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三毛猫の謎に挑む 

九州大の猫好き研究者らが結集
  • 2023年02月22日

    【60年前に投げかけられた三毛猫の問い】
    三毛猫にはほぼ雌しかいないことは比較的有名で、猫好きなら知っている人も多いだろう。
    この遺伝的な仕組みについては、今から60年あまり前にイギリスの遺伝学者が報告していて、過去の大学入試センター試験の生物で関連する問題が出題されている。
    それほど身近な話題だが、どの遺伝子が黒と茶をつくるのかまでは解明されておらず、長年にわたって謎のままとなっている。 


    猫とたわむれる佐々木名誉教授
     


    【猫好き研究者がプロジェクトチーム結成】
    猫界の“フェルマーの最終定理”ともいうべきこの謎の解明に挑むのが、九州大学名誉教授の佐々木裕之さんだ。佐々木さんは紫綬褒章も受章した遺伝学の権威。研究者人生の集大成として、このテーマを選んだ。
    ご覧の通り、佐々木さんは大の猫好きだ。研究の合間に訪れるという猫カフェ巡りに同行させてもらったが、佐々木さんは怖がらせないよう小声で猫たちに語りかけ、おやつも特定の猫に偏らないよう配慮していた。
    佐々木さんは三毛猫の背中を優しくなでながら、人生最後の研究テーマに選んだ理由を語ってくれた。
     (※フェルマーの最終定理・・・3世紀以上解かれなかった数学界最大の難問のひとつ)

     

    (佐々木さん)基礎生物学の分野で、こんなにも有名な現象で60年前に論文が書かれていて、教科書にも載っている話だが、その遺伝子がまだ見つかっていない。これはぜひ、知りたいと思った。


    佐々木さんは、東京大学や国立遺伝学研究所などの猫好きな研究者たちに呼びかけ、三毛猫の遺伝子の探索チームを結成。本格的な研究に乗り出すことになった。
     


    研究風景
     

    【証明が最大の難関】
    そもそも、なぜ、三毛猫の毛色の遺伝子を見つけるのは難しいのか。
    三毛猫の黒と茶の遺伝子は、性染色体の上にあるという珍しいかたちをとっている。
    さらに、体の部位ごとに黒と茶どちらかの遺伝子が入った性染色体が不活化して、片方の毛の色が現れるという仕組みとなっている。
    三毛猫の謎の解明には、同じ遺伝学でも複数の分野の高度な専門性が必要なのだ。
    ただ、佐々木さんは国内有数の遺伝学者。ヒトの数々の疾患の病因解明や治療法の開発にも貢献した知見を駆使し、実は、すでに有力な遺伝子の候補を見つけている。
    一見、ゴールは近そうに見えるが、佐々木さんはこれからが本番だという。
     

    (佐々木さん)実際に科学的に証明するのはとてもハードルが高くて、ちょっとやそっとの研究でできるわけではない。培養細胞などを使って、DNAやRNA、タンパク質の働きを調べながら、証拠を固めていくことになる。


    仮説を証明する過程こそが、科学だということだ。
     


    クラウドファンディングのHPより
     


    【全国の猫好きから1000万円以上の寄付】
    研究を進めるうえでの課題が、機材費や人件費などの資金だ。
    基礎研究をめぐる予算が厳しさを増す中、佐々木さんは大学の貴重な研究費は後輩たちに使って欲しいと考え、クラウドファンディングで資金を募ることにした。
    佐々木さんの三毛猫の研究に対する熱い思いは、全国の猫好きな人たちの心を打ち抜き、1か月あまりの期間で1000万円を超える寄付が寄せられた。
     



    【モットーは猫を傷つけない研究】
    佐々木さんは今後の研究で、あるルールを設けている。それは、「三毛猫“さん”」と敬称をつけて呼ぶほど愛する猫を、研究で傷つけないこと。
    動物病院の協力を得て、手術の際に出た血液などの検体の提供を受け、実験を進める計画だという。
     



    【「基礎研究の魅力を感じてほしい」】
    佐々木さんは、今回の研究を通じて、基礎研究の魅力も伝えたいという。
     

    (佐々木さん)こういう身近なところにもわからないことがいっぱいあるということと、基礎研究でこういうワクワクするようなことがわかってくるということを、皆さんに感じてもらいたい。これだけ支援をしてもらってプレッシャーも感じるが、それも研究のだいご味のひとつ。研究者人生の総仕上げとして、最後の成果を出したい。


    【研究成果は動物医療に役立つ可能性】
    今回の研究は、解明できれば生物の教科書を書き換えるほどのインパクトがある。
    ただそれだけでなく、佐々木さんによると、遺伝子の研究は将来、猫をはじめとする動物たちの治療法の開発やヒトの病気の解明にも役立てられる可能性があるという。
    猫好き研究者たちが世界をあっと驚かせる日を楽しみに待ちたいと思う。
     

      • NHK福岡放送局

        早川俊太郎

        遊軍として身近な
        気になる話題を取材
        猫に好かれないのが悩み

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