言えないけど、言いたい
- 2023年02月14日
本当のことを言えば、大切な友達を、家族を、失うかもしれない。
でも、そんな大切な人たちに、うそをつき続けることもつらいーー
そんな苦しみを抱える人たちが、あなたのすぐそばにもいます。
(福井放送局 記者 鈴木翔太)
ずーっと「ウソ」をついてるみたい
「どうしよう」
中学生だった「まぁをん」さん。
「自分は、人と違う」と強く認識したときに、頭に浮かんだことばです。
小学生時代は周りと同じように男の子のことを好きになっていました。
中学生になって、初めて女の子のことを好きになりました。
まぁをんさん
自分の中でも異性を好きになるのが普通というか「それが当たり前なんだ」っていう思いがあったので。最初に気づいた時は「どうしよう」って感じがありました。周りにも言えない、自分の中だけで考えないといけない。どうしたらいいのかなって。
思春期真っ盛りの学生時代。友達と盛り上がる定番の話題は恋バナ=恋愛話です。
しかし友達みんなが話すのは好きな「男の子」の話。悪いことをしているわけではないのに、どこか後ろめたさを感じていました。
まぁをんさん
ずーっとウソついてるみたいで。恋愛の話とかも避けるようにしてましたし。別に私自身も男性も好きになることあるんですけど、なんか恋愛の話に入っていくと、どこかで周りの人とは違うことを言っちゃいそうな感覚があって、避けるようになりました。
苦しみを吐き出す先は、毎日スマホに書く日記だけ。高校生の時の日記には、こう書かれていました。
「こう考えると恋愛なんか絶対できひんやんって思う」
「自分の気持ちを出し過ぎたら嫌われるて、そんなあかん人間なんかな、自分に自信も持てへん」
当時好きだったのは、よく遊ぶ同じグループの女の子でした。
進学を機に福井に来たまぁをんさん。そこで、大きな転機となる出会いが待っていました。
私も、壊れかけていた
まりさんは、性自認が男性でも女性でもない「ノンバイナリー」。就職後にカミングアウト、現在は友達や家族にもその性自認を受け入れられています。
しかし、まりさんも学生時代はセクシュアリティーを隠し続けてきました。
友達が悪気なく、何気なく言い放った冗談が、いまでもトゲのように刺さっています。
まりさん
女の子どうしが仲いいと「あの子たち付き合ってるんじゃないの」って言ったりとか、笑ってからかうような表現をしたりとか。そこまで悪い言葉ではないんですけど、当事者だとそれが敏感に聞こえてしまって。自分が性的マイノリティーだってことは、よくないことなんだって思ってしまっていました。
まりさんは中学生の時、いじめを受けていました。たとえ成長しても、その記憶は、自分が性的マイノリティーだと周囲に知られてしまうことへの強い恐怖感へとつながっていました。
「また、いじめられるかもしれない」
環境を変えづらい学生時代は、絶対にカミングアウトしないーーそう決意する一方で、自分のことを隠し続けることにも苦しみを抱えてきました。
まりさん
大切なものを失ってしまいそうな恐怖もありました。「友達が友達じゃなくなっちゃうんじゃないかな』っていう。苦しかったです。うそをついてるような感じにもなりますし、人間ってやっぱり自分にうそをつくと心が壊れていくと思うんです。だから、もう壊れかけです、学生のころは。
幸せを守るために、ウソをついた
ふたりは出会ってから間もなく交際を始め、後に一緒に暮らし始めます。まぁをんさんは自分以外の性的マイノリティーの人と会うのは初めて。思春期真っ盛りだったころに避けていた「恋バナ」もできる、その環境に喜びを感じる日々でした。
好きな人との、幸せな暮らし。
ある1点、とても大切な1点を除いて、まぁをんさんの日々は充実していました。
まぁをんさん
「親にも絶対言わない」って決めていました。親にとって自分のセクシュアリティーは悲しいことなんじゃないかって。
昔テレビのニュースでLGBTの話題が流れて、それを両親と見ていたんです。その時に、ちょっと批判的なことを言っていて。自分もそうなんだって伝えたとしたら、どうなってしまうんだろう、同じように否定されるのかなって思って。
