています。岡垣町ではJR鹿児島本線の海老津駅と町役場の2か所を中心に誘導先の区域を定めました。

    駅前の町営駐車場
    都市建設課
    秋武重成課長

    JR海老津駅は博多方面、小倉方面に電車1本で行ける利便性の高い駅です。そうした駅の駅前の1等地でありながら、今は駐車場や小さい山などが点在しているほか、古くからある駅のそばの住宅地では住民の世代交代が思うように進まずに空き家が目立つ場所もあるなど、土地の有効活用が長年の課題となってきました。ここをもっと都市的な用途に変えられたらと考えています。

    岡垣町では駅前など誘導先の区域内で一定の要件で開発を行った業者に対し、最大で5000万円の交付金を支給するという全国でも珍しい条例を制定したほか、区域内への移住を促すために、住宅を取得した人には奨励金を出しています。一方、町では今ある集落は災害の危険がある地域を除いてすべて維持する方針で、計画はあくまでも20年、30年先を見据えた“ゆるやかな移住”を促すためのものだとしています。

    もう一度にぎわいを

    海老津駅前の商店街

    かつては店が建ち並び、大型商業施設「寿屋」もあったという海老津駅周辺。年末はすれ違うのも難しいほどのにぎわいだったといいます。今も商店を営む人たちからは、計画に期待する声も寄せられています。 

    電気店
    井上雅博さん

    僕が子どものころは「寿屋」に加え、本屋さん、おもちゃ屋さん、天ぷら屋さん、それに喫茶店などありとあらゆる業種の店があり、買い物に来た車が渋滞することもしょっちゅうでした。人口が減少する中、元どおりとは言いませんが、もっと人が集まって活気があるような、そういう町になったらいいなと思っています。

    岡垣町 門司晋町長

    岡垣町 門司晋町長
    「全国的に人口減少が進む中、福岡都市圏を除けばそれぞれの自治体がこうした取り組みをせざるを得ない状況に追い込まれています。しかし、たとえ岡垣町が立地適正化計画を作ったことで持続可能な期間が少し長引いたとしても、それは岡垣町だけのことです。私たちは北九州都市圏や福岡都市圏で生活しているので、全体の人口が減るというのは、日本にとっても、福岡県にとっても、岡垣町にとっても大変なことだと思っています。町として少しでも持続可能につながることに取り組みますが、根本は日本の人口が減っていくというのが一番の問題ではないでしょうか。今私たちがやっているのは、病気でいえば対症療法みたいなものなのです。根治治療をしなければ、この対症療法で持続可能にしていく意義が出てこないと感じています」

    取材後記

    ことし1月、有識者グループが人口を8000万人の規模で安定させたうえで、成長力のある社会を目指して官民挙げて取り組むよう政府に求めました。これを受けて超党派の国会議員が人口減少対策の議論を始めました。その後「消滅可能性自治体」や「自立持続可能性自治体」なども発表されましたが減少傾向は変わらず、県内で最も人口増加率が高いとされた粕屋町でさえ、実は昨年度、30年ぶりに人口が減少しました。近年の急激な出生数の低下などが影響して想定以上に人口減少が進む可能性も十分にある中、自分の住む地域の将来像がどうなるのか、今のうちからひとりひとりが考える必要があると感じました。

      • 松木遥希子

        NHK福岡放送局 記者

        松木遥希子

        2006年入局、県内出身。今回の取材で粕屋町の駕与丁公園とバラ、岡垣町のおいしい地下水を知りました。

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