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地震発生確率“Sランク”  福岡の警固断層に迫る

  • 2023年03月10日

「活断層とは何か?」と聞かれて答えられますか?
私も災害の取材を担当するまで「地震を起こす危ないもの」というイメージはあっても、どこか遠い感じすらしていました。
ただ、活断層が2005年の福岡県西方沖地震を引き起こしたことや、福岡市の直下を通る警固断層の地震発生確率が高いことを知り、ひと事ではなくなりました。
いつか来る「その日」に備えて、活断層のリスクや対策を詳しく調べてみました。
(NHK福岡放送局 記者 宮本陸也)

熊本地震で地表に現れた断層

知る①「活断層」とは何か

活断層とはずばり「過去に繰り返し地震を起こし、将来も地震を起こすと考えられている断層」です。
断層とは、地盤に力が加わってズレが生じた場所のこと。このうち将来も地震が起きると考えられているものを活断層と呼んでいます。

活断層で起きた大きな地震には、2016年の熊本地震、2005年の福岡県西方沖地震、1995年の阪神・淡路大震災などがあります。

一方、東日本大震災の地震や、近い将来発生が懸念されている南海トラフ巨大地震は、海底のプレートの境目がずれ動いて起きる「海溝型地震」というタイプです。

活断層・・・将来も地震を起こすと考えられる断層 
近年、九州では熊本地震や福岡県西方沖地震などを引き起こした

 

知る②「福岡の主要活断層帯」

日本全国には活断層はわかっているだけで約2000。政府の地震調査研究推進本部は、活動度合いや社会・経済に与える影響の大きさなどを考慮して、114の「主要活断層帯」を認定しています。
九州・沖縄には17。福岡県には6つの主要活断層帯があります。

福岡県地域防災計画より

福岡県にある主要活断層帯
●福智山断層帯 北九州市若松区~田川市
●西山断層帯 宗像市沖ノ島付近~朝倉市
●宇美断層 須恵町~筑紫野市
●警固断層帯 玄界灘~福岡市~筑紫野市
●日向峠ー小笠木峠断層帯 糸島市~佐賀県鳥栖市 
●水縄断層帯 うきは市~久留米市
主要活断層ではないが小倉東断層の存在も知られている

街では「福岡は地震が少ない」という声も聞かれますが、これだけの主要活断層帯が存在しています。
そして過去には実際に大きな地震が起きています。
たとえば1898年の糸島の地震はマグニチュード6.0。震度6相当の揺れだったと推定されています。
また、2005年の福岡県西方沖地震は警固断層帯の北西部の地震とされ、最大震度6弱を観測しました。

 

知る③ 警固断層帯の地震 どんな被害が?

                               (地理院タイルを加工して作成)

福岡県の主要活断層帯の中でも大きな被害が想定されているのが、警固断層帯南東部(=警固断層)の地震です。博多湾から福岡市中心部を通り筑紫野市に至る「警固断層」が引き起こす地震ではどのような被害が出るのでしょうか?
想定されている地震の規模はマグニチュード7.2。福岡市は地盤の強さなどのデータを元に「揺れやすさマップ」を作成しホームページなどで公表しています。

赤い表示は震度6強、黄色が震度6弱を示しています。福岡市中心部ほぼ全域が震度6弱以上の揺れに襲われる想定です。

警固断層の地震の被害想定(福岡県) 
マグニチュード7.2 死者1000人以上 約1万8000棟の建物が全壊 避難者は4万人以上に達する

知る④ 地震発生確率「Sランク」

実は、警固断層は地震が発生する確率が高いとされています。
現在の科学では地震が起きる日時を予測することはできませんが、地震調査研究推進本部はこれまでの調査研究の結果から今後30年以内に地震が発生する確率を4つのランクに分けて公表しています。
全国114の主要活断層帯のうち最も高いSランクは31。警固断層帯はこのうちの1つです。
(福岡県内では「福智山断層帯」もSランクと評価)
 

