ページの本文へ

読むNHK福岡

  1. NHK福岡
  2. 読むNHK福岡
  3. ”触”って ”察”する 3D模型で視覚障害者を支援

”触”って ”察”する 3D模型で視覚障害者を支援

視覚障害者の「知りたい」に応える
  • 2023年04月04日

点字図書館に 触るための3D模型を展示

福岡市立点字図書館の閲覧室(福岡市早良区)
展示されている3D模型
提供:JST-RISTEX南谷PJ・鶴見大学元木研究室
 

福岡市立点字図書館で、去年から展示がはじまった3D模型です。左からノートルダム大聖堂(フランス)、こま犬、ノイシュヴァンシュタイン城(ドイツ)、宇宙飛行士、タージ・マハル(インド)、ピサの斜塔(イタリア)が並んでいます。目の不自由な人たちが、触って、形などを知るための3D模型で、両手のひらに収まるぐらいのサイズです。

視覚に障害のある人は触って観察する

福岡市立点字図書館 職員
南 明志さん(みなみ・ともゆき)
南さん

「視覚障害者は、視覚から情報を得ることは、なかなか制限されてしまいますので、手で触って観察することで、形などを認識することができます」 

福岡市立点字図書館の職員で全盲の南明志(みなみ・ともゆき)さんが、手で触っているのは、福岡タワーの3D模型です。高さ234メートルの福岡タワーを18センチに縮めています。

福岡タワー(福岡市早良区) ⇒ 3D模型

南さんは、はじめて、この3D模型の福岡タワーを触ったときのことをこう話します。

南さん

「私は、福岡タワーというのは、円柱の形をしているものだと、ずっと思ってたのですが、実際に、この模型を触ってみて、ああ、このような形をしているんだな」

「三角形になっていて、不思議な形をしているんだなと驚きました」 

南さんに、どのように3D模型を触るのか教えていただきました。

南さん

「まず、模型の正面を手前に向けて、一度、模型の全体の形を触って確かめてから、下から順番に、細かいところを触っていきます」 

視覚障害者にとって、あまり大きなものや小さなものは、触ることができても、全体像が分からないものもあります。動物で例えると、象のような大きな生き物、逆に、ありのように小さな生き物は、形を理解することが、かなり難しいのです。こうしたものを3D模型にすることで、全体の形を認識しやすくして、理解を深めることができます。

3Dプリンターで立体模型を造形

視覚障害者のための”触る模型”は3Dプリンターで作っています。

福岡タワーを造形中の3Dプリンター

横浜市鶴見区にある鶴見大学文学部の教授で元図書館長の元木章博(もとき・あきひろ)さんは、図書館で障害のある人たちへの情報サービスについての研究を続けています。

3Dプリンターを動かす元木章博さん
鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科教授・元図書館長

元木教授は、「誰もが知りたいもの、必要なものを自由に手に入れ、触れられる社会」の実現に向けて、視覚障害者に3D模型を提供する体制を作る研究プロジェクトに参加しています。(注釈・科学技術振興機構「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」採択課題)

各地にある点字図書館などと連携して、視覚障害者に3Dプリンターで作った立体模型について知ってもらい、気軽に利用できる環境を整えたいと考えています。

元木教授

「目が見える人が、ぱっと見て分かるのと同じように、視覚障害者が、3D模型に触れて情報を得ることができることを知っていただくために、まずは、利用者のすそ野を広げることを主な目的にしています」 

3Dプリンターで造形するメリットは?

3Dプリンターは、元になるデータがあれば、細かく複雑な形の立体模型を簡単に出力できます。金型から作る模型に比べて、制作時間も短く、試作品のように少数であれば、費用も安く済みます。元木研究室では、熱溶解積層(FDM)方式で造形する3Dプリンターを使用しています。材料になる樹脂(PLAフィラメント)に、熱を加えて溶かし積み重ねながら、立体模型を作ります。

福岡タワー(高さ18センチ)の印刷時間は2時間6分。材料には、直径1.75ミリの糸状の樹脂(PLAフィラメント)を4.15メートル使い、材料費は、約810円です。

PLAフィラメント

3Dプリンターは、インターネットでフリーの素材データを探し出して、立体模型を出力することもできます。視覚障害者からは、日本の最高峰、富士山や九州の阿蘇山、桜島に触れてみたいと依頼もあったそうです。

元木教授

「インターネットでデータが公開されているもので、再配布が可能なものを印刷して届けることを原則にしていますが、私たちで、データからモデリングをして制作することも始めています」 

福岡タワーの3Dモデリング

福岡タワーは、元木教授が3Dモデリングをしてゼロからデータを作成しました。

3Dプリンターは、データを修正して形を変更したり、特定の箇所を切り出して、大きくすることも簡単にできます。

また、スマートフォンを使う視覚障害者も増えていることから、3D模型の裏にQRコードを貼り、情報を補う工夫をしています。

 

模型の裏にはQRコードも

QRコードを読み取ると、模型に触る時の注意事項や位置関係、実物の解説を音声で聞くこともできます。

「福岡タワーの上部、3割は、細長い塔であり、鋭利というほどの尖塔ではありませんが、触れ方によっては、痛い場合があります。上からのアプローチには特にお気をつけください」
「細長い塔がある辺側が北です。細長い塔の下にある断面の形は、逆三角形で、逆三角形の下向きの角側が南です」

「実際の高さは234メートルです。底面である正三角形の1辺の長さが24メートルです。展望台の高さは約116メートルから123メートルです」 QRコードからの音声ガイド