大切な家族。だから、本当のことが言えない。
まぁをんさんはもうひとつ、ウソをつきました。
まぁをんさんは家族と、その日食べたごはんの写真をLINEで報告することを習慣にしていました。
まりさんの家で一緒に暮らし始めると、本当に食べたものの写真が送れなくなりました。
自分の部屋にない机に、自分が持っていない食器。それが写った写真を見られると、きっと家族はいろいろと聞いてくる。もし…いや、きっと、そこに悪気など一切ない。ただ、それにまぁをんさんは耐えることはできなかったのです。
一度ついたウソは、再び次のウソに繋がる。
仲のいい家族とのLINEは、いつしかウソばかりのものになっていました。
大丈夫、私もあなたのそばにいる
そんなまぁをんさんの姿を、まりさんは一番近くで見続けていました。
まりさん
苦しそうで、悲しそうで。怖い、怖い、でも言えないことが、つらい、つらい、って。ママにこんなウソの写真を送らなきゃいけない、って。
言いたいけど、言えない。
言えないけど、言いたい。
「そんなに仲がいいなら、ママなら、大丈夫。私もそばにいるから」
背中を押してくれたのも、一緒にいた大好きな人のひと言でした。
まぁをんさん
「多分セクシャルマイノリティなんよね」
「最近付き合い始めた人がいて、その人は女の人なんや」
「拒絶されるかなとか気持ち悪いって思われるかなって思ったけど、ずっと黙っとるのもなぁって思って、まずママにだけ言った」
10分後。
母親
「最近、ママYouTubeにはまっててさ」
「LGBTってワードがめちゃくちゃ出てきて、そういう人がいるんやって、めっちゃいっぱいそういう人たちのYouTube見てたねん」
「正直ショックやなぁ」
「けど、理解者で在らないとあかんからなぁ、ママは」
私たちは、ここにいます
去年1月、まりさんはまぁをんさんにプロポーズをしました。
婚約指輪は手作り。一生を共にすると誓いました。
ふたりが暮らす福井県越前市がパートナーシップ宣誓制度を導入した時には、その初日に届け出ることを決めました。多くのメディアが集まる初日、そこで顔を出して取材を受けることで、自分たちのような人たちのことを知ってほしいという思いからでした。
届け出の日には市役所の職員たちによるセレモニーも開かれ、誓約書にサインする時には少し緊張した面持ちだったふたり。それでも温かい拍手で祝福されると、晴れやかな笑顔を浮かべていました。
ふたりはいま、法律のもとで関係が認められること、つまり同性婚の導入を求めています。ただ本当に目指している社会はその先にあると話してくれました。
まぁをんさん
性的マイノリティーであることを普通に受け入れてもらえるような社会になったらいいなと思います。それが当たり前になってほしいです
まりさん
人はみな同じ生き物なので。差別や偏見、そういう壁がなくなって、みんながお互いの幸せを喜べるような社会になったらいいと思います
そんな社会に向けて、ふたりはSNSでの発信に積極的に取り組んでいます。「#福井セクマイ暮らし」というハッシュタグとともに投稿するのは、きょうはこんなものを食べた、あんなところに出かけた、こんなことがあった…
そんな日常の、本当の風景です。
「私たちはここにいます。それを知ってほしい」
そう考える2人は、もうきっと、ウソをつくことはないでしょう。
性的マイノリティーの当事者じゃない人へ
それぞれ好き嫌いがあると思います。私たちのことに好感を持たなかったり、ちょっと嫌だなって思う人もいると思います。でも、例えばピーマンが嫌いだからといって、スーパーにあるピーマンに「あのピーマンおいしくない!」とか、ピーマンを投げつけたりしないですよね。同じように、そういうことはしないで、そっとしていただけると私たちはありがたいです。
(まりさん)
性的マイノリティーの当事者の人たちへ
「性的マイノリティーの人たちは本当にいるんだ」っていうことを伝えたいです。ひとりじゃないと思ってもらうことで、少しでも勇気を持ってもらいたいと思っています。
(まぁをんさん)