ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. 男女間の“平等” 福岡県は?

男女間の“平等” 福岡県は?

誰もが活躍できる社会を目指すヒントは
  • 2023年03月30日

「国際女性デー」って?

「国際女性デー」のシンボルともいわれる「ミモザ」

3月8日は「国際女性デー」です。
女性の権利や政治・経済分野への参加を推進するために、1975年に国連が定めました。この日に合わせてシンボルの花「ミモザ」が配られるのを見たことがある人もいるかもしれません。
日本、そして福岡県での「男女間の平等」や、「誰もが活躍できる社会」について考えてみませんか。(福岡放送局記者・松木遥希子)

146か国中116位

世界経済フォーラムが発表した調査のサイト

去年、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」。男女の社会的格差を示すもので、日本は調査対象の146か国中116位、G7=先進7か国の中で最低でした。
調査するのは4つの分野。日本は「教育」と「医療へのアクセス」で評価が高かったものの、「政治参加」と「経済」は極めて低い評価でした。
報告書では、衆議院議員や閣僚に占める女性の割合が低いこと、管理職など企業で意思決定を担う女性の割合が依然として低いと指摘しているほか、新型コロナウイルスの影響で保育施設や学校が閉鎖される中、育児の大部分を女性が負担したことや女性の失業率が高止まりしたことなどがジェンダー平等を妨げていると指摘しています。

“都道府県版ジェンダーギャップ指数” 福岡は?

国内でも、地域によって男女平等の度合いには差があります。
上智大学の三浦まり教授らによる「地域からジェンダー平等研究会」では、内閣府などが公表する30のデータを世界経済フォーラムの調査とほぼ同様の手法で分析し、去年から国際女性デーにあわせて指数を公表しています(分野は日本の実情により即したものとして、▼政治▼行政▼教育▼経済の4つを採用)。
“都道府県版ジェンダーギャップ指数”といわれるこの指数は、男女が平等の場合を「1」としていて、数値が低いほど格差が大きく、順位が低いほうが格差が大きいことを表しています。
ことしの福岡県の結果がこちら。

※指数 政治:0.149/行政:0.312/教育:0.593/経済:0.359

一見すると比較的順位が高めで、最も低い▼政治分野でも27位なら、まあまあなのでは?と思うかもしれません。ただ、福岡県の選挙区選出の衆議院議員と参議院議員は男性16人に対して女性1人。県議会議員は男性76人に対して女性7人しかいません(ともに2023年3月現在)。
一方▼行政分野は、市区町村の審議会に占める女性の割合が35%で全国1位、県の管理職の女性が16%で9位だったことなどから4位に。しかし課題もあり、県職員(県警含む)の育児休業の取得率は45位でした。
▼教育分野は、小中学校と高校の校長や教頭・副校長に占める女性の割合が比較的高く12位でした。(小学校の校長:29%、中学校の校長:12%、高校の校長:12%、小中高の教頭と副校長:26%)
▼経済分野は19位でしたが、ここにはいくつか特徴が見られました。
企業の社長に占める女性の割合は16%と全国3位、管理職や役員は17%で4位と上位に。
またフルタイムで働く女性の割合が比較的高い(全国20位)一方、賃金には格差があり、フルタイムで働く女性の賃金は男性の4分の3しかなく全国32位と低迷しています。
 

三浦教授

福岡県は女性が活躍する場面が比較的多い様子がうかがえる一方で、フルタイム賃金の格差が大きくなっています。比較的大きな企業では勤続年数と労働時間が長い人が管理職になるケースが多く、こうした企業での女性の登用がまだ進んでいないことが想定されます。

「誰もが働きやすい」で女性の活躍を

こうした「ジェンダーギャップ」はどうしたら解消できるのか。そのヒントを求めて、誰もが働きやすい職場を目指すことで女性の活躍につながっているという企業を訪ねました。 
福岡市西区にある住宅メーカーです。かつて、長時間労働など業界特有の働き方がネックとなり、なかなか人材が根づかないのが課題でした。

住宅メーカー「コスモス」専務 渡辺年紹さん

「お客様の仕事が終わったあとや休日に打ち合わせを行うので、どうしても時間外の勤務が増えて長時間労働になっていました。新卒で社員を採用して7,8人入社しても3年後には1人残っているかという状況で、このままでは会社の将来がないと不安を感じていました」。

働き続けられる会社にするには

専務の渡辺さんがまず変えたのは、顧客対応の方法です。
これまでのマンツーマンから、2人以上で1人の顧客を担当するチーム制を導入。家を建てるための契約書にも複数の社員の名前を記入するようにしました。複数で情報を共有しフォローし合うことで、子育て中の社員などが活躍できる環境を整えました。
打ち合わせの方法も、夜間や休日に客先に出向いていたのを営業時間内にモデルハウスなどの事業所で行うよう徹底し、勤務時間が不規則にならないようにしました。
目指したのは「従業員が長く働き続けることができる会社」です。

「家を建てることを本気で考えていらっしゃる方は、その方のお宅に出向かなくても、次はこういった打ち合わせをしますということをお伝えするとこちらに来てくださることに気づいたんです。やはりまず社員を第一にしていこう、そしてお客様を大事にしようと考えるようになりました」。

若手が辞めなくなった!

