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詐欺ゼロ拡大版 “特別防犯対策監”杉良太郎さんに聞く

2022年9月16日(金)

県内でも後を絶たない特殊詐欺の被害。
こうした中、俳優の杉良太郎さんが被害防止を呼びかけるため、福井県警を訪れました。数多くの時代劇や刑事ドラマで主役を演じ、いまの中高年の世代から「杉さま」と呼ばれ、圧倒的な支持を得ている杉さん。警察庁の特別防犯対策監として来県した杉さんから特殊詐欺撲滅にかける思いを聞きました。

■杉良太郎さんって

「杉さんってどんな俳優か知ってる?」。
インタビューの日取りが決まったころ、私より20ほど年上の上司がたずねてきたひとこと。
上司は、杉さんが主演した刑事ドラマの魅力を熱っぽく語ると主題歌のフレーズを口ずさんでいました。
少し引き気味にその様子を見ていましたが、杉さんをほとんど知らなかった私にとってその魅力がどれだけ大きいものか、気づいていませんでした。

■“対策監”としての杉さん

俳優・歌手活動にとどまらず、長年続けてきた刑務所への訪問などのほか、海外を含めて多くの慈善活動に取り組んできた杉さん。
4年前(H30)、警察庁から「特別防犯対策監」に委嘱され、被害が後を絶たない特殊詐欺の撲滅を目指しています。委嘱を受けた芸能人たちとプロジェクトチームを結成。みずから被害防止のPRビデオに出演するとともに、全国各地を回って、被害防止を呼びかけてきました。

■杉さんが会見で語ったこと

「特別防犯対策監」として、これまで30以上の都道府県を回ってきたという杉さん。「私が杉良太郎です」。ひとこと自己紹介しただけで、会見場の空気が引き締まり、刑事ドラマの主人公のように放たれる鋭い眼光からは、トップスターの圧倒的なオーラが漂っていました。
ところが、福井の印象を語り始めた杉さんの表情はいつしか穏やかになっていました。

杉さん
「福井は思い出の深いといいますか、今から53年前、私が日活の映画でロケーションに参りました。そのときの知事さんが私たちをもてなしてくれまして、たくさんカニを用意してくれました。この知事さんが「杉さんはまだ来ないのか」っていうんですよ。私は隣にいるものですから冗談だと思っていたんですが、何度も「まだ来ないのか」っていうので、私は隣にいるものですから、「私が杉良太郎です」と言うと、「いやいや、あなたのような若い人ではなくて、杉さんはもっと年がいっている人だ」と言われて、本人の私はどうしたらいいのかなと戸惑った記憶があります。いつも、カツラ着けていたので、年寄りだと思ったんでしょう。そんなとき以来です」

スターにしか語れないエピソードで私たちの心をわしづかみにした杉さん。
話が特殊詐欺被害に及ぶと、各地の状況を見て回ってきた杉さんにしか言うことができない思いとともに、
特殊詐欺撲滅への強い決意を話しました。


■「割に合わない仕事だ」と思わせなければならない

「被害者が本当に大事な浄財を盗み取られて、そのあと人生が盗み取られる。その人が生きていくのが困難な状況で、真っ暗闇な毎日を送っているんですね。(私が)被害者と会ったとき、話をしたとき、痛切にそれを感じていますので、被害者の人たちはどんどん被害を訴えてほしいと思いますし、その辺りのケアをしていきたい。最終的には詐欺は自分たちが、「割にあわない仕事だな」と思わせなければいけない。そこまでやるつもりです」

