4月11日(木) 放送
「高齢者の健康・『フレイル』予防最前線」

羽生:
「幸福度日本一ふくいの謎」。 テーマは先週に引き続き「健康」、きょうは特に「高齢者の健康」がテーマです。 取材した豊島さんです。

豊島:
角谷さん、羽生さんは「フレイル」ということばをご存じでしょうか。 パッと聞いても何のことかわからない方もいらっしゃると思います。 こちらをご覧下さい。

豊島:
こちらは「健康な人」。反対側は「介護が必要な状態の人」ですね。 その中間、介護が必要になる前の段階で、体や心が虚弱な状態をさすことばです。 この「フレイル」の段階で自分の弱い部分を知って適切な行動をとることで、要介護状態になりにくいとされています。その弱いところをみつける取り組みを、「フレイルチェック」といいます。

豊島:
従来の健康診断や介護予防と違い、日頃の社会との関わりも含めて把握する新たな仕組みとして全国でも大学などの研究機関と市町村が協力して広がりつつある取り組みなんです。

角谷:
福井は、介護の必要がなく健康的に生活できる期間を示す「健康寿命」が全国4位と全国的にも健康長寿県ですよね。それでも取り組みの必要があるんですか。

豊島:
確かにそうなんですが、一方で介護が必要な人の割合は増え続けている現実もあるんです。こうした中、県はさらに健康寿命を伸ばそうと、今年度から県内全域でフレイルチェックをスタートさせようとしています。現場を取材しました。

ー 美浜町に住む高木登美子さん(75)です。 同居していた母親が去年、施設に入所して1人暮らしになった高木さん。 家では、人と話すことがほとんどありません。最近は膝に痛みがあり、歩くのもつらいことがあるといいます。

ー 高木さんはこの日、町の福祉センターに向かいました。 町が去年から始めた「フレイルチェック」に参加するためです。

ー チェックするのは「運動」「口の動き」「社会参加」の3つの観点です。 かむ力が衰えていないかや、人と一緒にごはんを食べているかなど、 21の項目を確認します。

ー 当てはまれば青いシール、当てはまらなければ赤いシールを貼り、 心身の状態がひと目で分かる仕組みです。

ー いすから片足で立ち上がれるか、足腰の強さをはかる項目では。
フレイルトレーナー(理学療法士):
もうちょっとです。お尻が上がらんとかじゃないから。
高木さん:
立てるようになりますか?
フレイルトレーナー(理学療法士):
なります。無理するとよくないから、ちょっとずつ。

ー 高木さんの赤シールは、21項目のうち3つ。足腰の筋肉や定期的な運動の量、それに、社会とのつながりが十分ではないことがわかりました。

ー 取り組みを始めた背景には、介護をめぐる状況の深刻化があります。県内で、介護が必要と認定された高齢者の割合「要介護認定率」は年々増加し、この20年でおよそ2倍に。

ー 経済的負担も増え、高齢者が支払う介護保険料は平均で月額6000円と、20年前のおよそ1.9倍に増えました。今後も増え続け、2025年には7000円を超える見込みです。

ー 「フレイルチェック」の仕組みを発案した東京大学の飯島勝矢教授です。 介護予防で大切なのは体の状態に加えて、人とのつながりだといいます。

東京大学 飯島勝矢教授:
体の衰えだけでなくていかに普段から集っているか、社会性、人とのつながりも含めてですね、包括的に幅広く評価したのはフレイルチェックなんです。 健康長寿をさらに加速させるのかっていうところにフレイル予防の活動がもう一役買ってほしいなと

ー 家では1人暮らしの高木さん、フレイルチェックの場では笑顔が出ていました。新しい友達ができたからです。

ー 社会的なつながりに加えて自宅でも、自分の弱点だとわかった足腰を鍛えようとストレッチを始めた高木さん。介護予防の枠を越えいきがいにもつながっているといいます。
高木さん:
やっぱ家から出なきゃいきない。同じ所にいてはいけないと感じました。 楽しくなきゃね、せっかく生きてるんですから、楽しいのじゃないといけない。

角谷:
体の状態だけではなく、社会とのつながり、社会参加が大事だということなんですね。
豊島:
そうなんです。「フレイルチェック」を発案した東京大学の研究機構がおよそ5万人の高齢者を対象に、日常的な行動や活動を調査したところ、運動だけをしている人よりも運動はしていなくても社会活動をしている人の方が、フレイルになりにくいという結果が出たということです。高齢になっても社会とつながりを保っている人、「役割」を持っている人など心身ともに健康な状態を保ちやすいということが言えると思います。

羽生:
フレイルチェックはどこで受けられるんですか。

豊島:
現在はご紹介した美浜町のほか、坂井市やあわら市などで行われていますが、今年度中に県内すべての自治体で始まるということです。 詳しくは地元の市や町の窓口に問い合わせてください。 また、フレイルチェックでは高木さんのような参加者はもちろん、緑のTシャツを着てチェックをしていたボランティアのサポーターとして参加もできるということです。 自分がフレイルだとわかった場合は、県の保健センターや体操教室も紹介してくれますので、お住まいの自治体に問い合わせてください。

角谷:
先週から2回にわたって健康をテーマにお伝えしてきましたが、幸福度を考えるシリーズとして健康を「幸せ」につなげるには、という点についても取材してきたんですよね。
豊島:
はい。リポートでご紹介した飯島教授に幸福と健康について、お考えを聞いてみました。

東京大学 飯島勝矢教授:
幸福っていうものと、健康っていうのは完全にイコールかと言われるとちょっと微妙かもしれませんけど。それは何でかと言うと、決して体の健康だけが幸福とは限らないかもしれないので、イコールとは限らないんですが。あした誰と会いたい、あさって何をやりたいというところの部分のモチベーションのところですよね。ある意味心の健康といっていいのかもしれませんけど、そこら辺も加味した健康というものと幸福というものは、そういう意味では、「人」の字じゃないですけど一対のものかなという感じはしますね。

角谷:
何をやりたい、誰と会いたい、そういう希望を持って人とつながって生活していくことが心の健康、それが幸せとつながっていく、という話なんですね。
豊島:
そうですね。高木さんもそうですけど、自身が両親の介護を経験して、つらいことも多かったからこそ、自分はなるべく健康で生きていたいという参加者が多かったのが印象的でした。私もまだ20代前半ですが、両親や大切な人にも必ず老いは来るので、決して人ごとではないと感じました。その時に困らないよう、体の健康だけではなく社会参加しやすいまちづくりを今から考えていくべきだと感じました。

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