専門家「いつ起きてもおかしくない」
専門家は、警固断層の地震はいつ起きてもおかしくないと指摘します。
産業技術総合研究所で活断層の研究にあたる宮下由香里さんは「警固断層は満期を迎えている」と表現します。
“満期”とはどういうことでしょうか?
活断層では繰り返し地震が起きる性質があり、発生間隔を調べることで次の地震がある程度予測できると考えられています。
宮下さんも2007年に大野城市にある田んぼで穴を掘って警固断層を目視で調べました。

警固断層の調査 (大野城市・2007年) 

分析の結果、警固断層では約8000年前と約4000年前にマグニチュード7クラスの地震が発生したと推定されました。4000年の周期で大地震が発生していることが見えてきたのです。
前の地震から約4000年たった今、次の地震に向けて“満期”を迎えていると言うのです。

 

産業技術総合研究所 宮下由香里さん

産業技術総合研究所 地質調査総合センター 連携推進室 宮下由香里室長
「警固断層の地震の周期は満期を迎えている可能性があり、いつ起きてもおかしくない。30年以内に地震が発生する確率は、「空き巣被害」や「火災」にあう確率と同じくらいだとされている。そう考えると身近に考えられると思います」

 

 

備える① 交通インフラの被害

阪神・淡路大震災の被害

いつ福岡で起きても不思議ではない大地震に備えようという動きも進んでいます
警固断層の地震で懸念される被害のひとつが「交通インフラ」への被害です。
福岡県の想定によりますと、マグニチュード7.2の地震が発生した場合、鉄道では西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線のほか、JRの九州新幹線・鹿児島本線などでも被害が生じるとされています。
 

西鉄天神大牟田線は、一部の区間が警固断層に沿うように走っています。
「なぜ活断層に沿って線路が敷かれているのか?」西鉄の担当者に聞いてみました。 

西日本鉄道 線路課 近藤真哉課長

西日本鉄道 近藤真哉課長
「西日本鉄道は昭和17年に合併していて、線路を敷いたのは前身の九州鉄道という会社です。
約100年前は活断層の存在は知られておらず、直下型の地震が危険視されていなかったんだと思います」

懸念される大地震に備え、西鉄では高架橋の柱の耐震補強工事を進めています。
コンクリートの柱に一定間隔で鉄筋を巻き付けて強度を上げる工事で、阪神・淡路大震災と同じ程度の揺れに襲われても橋桁が落下しないよう対策しているということです。
工事の際には高架下の店などに一時休業してもらう必要があり、同意を得ながらの作業ですが、これまでに目標の8割で工事が完了しているということです。

高架橋の柱に鉄筋を巻いて補強(西鉄天神大牟田線)

JR九州も耐震対策を進めています。高架橋の耐震補強に加えて、九州新幹線では「要注意断層箇所」に車両の脱線を防ぐ「脱線防止ガード」の設置を進め、工事を計画している85キロですでに完了したということです。
また、都市高速道路でも対策が行われ、福岡都市高速で494基、北九州都市高速で692基を対象にした耐震補強工事が平成9年にいったん完了し、その後もさらに強化する工事が進められています。

 

 

コラム 断層沿いには道ができやすい?
現在の西鉄天神大牟田線は、探鉱の町として栄えた大牟田や工業の町として栄えた久留米などと太宰府や福岡を結ぶために敷かれたと言われています。
産業技術総合研究所の宮下さんは、ルートの選定にあたっては「断層が関係していたのではないか」と推測します。

断層沿いに地面が隆起する

産業技術総合研究所 宮下由香里さん
「活断層は繰り返し地震が発生することで地面が隆起して盛り上がった地形が形成されます。
隆起した土地沿いに道ができやすく、その周辺には街が形成されていきます。かつて大宰府と博多を結んだ『官道』という道が存在していましたが、それとも関係しているのかもしれません」

 

備える② 緊急地震速報が間に合わない!?

