ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. マナーだけに頼れない… 背景に切実な事情

マナーだけに頼れない… 背景に切実な事情

  • 2023年04月11日

    ピンクの専用エレベーター 博多駅に

     

    ことし3月、博多駅の商業施設「JR博多シティ」に、車いすやベビーカーの利用者などの専用エレベーターが設置されました。
    ご覧の通り、床や扉、周囲の壁にいたるまで全面ピンク色。
    あの『どこでもドア』をほうふつとさせるデザインが施された背景には、エレベーターの利用をめぐる切実な事情がありました。

    2階から1階に降りたいだけなのに・・・共感呼んだ訴え

    渋谷さんが投稿したツイッター

    「2階から1階に降りたいだけなのに。人が多くて乗れなくて15分ぐらい待ってた。
    トイレにも行きたくて、障害があって我慢できないから漏れとの戦い」

    発信したのは、車いすを利用するユーチューバーの渋谷真子さんです。
    渋谷さんは去年、エレベーターに乗れなかった時の心境をSNSで訴えました。
    投稿は瞬く間に拡散し、多くの共感の声が寄せられました。

    渋谷真子さん
    「エレベーターが到着するのに時間がかかって、来たら来たで人がたくさん乗っていて、乗れませんでした。トイレにもすごく行きたくて。ほかの歩ける方たちは、階段とかエスカレーターとかの選択肢があるなかで、どうなんだろうか、という思いでつぶやきました。ただ、車いすユーザーにとってはあるあるな話で、そういうもんだよね、という思いもありました」

    全基が「優先エレベーター」だったのに

    その現場となったのが、JR博多シティです。当時はピンクの専用エレベーターは設置されておらず、
    すべてのエレベーターが「優先」とされていました。
    ただ、車いすの渋谷さんに、スペースを空けてくれる人は現れませんでした。

    デパートなどの途中の階では、エレベーターが満員でなかなか乗れないケースがあります。
    車いすやベビーカーの利用者にとって、今いるフロアから移動できない深刻な問題です。

    渋谷さんの投稿にはさまざまな意見が寄せられました。

    「誰も声かけしてくれないの?」
    「正直このシチュエーションは想像しなかったです。やっぱり言われないと気づかないことってありますよね」
    「エスカレーターも利用できるのであれば、できればそちらを利用してほしいですね」

    中には、解決策のひとつとして、「自分から譲るよう声をかければいいのに」という声もありましたが・・・

    渋谷真子さん
    「いやあ、自分から譲ってくださいとはなかなか言えませんよ。みんなも苦労してエレベーターに乗り込めたのかなと想像すると、譲ってくださいとは言えないなと思いますね」

    確かに、視線をそらして乗り続ける人たちに向かって「譲ってください」と声をかけるのはなかなかハードルが高そうです。
    仮にお願いする場合も、声かけのたびに精神をすり減らしそうです。

    エレベーターに乗れないベビーカーの親子

    祝日に再度、同じ商業施設を訪ねると、やはり、エレベーターに乗れずに困っている多くの人たちに遭遇しました。
    中でも印象的だったのが、8階のフロアで出会った3人の小さな子どもを連れたお母さんの姿です。
    帰省のついでに立ち寄ったそうで、左手でベビーカー、右手にはキャリーケースを持っていました。

    ただ、時間はあいにくのお昼どき。上の階にはレストラン街があるため、エレベーターの扉が開いても開いても人がいっぱいで、乗り込むことができずにいました。

    母親「ベビーカーを利用していると、乗れないことはよくあります。子どもが3人いてエスカレーターも難しいので、ちょっと困ります。ほかの皆さんも順番を待っているので、ずかずかと乗り込みにくいです」

    ベビーカーが乗れそうなスペースがあるエレベーターが来ても、身軽な人たちが我先にと乗り込んでしまいます。
    10分以上待ってやっと乗れたエレベーターは、行きたい方向とは逆の、上に向かうものでした。
    一度、上の階まで行って、そのまま下に降りることにしたようです。