清原亜璃紗さん

こうした取り組みが定着し、若い世代が辞めなくなったといいます。
西区のモデルハウスに勤務する清原亜璃紗さんは、4歳の双子の男の子を育てながら仕事を続けています。

日曜に子どもたちと

週末や休日に来客が多いモデルハウスですが、チーム制でフォロー体制が整っていることで、保育園が開いていない日曜日は毎週休むことができます。子どもたちと出かけたり習い事の水泳に行ったりする時間を取ることができるだけでなく、子どもの体調不良の際にも休みが取りやすいといいます。

「いつ息子の病気などで休んでもいいように常にきちんと情報共有をしながら仕事をしているので、緊急事態でもスムーズに引き継ぎをさせてもらっています。おかげさまで家事育児と仕事の両立ができています」。

今春には3人目が産まれるという清原さん。来年4月に職場に復帰するつもりで、会社もこの先長く活躍することを期待しているということです。
 

キャリアアップする人も

片山友子さん

改革を進める中で、キャリアアップをする人も。片山友子さんは3年前に管理職に昇進し、今は大野城市のモデルハウスで店長代理をしています。

北九州市出身の片山さんは、結婚・出産を経て社会とつながりを持ちたいと、子供が1歳のときから複数の会社にパートとして勤務してきました。子育て中に正社員になるのは難しいと感じてきましたが、この住宅メーカーの面接で思いがけない言葉をかけられます。

「うちはその気があれば社員にも登用するよという話を聞いたんです。私はそのとき40歳で、この年で社員になれるのかと驚くと同時に、なれるならなりたいと意欲がわきました」。

片山友子さん

パートとして中途で入社し、半年後に社員に、そして管理職にも登用された片山さん。キャリアアップを後押ししてくれたのは、「チーム制」など誰もが働きやすい職場にあったといいます。

「住宅メーカーの営業は1人でなんでもやらないといけないイメージを持っていました。仕事の量がすごく多いし、覚えることも多いんです。1人でやろうとすると時間がかかってしまいますが、この会社では周りがサポートしてくれる体制が整っているのがとてもありがたかったです。今もそうですが、何か手伝うことはないかとか常に声をかけあって、互いに決して知らないふりはしないんです。
管理職になった今、私もこれまでサポートしてもらった分をサポートしていく立場になっていきたいと思っています」。

職場作りの成果が

専務の渡辺さんと社員の皆さん

かつて、人材が根づかないことが課題だったというこの会社。今は女性の勤続年数の平均が15年以上と、福岡県の女性の平均の1.5倍にまで伸びています。
専務の渡辺さんは、女性だけが働きやすい環境を作ってきたわけではなく、誰もが働きやすい職場作りを続けてきた成果が出ているといいます。

「環境作りはとても大切だと思っています。人は環境によって考え方も行動も変わるためです。みんなが楽しく働いて長く会社が持つことがお客様にとっても一番信頼につながるのではないでしょうか。年齢も男女もまったく関係ありません」。

組織や社会が持続するカギに

都道府県別のジェンダーギャップ指数を算出した上智大学の三浦まり教授も、今後人口減少が進んで労働力が減る中、職場環境を改善して誰もが働き続けられる会社が増えることが日本の経済成長につながると話しています。誰もが働きやすくする職場改革は男女の格差を解消するだけでなく、組織や社会を持続させていくことにもつながりそうです。
 

【気になるあの数字は?】
最後にデータをもう1つ。去年「ロクいち」でお伝えした共働きの男女の「家事」「介護・看護」「育児」「買い物」の合計値を比較した【家事・育児時間】についてです。
去年、福岡県は男性が30分に対して女性が263分と格差が最も大きく(女性は男性の8.8倍)
全国ワースト1位でしたが、ことしは43位とワースト5位でした。あまり変わっていないのでは…と思うかもしれませんが、今回のデータでは男性が47分に対して女性が274分と、男性が家事・育児にかける時間が1.5倍以上に伸びたんです。
しかし依然として福岡県では女性が男性の5.8倍の時間を「家のこと」にかけていて、他県ではその差は小さくなりつつあります。誰もが働きやすい職場、活躍する社会を実現するには、生活に不可欠なこうした“ケア労働”が特定の誰かに偏らない社会を作ることも重要ではないでしょうか。

  • 松木遥希子

    NHK福岡放送局 記者

    松木遥希子

    2006年入局、福岡県出身。ジェンダーや社会保障など幅広く取材しています。次の世代がもっとのびのびと生きられる社会を目指したい。2児の母。

ページトップに戻る