活断層の地震から身を守るために知っておきたいのが、緊急地震速報が間に合わないことがあるということです。
活断層の地震は陸の浅いところで起きるため、震源に近い場所では緊急地震速報より先に強い揺れが到達することがあります。このため、突然の揺れに十分に身構えることが難しい場合を想定して、事前に備えを進めておくことがとても大切です。

①自分が住んでいる建物の耐震性を調べ、必要に応じて補強する
②椅子や机などの家具や家電を金具などで動かないように固定する
③室内にあまり物を置かない「安全スペース」を確保する
④水や食料、簡易トイレなどの備蓄をする
⑤地震が発生した時に避難する避難場所について家族と相談して確認する

 

備える③街中で地震にあったら?

街中で突然、地震の揺れに襲われたらどうしたらいいのでしょうか。
2005年の福岡県西方沖地震の際には福岡市中心部の天神にあるビルの窓ガラスが割れて落下し、地面に散乱しました。

割れたビルの窓ガラス (福岡県西方沖地震)

都市防災に詳しい九州大学の松田泰治教授は、こうした落下物から「頭を守る」ことが大切だと指摘しています。

九州大学地盤工学研究室 松田泰治教授

九州大学地盤工学研究室 松田泰治教授
「街中ではビルの窓ガラスが飛び散ったり、外壁や看板が落ちたりする危険性があります。まずは、『ひらけたスペース』に逃げ込むことが大切です。その上で、もし逃げ場がない場合は、『新しめの建物』に入ることも一つの手段なので頭に入れておいてほしいと思います」

 

備える④活断層の位置を知る

活断層の位置の把握は、避難の際も大切になってきます。
下の地図は警固断層の周辺にも「緊急指定避難場所」が数多くあることを示しています。
産業技術総合研究所の宮下由香里さんは「断層の真上は地表にズレが生じて道路の寸断や建物倒壊のおそれがあります。できるかぎり断層をまたがない避難経路を事前に考えておくことが大切です。そのためにも、活断層を調べることをおすすめします」と話しています。

警固断層の近くにも緊急指定避難場所が 

 

活断層の詳しい位置を調べるには?
【活断層データベース】
詳しい活断層の場所を調べるにはいくつかの方法があります。ひとつは宮下さんも所属する産業技術総合研究所が作成している「活断層データベース」です。

産総研の活断層データベース

【J-SHIS】
もうひとつが防災科学技術研究所の「J-SHIS」というサイトやアプリです。自分の住む地域の地盤の揺れやすさや、活断層で地震が起きた場合に予測される揺れの大きさを調べることもできます。

【地震調査研究推進本部】
また、地震調査研究推進本部の主要活断層帯の長期評価というページにも、それぞれの活断層の情報や発生確率などの評価がまとめられています。

備える⑤「活断層がないから安心」ではない

活断層の位置を調べて、自分の家の近くに無かったとしても、安心はできません。
全国に約2000の活断層があるとされていますが、わかっていないものも多いと考えられています。
例えば福岡県西方沖地震を引き起こした警固断層帯の北西部は、地震が発生してからその存在が明らかになりました。
地震調査研究推進本部は日本ではどの場所でも地震による強い揺れに見舞われるおそれがあると注意を呼びかけています。

 

取材後記 
今回の取材を通じて、地震対策の第一歩は、住んでいる場所などのリスクを知り、できる備えを始めることだと痛感しました。大地震がいつ起きるかわかりませんが、“来ないだろう”ではなく“来る”と思って多くの人が対策を進めるきっかけとなるような防災情報を発信していきたいと思います。(NHK福岡放送局 記者 宮本陸也)



※警固断層と緊急指定避難場所の地図の出典 
地理院地図(緊急指定避難場所) 
調査者:千田昇・石村大輔・岡田真介・堤浩之・平川一臣(2014)1:25,000都市圏活断層図「福岡(改訂版)」
調査者:池田安隆・千田昇・越後智雄・中田高(2004)1:25,000都市圏活断層図「太宰府」

  • 宮本陸也

    NHK福岡放送局

    宮本陸也

    平成30年入局
    大分局を経て福岡局で
    災害取材を担当

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