    解決策を模索する商業施設

    多くの商業施設が同様の問題を抱えていて、さまざまな対策を講じていますが、解決は一筋縄ではいかないようです。
    西日本鉄道が運営する福岡市・天神にある「ソラリアプラザ」を訪ねてみました。

    施設に到着してエレベーターを見ると、1基が車いすユーザーなどの「専用」となっていました。
    福岡の中心繁華街にあるこの施設は、土日や祝日を中心に多くの人でにぎわいますが、エレベーターが3基しかなく、混雑が長年の課題となっていました。
    改善を望む声が寄せられていたこともあり、7年前からこのうち1基を障害者やベビーカーユーザーの専用エレベーターにしています。

    利用者からは歓迎する声が聞かれました。

    「とても便利で、助かります」
    「県外から来てるんですけど、福岡いいねって」

    一方で、現場で取材していると、課題も見えてきました。扉などに「専用」と大きく表示されているにもかかわらず、若者など明らかに「専用」の対象ではなさそうな人たちが次々とエレベーターに乗り込んでいくのです。

    実際に、あるベビーカーユーザーからは、こんな声が聞かれました。

    「専用エレベーターの対象ではない人が乗っているので困ります。なかなか乗れないことの方が多いです」

    この施設では、十分とは言えないものの、一定の効果がある今の取り組みを続けながら、さらに改善を目指すとしています。

    「専用」→「優先」→「専用」 

    実は、渋谷さんがエレベーターに乗れなかった「JR博多シティ」でも、去年11月まで「専用」エレベーターを設置していました。
    しかし、専用を設けてから施設側に対して「ベビーカーの付き添いの人が何人も乗っているのはおかしい」といった意見や、外見から障害者とわからない人から「障害者手帳を見せないと乗ってはいけないのか?」といった声などが寄せられたといいます。
    このため専用をやめてすべてのエレベーターを「優先」にした経緯がありました。

    JR博多シティ 田中充徳 お客さま相談室長

    「いろいろなご意見があったのは事実です。すべてのお客様にとって1番いい方法は何だろうということで、去年11月に専用をやめて全てのエレベーターを優先にしました」


    譲り合って利用してほしいという思いから、あえて専用エレベーターを廃止した施設側。
    しかし、期待とは裏腹に、必要とされる人たちが優先される環境は生まれませんでした。

    ことし3月、施設側はいったん廃止した専用エレベーターを復活させました。
    さまざまな検討を重ねた結果、現在の状況では「専用」を設けることが最善策と判断したのです。
    その際に採用したのが、違いが一目でわかる全面ピンクのエレベーター。
    多くの人で混雑する博多駅で、対象者以外の人が乗らないようにするための工夫でした。

    田中充徳 お客さま相談室長
    「今のところ、対象者以外の利用は少なく、運用はうまくいっています。ただ、専用エレベーター以外についても、エレベーターを必要とする方がいれば、譲っていただくようお願いします。車いすやベビーカーの利用者などが安心してお越しいただけるよう、今後も改善を続けていきたい」

    エレベーターのマナー 考えてみませんか?

    紆余曲折を経て導入された専用エレベーターの派手なピンクは、必要とする人たちがスペースを譲ってもらえない裏返しでもあります。

    ピンクのエレベーターについて渋谷真子さんは「いろんな意見があると思いますが、私はいろんな声を聞いて商業施設側がしっかり変化を起こすために動いてくれたことが、とても素敵なことだと思います」と発信しました。

    施設側の取り組みはもちろんですが、エレベーターの利用で困っている人たちの現状を認識した上で、私たち自身もマナーについて考えてみませんか?
     

      • NHK福岡放送局

        早川俊太郎

        遊軍として身近な
        気になる話題を取材

      ページトップに戻る