白血病に負けない! 闘病中の中学生が“皿回し”に挑戦
- 2022年10月18日
10月10日の「スポーツの日」、北九州市で伝統的な演芸として知られる「皿回し」をスポーツとして楽しむ大会が開かれ、10歳から86歳までのおよそ40人が参加しました。大会では、いかに長く皿回しができるか競ったり、箱に向かって投げ入れた皿の枚数を競います。
大会には3人1組のチームで出場する団体戦があり、この団体戦に中学2年の松本歩夢(まつもと・あゆむ)さんが出場しました。弟の凪登(なぎと)さん、そして道化師の “シロップ” こと林志郎(はやし・しろう)さんとともに、「あゆなぎシロップ」というチーム名で参加しました。
歩夢さんは4年前に急性骨髄性白血病を発症し、抗がん剤などの治療のため入院生活を繰り返してきました。現在も通院しながら治療中です。長期間の治療によって体力と筋力が低下していますが、この日は体調もよく、医師の許可をもらった上で大会に出場しました。
闘病中の歩夢さんに皿回しの楽しさを教えてくれたのが、シロップさんでした。派手なメイクに赤い鼻が目印のシロップさんは、ジャグリングや手品などで人々に笑いを届けていて、皿回しも得意です。
シロップさんもかつて白血病を経験
シロップさんも6歳の時に白血病になり、およそ3年間の闘病生活を経験しました。入院中のシロップさんの心を明るくしてくれたのが、病室のテレビで見た大道芸人の姿でした。その時に見たパントマイムやジャグリングを今でも覚えているそうです。
シロップさんの白血病は完治しました。「今度は自分がつらい立場の子どもたちのために何かしてあげたい」と考え、シロップさんは道化師として、闘病中の子どもたちがいる病院や自宅を訪れ、笑顔を届ける活動をボランティアで続けています。
憧れがきっかけで交流が
歩夢さんはそんなシロップさんのことを知り、憧れるように。2022年5月、福岡市内で開かれた小児がんの啓発イベントにシロップさんがやってくると聞き、家族と一緒に会場まで会いに行ったのです。
イベントでのショーが終わった後、シロップさんが歩夢さんのところまで来て話しかけてくれました。この時に連絡先を交換し、二人の交流が始まりました。
初めて会ってから2週間後、歩夢さんにサプライズがありました。この頃、ベッドで過ごすことが多かった歩夢さんの体調を気にかけたシロップさんが、自宅に来てくれたのです。
シロップさんは、自分も入院中に心の支えとなっていた芸を歩夢さんに見せることで、少しでも元気になってもらいたいと考えていました。そしてベッドの上でひとりでもできる「皿回し」をやって見せて、歩夢さんに教えました。
シロップさんのアドバイスのおかげですぐに皿を回すことができた歩夢さんは、この日一番の笑顔を見せてくれました。
皿回しの楽しさを知った歩夢さんは、10月に開かれる皿回しの大会にシロップさんと弟の凪登さんと一緒に出ることを目標に、練習を続けてきました。
「皿回しはやっていて楽しいです。シロップさんに大会に誘われて、せっかくだから兄弟で出よう、ということになりました。できるだけ頑張ります」(歩夢さん)
初めて挑んだ皿回しの大会
いよいよ大会当日。皿回しといってもスポーツの大会なので、皿を回すだけではありません。「玉入れ」ならぬ「皿入れ」の競技では、2.5メートル離れた所にある箱に皿を投げ入れて、その枚数を競います。歩夢さんも他の2人に負けず、懸命に投げ入れていました。
大会で一番盛り上がったのが、チームの3人で交代しながら皿回しをして25メートルのタイムを競う「リレー」でした。ゆっくりですが、少し走ることができた歩夢さん。3人で力を合わせて皿回しをつなぎ、無事にゴールすることができました。
歩夢さんにとってはすべてが初めての経験でした。無事に大会を終えて、すがすがしい表情をしていました。シロップさんも3人のチームで出場できたことを喜んでいました。
「疲れたけど、楽しかったです。これからもっといろんな技ができるようになりたいです」(歩夢さん)
「このメンバーでできて僕もうれしかったです。歩夢くんと凪登くんの笑っている姿を見られて、この大会に出られてよかったです」(シロップさん)
歩夢さんは、いつか病気を克服して、またこの3人で大会に出たいと話していました。
【編集後記】
歩夢さんは今も闘病中で、日によって体調が良い時と悪い時があります。でも皿回しをする時はいつも表情がいきいきとしていました。来年の大会では、もっと上手になった歩夢さんの姿を見られると思います。
目標に向かって練習をする歩夢さんの姿、そして今は病気を克服して、子どもたちのために活動を続けるシロップさんの姿は、多くの人たちの励みになるのではないかなと感じました。
(福岡放送局 鶴田幹人)