記者会見のあと、杉さんは特別にインタビューに応じてくれました。


太田
「特殊詐欺の被害にあった方などと話して印象に残っていることはありますか?」

杉さんにたずねると、高齢者のすきにつけこみ、財産だけではなく、心に癒えることのない深い傷を残す特殊詐欺が“許せないもの”になったと話しました。

杉さん
「今の職に就く前は、『なんでそんなに簡単に詐欺でだまされちゃうんだろう』と疑問がずっとありました。例えば、還付金詐欺とかってよくありますよね。『ATMに行ってください』と言った時点で詐欺に決まっているじゃないですか。でも、一般的に高齢者といわれている方々は、日々、情緒が違うし、体調や気分が違う。『なにかちょっと調子が悪いな』と思っていたところに『ぽん』と知らない人から怖い話しが、電話がかかってくる。『あなたのカードが不正に利用されている』とか、『還付金があるので、早く取りに行かないと、期限があるから無効になりますよ』とか。日ごろだったら、判断できる。そのときたまたま、犯人がその辺り一帯を5000軒も6000軒も電話を集中してかけているエリアの中の1人になっちゃうんです。人にだまされて、ものすごく怖い目に遭って、一生懸命老後のためにためてきた大事なお金をだまし取られて、お金も取られ、精神的にも大きな傷が残る。おそらく死ぬまで忘れない。この傷が特殊詐欺にとって、一番の罪だと思うんですよね」

そのうえで、穏やかで、はっきりとものを言う人が少ないといわれる福井の人たちを案じつつ、次の被害を生まないためにも、被害があったときにはすぐに申告する勇気を持ってほしいと呼びかけました。

杉さん
「そういった(穏やかな)県民性・市民性があるので、なおのこと、例えば被害にあっても『私被害にあいました』と、なかなか口に出せない人も多いかなと。かえって心配になります。堂々と警察に『こんな被害に遭いました』と訴える人はいいんですよ。だけど被害にあっても『人に言えないから』『恥ずかしいから』『自分が馬鹿だったんだ』ということで、それを無かったことにしてしまう人がいるんですよ。福井の人がその方向に行っては困るんです。被害は被害として届けてもらわなきゃいけない。県民の皆さんに勇気を持って『私はこんな被害にあったんだ』と『こんな変な電話があったんだ』ということを伝えてほしい」

そして、県民に向けて被害防止につながる極めてシンプルなアドバイスを送ってくれました。

杉さん
「詐欺というのは気をつけていても、自分の体調とかで一瞬の隙を突かれてしまうわけです。だから、これだけは守ってほしいものは『還付金だ、カードだ』とか『警察だ、役所だ』とか、知らない人から電話がかかってきて、お金の話が出たら、これは詐欺ですから。切っちゃっていいんです。絶対に守ってほしい」

アドバイスは、福井県警の特殊詐欺撲滅アンバサダーを務める、私にも。

杉さん
「ひとつできることと言えば、直接高齢者に『ひとこと』話してあげるということはできるかな。個人に『電話でお金の話が出たら気をつけてね』『電話でお金の話があったらそれは詐欺よ』。みんな100%(話を)聞きます。こうしたことを地道に、ずっと続けていただければ、ありがたいことだと思います」

また、杉さんは、間もなく高性能な防犯機能付き電話が完成するという見通しを示してくれました。 日ごろの声かけとともに、被害防止に有効な電話を高齢の家族に贈るなど「家族の絆」で特殊詐欺に立ち向かってほしいと呼びかけました。


筆者紹介

二村康介


二村康介 令和2年入局 嶺南支局。当時は警察取材担当。
アメリカンフットボールが趣味で、県内の大学ではコーチ役も。

インタビューを終えた感想
特別防犯対策監の杉さんからは、圧倒的なオーラを感じた一方、語りかけることばの一つ一つに人に対する優しさがにじみ出ていました。取材後、携帯の待ち受け画面を見ると、杉さんの顔写真が映し出されていました。中高年のみならず、私の心もわしづかみにした杉さん。待ち受け画面を見ながら、改めて特殊詐欺の被害の深刻さや防止につながる取り組みを伝えていきたいと感じました。


太田実穂"

太田実穂 福井局 「ニュースザウルスふくい」キャスター
福井県警の特殊詐欺撲滅アンバサダーも務める。

インタビューを終えた感想
杉さんへのインタビュー前日、母にそのことを伝えると「え!杉さんに会えるの?お母さんが会いたい」と大興奮でした。母の思いも胸にインタビューに臨みましたが、大スターのオーラに背筋がピンと伸びたことを今でも思い出します。杉さんの力強いまなざしとことばに、緊張しっぱなしでした。ふだんから、番組や街頭で特殊詐欺の被害防止を呼びかけていますが、「どれだけの人にきちんと伝わっていたのだろうか」とその使命感に気づかされました。杉さんからいただいたアドバイスを胸に、番組での呼びかけはもちろん、直接、県民の皆さんに声をかけていきたいと感じました。

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