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半導体・大競争時代 日本生き残りのカギは九州に

  • 2023年01月27日

半導体・大競争時代 日本生き残りのカギは九州に

 車やスマートフォンだけでなく、身近な家電製品に広く使われている半導体。
 次世代の産業を支えるさまざまな技術に活用されるなか、半導体の覇権をにぎろうと大国が熾烈な競争を繰り広げる“戦略物資”となっています。

 日本の半導体産業は生き残ることができるのか。いま九州では半導体関連企業による積極的な投資が相次ぎ、盛り上がりを見せています。

海外巨大企業TSMC 熊本で来年操業開始

 世界中の半導体の生産を一手に請け負う台湾のグローバル企業TSMC。世界の500社以上が生産を依頼しています。テスラやアップル、日本のソニーグループもこの企業の半導体なしには事業を進めることができないといわれています。

 そのTSMCが、熊本で総額1兆円の巨大工場を建設中、来年12月に操業を始める予定です。

 実は、九州は日本の半導体産業を支えてきた長い歴史があります。

 1980年代、九州は“シリコンアイランド”と呼ばれ、富士通やNECといった日本を代表する半導体関連の大手メーカーが次々と工場を建設しました。

 2000年には九州の半導体生産額は約1兆4千億円に達しましたが、その後、海外メーカーとの激しい競争にさらされます。ITバブルの崩壊もあり、厳しい時代に突入。しかし、2010年代に入って以降、スマホの需要拡大などが追い風となり、再び盛り上がりを見せていました。

 ソニーグループの主力工場も熊本にあります。製造されているのは、スマートフォンや自動車向けに使用される画像センサー。高画質を実現させる独自の設計技術によって実現しました。

 今回TSMCの工場が建設されているのは、ソニーグループの工場のすぐ隣。ソニーグループなどと合弁会社をつくっています。新たな巨大工場でどのような製品が作られるのか、注目されています。

次世代素材で電気自動車市場に切り込む

 福岡・筑後市には、半導体メーカー・ローム(本社:京都)の工場があり、電気を制御する機能をもつ「パワー半導体」が作られています。パワー半導体は、今後需要が拡大し、3年後の2026年には4兆円の市場に成長すると予想されています。

パワー半導体

電気自動車の要「パワー半導体」

 パワー半導体の需要の伸びを支えているのが、電気自動車の広がりです。岐阜県にある三洋貿易 瑞浪展示場。廃校になった学校の体育館に、電気自動車とその部品が展示されています。

三洋貿易 瑞浪展示場

 アメリカや中国など海外メーカーの電気自動車。一台一台が解体されて、電気自動車を構成するすべての部品を見ることができます。

  モーターやバッテリー、フレームなど・・・。

 自動車関連企業の技術者や経営者たちが、数多く訪れていました。従来のガソリン車で培った技術を、電気自動車の部品にも生かせないか、ビジネスチャンスを探りに来ているのです。

「いつも見慣れた部品がないので、いままでガソリンで動いている車で使っている部品がここまで減るんだというのを、目の前で見せられている感じ。いま頑張らないと、あとで頑張れなくなってからじゃ遅いので」

「なかなか難しい。既存の部品供給会社が強くてなかなか入り込めないのが正直なところ」

「これから部品(への参入)を狙っていかないといけないと思うので、変わるところは変えないといけないと思うし、抵抗しても仕方ないので、やっていくしかない」

 今後、電気自動車の性能を左右するとされている半導体。会場には、さまざまな半導体の基板が所狭しと並べられていました。

 特に、バッテリーの力をモーターの駆動力に変換する「パワー半導体」は、電気自動車の性能に大きく影響する基幹部品です。

赤枠の部分が「パワー半導体」

 この会場を主催する三洋貿易の自動車関連技術顧問・白濱光晴さんは、「電気自動車はパソコンのような電子基板をいくつも搭載していて、今後自動運転などの進展によってますますその果たす役割が大きくなる」と言います。

「電気自動車の先進技術が増えると、半導体や電気配線がますます増えていきます。そのため、従来と比べて、より小さくて信頼性のある半導体が今後は求められていきます」

新素材を次々に開発

 電気自動車の今後の普及にねらいを定め、パワー半導体の開発に力を入れるローム。従来のシリコンに代わる新たな素材の半導体(MOSFET)を世界に先がけ製品化し、急成長しています。

 電気自動車などの大電力を効率よく制御するには、シリコンが素材の半導体では限界があり、新たな素材が求められていました。この会社は、2010年に炭化ケイ素(SiC)のパワー半導体を開発して製品化。それまでパワー半導体分野では無名でしたが、一気に注目を集めたのです。

Omdia調べ

 現在、この分野での売り上げ高は世界5位ですが、2年後のトップシェアを目指しているといいます。

ローム 伊野和英取締役

「決して海外の競合メーカーにも負けてないと思っている。勝負に参加する切符は持てていると思うので、それを2025年から2030年で結果をちゃんと残すというのがほんとのこれからの挑戦だと思います」

 さらにこの会社では、炭化ケイ素に次ぐ次世代素材にも着目しています。それは、「窒化ガリウム(GaN)」です。いま窒化ガリウムを使った製品開発にも取り組んでいます。

 窒化ガリウムは、高速データ通信や精度が求められる自動運転のセンサーに使う半導体に適した新素材として注目を集めており、いま世界中のメーカーが製品化に向けて、しのぎを削っています。

窒化ガリウム半導体を使用した自動運転の物体検知センサー
センサーの物体検知の様子
ローム 窒化ガリウム半導体開発部門 山口雄平 統括課長

「我々はデバイスで信頼を勝ち得てきた企業。シリコンから炭化ケイ素、そこからさらに電気的な社会を豊かにするために、特に小さなデバイスで大電力を出したい場面で窒化ガリウムが非常に有効だと考えている。企業目的に【文化の進歩向上】がある。我々がお客様の要求を先読みして、お客様に本当喜んでもらえる部品を開発したい」

(NHK福岡放送局ディレクター 斉藤仁美)

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