福井の博物館 日本一のワケは“地球のものさし”年縞にアリ!
- 2023年04月28日
このしま模様、一体なんだと思いますか?じつはこれ、「年縞(ねんこう)」とよばれる地層です。長い年月をかけて、湖の底に黄砂などが積み重なってできた年縞、およそ7cmのなかに地球100年分の歴史が刻まれているんです。この年縞を通して7万年の時をたどることができる博物館が、福井県若狭町にあります。
7万年の時の長さを一望に
若狭町にある「福井県年縞博物館」です。名前の通り、展示されているのは、「年縞」とよばれる地層、ただそれだけ。でも、日本全国47都道府県に5700以上ある博物館の中から、毎年もっとも優れた施設に贈られる「日本博物館協会賞」を2021年に受賞したスゴイ博物館なんです。
建物のなかに入ると、長~い廊下のような展示室がありました。
縦に積もった地層を掘り出して、横に並べて展示していています。その長さ、じつに45メートル。地球の壮大な歴史を実感できるこのデザインも、博物館協会賞で評価されたポイントです。
展示された年縞に近づいてみると、その名の通り、細いしま状に地層が重なっています。なぜこのようなしまができるのか。じつは湖底に沈む泥は季節によって違います。春から秋はプランクトンの死がいなど有機物が多いため黒い色に、冬は有機物が少なく、黄砂などの割合が多くなるので白い色になります。毎年規則正しくこの黒白1セットの泥が積み重なり、7万年の時を刻んできたのです。
地球で唯一の年縞生んだ3つの奇跡
この年縞が見つかったのは、福井県若狭町と美浜町にまたがる三方五湖の1つ、水月湖の底です。なぜ水月湖には、世界でも類を見ない7万年におよぶ年縞が形成されることになったのか。そこには、この湖ならではの3つの条件がありました。
①直接流れ込む大きな川がない
たとえ、周囲の山に大雨が降っても川が運ぶ土砂は隣の三方湖に沈みます。水月湖には三方湖で流れが穏やかになった水が静かに注ぎ込むため、湖底の泥がかき混ぜられることがありません。
②湖底に生き物がいない
水月湖は、水深が最大で34mと深く、水の流れも穏やかで湖水がかき混ぜられないため、湖底近くには酸素がありません。虫も魚も生きることができないため、湖底の堆積物がかき乱されることはありません。
③沈み続ける湖底
最大水深34メートルの湖にどうしたら45メートルの地層が積み重なるのか。普通なら湖が埋まってしまうところですが、なんと水月湖は周辺の断層の影響で、長い間少しづつ沈み続けているといいます。沈む速度が泥が積もる速さを上回るため、水深が深いまま湖底に年縞が溜まり続けているのです。
日本には年縞が確認されている湖がいくつかありますが、これほど安定して年縞が形成される場所は他にありません。水月湖はまさしく“奇跡の湖”なのです。
年縞が教えてくれること
年縞が大変貴重なものだということはよくわかりましたが、いったいどのように見ればよいのでしょうか。この博物館には、年縞の魅力をわかりやすく教えてくれるナビゲーターがいます。そのうちのお一人、福田英則さんに聞きました。
こちらは、いまから440年ほど前の年縞です。規則的なしま模様がとぎれ、大量の堆積物が一度に積み重なっています。これは、湖の壁面が崩れ、大量の泥が湖底に積み重なったためだと考えられます。この年、1586年に起きた天正地震は、豊臣秀吉が建てた長浜城をほぼ全壊させるほどの大きさだったと伝わっています。
一方、およそ2万800年前のこちらの層は火山灰です。この時期、鳥取県の大山が噴火したことが分かっています。
年縞に含まれる化石から、当時の気候を知ることもできます。水月湖の年縞からは、しらかばやもみの木の花粉も見つかっており、当時の周辺気温はいまの北海道くらい寒かったこともわかります。
年縞博物館には福田さんのようなナビゲーターの方が常にいて、予約なしに案内してもらうことができます。ほかのお客さんの対応で手が離せないときは、スマートフォンで展示ケースの2次元コードを読み取れば、その年縞の解説文が表示されるようにもなっています。
私の役割は、みなさんに年縞を正確に楽しく伝えることだと思っています。 「おもしろかった、また来るよ」そのひと言が、よかったと思うひとときです。
年縞は“地球のものさし”
さらに年縞は、“地球のものさし”として、年代測定にも役立てられています。
考古学の年代測定に広く使われている「放射性炭素年代測定法」は、動植物に含まれる炭素14が死後、一定の周期で量を減らしていく性質を利用して年代を測る方法です。しかし、動植物に含まれる炭素14の量は時代によって変動するため、この測定法には常に誤差が生じていました。
ところが、水月湖の年縞が発見されると、1年刻みで年縞に残る花粉の化石を調べることでその年の動植物に含まれる炭素14の値を正確に知ることができるようになりました。このデータと縄文土器に残るススやコゲの炭素14を比較すれば、これまで生じていた誤差を修正できます。水月湖の年縞は、いわば「7万目盛りの時間のものさし」、年代測定を修正する国際基準に採用されています。
サンドイッチで年縞採取?
博物館を楽しんだ後は、館内にあるカフェで一息つくこともできます。看板メニューは、この「年縞サンド」です。炭を練り込んだパンで、スモークチキンや卵、トマトなどをはさんで年縞をイメージしています。さらに…。
サンドイッチに刺さったストローを引き抜くと、水月湖から年縞を取り出す作業を再現できちゃうんです。
お子様にも喜んでいただけるので、家族連れも増えて、みんな動画を撮って楽しんで帰られます。地元の方、県外の方、もれなく来ていただきたいという思いで、みんなで頑張っています。
年縞は世界に誇る若狭の宝
若狭の湖に、地球の歴史を解き明かすカギが眠っている。そんな年縞の魅力を知って、地元の漁師さんたちも協力を惜しみません。年縞採取を行うときには、足場を組む材料の運搬から、調査員の送迎、採取した年縞を運び出す役目などを担っており、年縞採取には欠かせない存在なんです。
みなさんの地元にも地域の宝を展示する博物館がきっとあります。そしてそこには、熱意を持ってその魅力を守り伝える人がいます。次のお休みはぜひ、そんな博物館を訪ねて人に、宝に、出会ってみませんか?
福井県年縞博物館
福井県三方上中郡若狭町鳥浜122-12-1(縄文ロマンパーク内)
営業時間 9:00~17:00( 入館は16:30まで )
休館日 毎週火曜 年末年始(12/29~1/2)※4~5月の大型連休および夏休み期間は無休