韓国 ソウル市の水害対策は
- 2023年08月08日
去年8月の大雨で半地下住宅の一家3人が亡くなるなど大きな被害が出た韓国の首都ソウル。大雨による犠牲者をなくそうと、いま、新たな対策を進めています。毎年のように記録的な大雨に見舞われている福岡の私たちにとっても参考になると考え、現地を取材してきました。また、日韓関係が改善に向かう中、ソウルの街で感じた変化もお伝えします。
浸水リスクの高い“半地下住宅”
映画「パラサイト 半地下の家族」をみたことがある人も多いですよね。映画の中では半地下の住宅が浸水するシーンがありますが、架空の話ではありません。

実際、ソウルでは去年8月、1時間に140ミリ以上の記録的な大雨が降り、半地下住宅の1家3人が逃げ遅れて、浸水した住宅の中で亡くなるなど大きな被害が出ました。このため、ソウル市はいま急ピッチで対策を進めています。
ソウルに20万戸以上ある半地下住宅

私はことし6月にソウル南部の地区を訪ね歩いて取材しました。その時に驚いたのが半地下住宅の数の多さです。ソウル市によると、その数は20万戸以上!

そもそもどうしてこんなに半地下住宅が多いのか。もともとは1970年代に北朝鮮との緊張関係から防空ごうとして作られたのが始まりとされています。

その後にソウルで人口が増加して住宅不足が深刻になると、政府は法律を改正して半地下のスペースを住居として利用できるようにしました。こうして、家賃が安い半地下住宅に比較的所得の低い人たちが多く暮らすようになったということです。

去年の大雨では大量の雨水が流れ込み、家具はすべて捨てました。引っ越しして地上の住宅に住みたいですが、経済的な理由でできません。
半地下住宅の浸水を防げ!
どうすれば半地下住宅の浸水被害を防げるのか。ソウル市はいま対策を進めています。
その一つが止水板の設置です。

浸水リスクが高いと診断されたおよそ1万5000戸を対象に無料で設置しています。

しかし、換気や採光の必要があるため、止水板で窓のすべてを覆うことはできません。つまり、大雨が降ると窓が割れて浸水する危険は残ったままです。障害があるなどの理由で1人で避難できない人たちは、誰かが手助けする必要があります。
地域で“災害弱者”を助ける
そこでソウル市が新たに設けたのが、住民同士で助けあう「同行パートナー制度」です。

対象となるのは、障害や病気などの理由で自力での避難が難しい半地下住宅の954世帯です。世帯ごとに、市の職員や地区の住民の代表など5人ほどを市が事前にマッチング。浸水の予報が出れば市の職員が情報を伝達し、近くに住む住民代表などが家まで出向いて避難を手助けするという仕組みです。

1回の出動につき、市は手当として45000ウォン、日本円でおよそ5000円を支給するほか、連帯感を高めるために半地下住宅の住民と会食すれば、1人20000ウォン、日本円でおよそ2200円を補助することにしています。


ソウル市治水安全課のチェ・ヨンホ課長に同行パートナー制度の狙いを聞きました。

去年の豪雨では道路が浸水していたため、119番通報から救助隊の到着まで50分かかりました。近くに住む人なら“災害弱者”を事前に避難させることができます。住民同士の助け合いを促すために会食代の補助というインセンティブも与えることにしました。
浸水予測システムも開発
ソウル市はさらに浸水を事前に予測するシステムも開発しています。韓国の気象庁から送られる降水予測のデータと地形のデータなどを合わせて、浸水する地域を3時間後まで予測。10分ごとに浸水の程度を色分けして地図上に示すという仕組みです。


浸水を正確に予測できたかを検証する必要があるので、ことしは関係機関だけでシステムを使います。信頼度を高めて来年からは市民にも公開できればと思います。同行パートナーによる事前の避難誘導などにも活用できます。
大雨による被害をどう減らすか、特に“災害弱者”の避難支援は大きな課題です。日本では、誰が避難を手助けするか事前に計画を作成するよう国が自治体に努力義務を課していますが、福岡県内では2割ほどしか完成していません。歴史的に関係の深い韓国と福岡が、共通する防災上の課題について互いの取り組みを参考にすれば、よりよい対策のヒントが得られるかもしれないと感じました。(記者 平山明秀)
日韓関係改善でソウルの街に変化
滞在中は、日韓関係の改善による変化も感じました。日本のある商品が品切れ状態と聞いて、訪れたのは韓国のコンビニ。

ある商品とは、日本製の缶ビール。日韓関係が悪化していた4年前には不買運動も起きて、コンビニから撤去されていた時期が続いていました。去年の後半からようやく販売が再開され人気を集めています。


「最近、韓国国民の日本への感情がよくなったので、日本製ビールもよく売れています」。

一番人気は、福岡の工場でも製造されているこちらの商品。生ビールのような泡が人気で、取材した時は品切れ状態でした。


「みんな入荷を心待ちにしています。生ジョッキ缶の人気に影響されて、売り上げが低調だった他の日本製のビールも人気が増しています」。
K-POPアイドルを目指して
新型コロナの入国制限の緩和もあり、日韓の文化交流にも再開の動きが。

建物の一室を訪れると、中ではK-POPの音楽に合わせてダンスの練習をするたくさんの若者たちがいました。

こちらのダンススクール「アコピア」では、K-POPプログラムという短期留学のコースでレッスンを受ける日本人が増えていると言います。「NiziU」のメンバーも輩出したこのスクール。先輩に続こうと生徒たちは猛特訓していました。

「半分以上は日本から来ています。日韓親善につながることを期待しています」。

中には福岡県から来た15歳の男性も。日本の通信制の高校の1年生で、5月からソウルで一人暮らしをしています。韓国語を一から学びながら、毎日ダンスや歌の練習に励んでいるそうです。


取材に訪れたこの日は、初めて受けるというオーディションに向けての練習。歌やダンスに加えて、韓国語での自己紹介や受け答えにも取り組んでいました。

K-POPアイドルになりたくて来ました。オーディションで絶対に合格します!
4年前には日本製品の不買運動が起きるなど一時関係が冷え込んでいた日本と韓国ですが、今回の取材では関係改善の影響を感じる場面が多かったです。取材した場所以外でも、街中では日本でも人気のバスケットボールをテーマにした漫画の映画の広告や日本式の居酒屋が数多く見られたり、日本人だと分かると日本語で話しかけてくれる韓国人の方も多くいました。韓国から福岡を訪れる旅行客も増えているそうで、距離がとても近い韓国と福岡のつながりが今後さらに深まっていくのではないかと感じた取材でした。(ニュースディレクター 丸山めぐ)