3Dプリンターで地図を使いやすくする

元木研究室では、3Dプリンターを”触る地図”の研究にも活用しています。”触地図”(しょくちず)は、凹凸のある線や面などで地図の情報を表しています。

福岡市立点字図書館周辺
元木研究室制作の触地図(福岡市立点字図書館周辺)
(注釈)新潟大学渡辺研究室「tmacs(mb)」Webサービスおよび国土地理院「画像から3Dプリンタ用STLファイルを作成するプログラム」を使用

元木研究室では、3Dプリンターで造形した透明な立体部品を、カラーの平面地図に重ね合わせた”触地図”(しょくちず)も作っています。道路の高さを変えたり、ランドマークになる建物の位置に突起をつけたりしています。この”触地図”であれば、目の見える人と見えない人が、一つの地図で情報を共有することもできます。元木研究室では、視覚に障害のある利用者からの意見を取りいれながら、改良を続けています。

元木研究室 所属する学生(左)

福岡市立点字図書館とオンラインで結び、立体模型について話を聞きました。

鶴見大学・元木研究室 ⇔ 福岡市立点字図書館

利用者からは、”触地図”の持ち運べるサイズ感や、丈夫で壊れにくいところが好評でした。また、視覚障害者の立場から”点訳書凡例”として目印を記号化した点字のひと文字で説明を加えると、もっと分かりやすくなると意見が出ました。

触地図用の点訳書凡例 作成:福岡市立点字図書館
地下鉄の藤崎駅には、点字「ふ」のラベル

「3D模型・地図を触ろう!」

 

点字図書館の利用者懇談会で3D模型を紹介(令和5年2月)

福岡市立点字図書館で「3D模型・地図を触ろう!」と題して体験が行われ、視覚に障害のある18人が参加しました。鶴見大学の元木教授が3Dプリンターの仕組みや立体模型について話した後、参加者に一点ずつ3D模型と触地図が配られました。今回、元木教授が提供したのは、「福岡タワー」「ノイシュヴァンシュタイン城」の3D模型と「ドイツと周辺国触地図(立体コピー)」「地下鉄駅から福岡市立点字図書館の周辺の触地図」です。元木教授の3D模型を触る時の注意点や解説を聞きながら、実際に、3D模型を触ってもらいました。

3D模型の解説をする元木教授(右)

体験した人は、まず東西南北など、ものの位置関係の確認に時間をかけていました。その後、3D模型の細かい造形を指先でひとつずつ形を確かめながら触っていました。気になる箇所は、なんども繰り返すように触っていました。福岡タワーの展望台の場所や高さについても実感できたようでした。

3D模型を触る体験
福岡タワーの上部の形を確かめる

点字図書館の周辺の触地図は、なじみのある場所でしたが、あらためて、最寄り駅から点字図書館や福岡タワーまでの道順をたどったり、建物の位置や距離、町並みなどを確かめていました。付き添いのガイドさんと、道沿いにあるお店などを話題にするきっかけにもなり、会話も弾んでいました。

 

触地図をたどる
ガイドさん(右)と一緒に

体験した目の不自由な人たちは

体験者

「全体的な形が分かり、とてもよかったです」

「アニメのサザエさんをよく見ますが、登場するキャラクターがどのようなものか、イメージがつかめていないので、作ってほしいなと思いました」(笑顔)

体験者

「3Dプリンターの情報は、以前から聞いていましたが、じかに触ったのは初めてです。福岡タワーの先端部のアンテナが、あのような複雑な形をしているところまで再現されているのは発見でした」

体験者

「福岡市の天神エリアも再開発で建物がどんどん変わっていますので、そういうものを3D模型で触ってみたいと思います」

体験者

「3Dプリンターは、夢を文字通り”形”にすることができるものだと思います。私は、パソコンでプログラムのコードを書いて、3Dプリンターで湯飲みやコースターを作ったことがあります。きょう、見せていただいたような精巧なものではありませんが、自分でデザインして、思い描くものを形にすることができました。こんな物がほしいとか、もやもやしたイメージを形に出来ること、頭の中に描いたものを、形にして表現することができると思います」

 

鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科教授・元図書館長
元木章博さん(もとき・あきひろ)

「3Dプリンターが、一般に普及して10年ほどになりますが、視覚障害者のための情報サービスへの活用は、まだまだ、始まったばかりです。視覚の障害のある皆様に、住んでいる地域のことを知ってもらうなど、非常に個人的なニーズにも応えられるように、研究をしていきたいと考えています」 

元木教授は、今後も、全国各地の点字図書館などで、3D模型の体験会を実施していくことにしています。また、「誰もが知りたいもの、必要なものを自由に手に入れ、触れられる社会」の実現に向けた研究プロジェクトでは、視覚障害者の皆様からのリクエストを受けて、3D模型を提供するサービスも試験的に行われているそうです。

(参考)触察3Dモデル(模型)提供サービスの利用は、メールもしくは受付専用のWEBフォーム(https://3d4sdgs.net/service)から申し込みができます。
このサービスは科学技術振興機構「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」の一部として実施するものです。

 

取材・撮影 福岡局コンテンツセンター 田村 威浩


【問い合わせ先】

福岡市立点字図書館(福岡市総合図書館に併設) 

〒814-0001 福岡市早良区百道浜3-7-1 電話092-852-0555 月曜日・休館

鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科 元木研究室 

〒230-8501 横浜市鶴見区鶴見2-1-3

ページトップに戻る