NHK杯全国高校放送コンテスト

第68回 決勝・大会リポート

映画監督・三島 有紀子さん(全部門審査員)

初審査員をされてみていかがでしたか?

コロナ禍で様々な制限がありながらも、「絶対にこの作品をコンテストに出すぞ!」という放送部のみなさんの気概を感じる作品がたくさん集まっていたと思います。初めて参加させていただき、みなさんが伝えたいことを受け取れるよう、一生懸命目も耳も神経を研ぎ澄ませてのぞみました。

印象に残った作品を教えてください。

私は、新城 美咲さん(沖縄県立開邦高等学校)の朗読がとても心に響きました。間合いの取り方が素晴らしかったですし、聞いているだけで情景が浮かんでくるようで、新城さんのことばが感情豊かに伝わりました。工藤 倖暖さん(青森明の星高等学校)は、現在の年齢の声が生かされた朗読で、軽やかさと重さのバランスがよかったです。
アナウンス部門や朗読部門はプロではないので審査が難しかったのですが、伝わっているのか?というシンプルな基準で審査させていただきました。
朗読で言うと、聞いてる側が、想像する「間」をきちんととってくれることが大事だなと思いました。これは役者さんに近いので役者さんに必要なことをお伝えすると、「読解力」「想像力」「表現力」が同じ重さで大切と思います。読み方がうまくても、なんとなく伝わりますが、理解して想像できていないと、心までは届かないものです。どこまで、作者の描いた世界を理解しているかは、とても大きいなと思いました。

ラジオドキュメント部門では、「Gong for USA」(大分県立宇佐高等学校)に注目しました。地名の“宇佐”をアルファベット表記すると“USA(ユーエスエー)”と表記することから、「ローマ字表記のユニフォームにアメリカからクレームが来た」という噂が本当なのか掘り下げ、根気よく調べてヤッターマンまでたどり着き、町がユーエスエー=アメリカというイメージを利用してるところまで話を持っていったところにジャーナリズムのスタートを見ました。面白かったですね。

甲子園で選手紹介をするとき、当たり前のように「〇〇くん」と呼ばれることに疑問を持ち、「〇〇さん」と呼んでもいいのではないかという問題に着目した、ラジオドキュメント部門の「neutral」(鹿児島県立鶴丸高等学校)も心に残っています。生徒さんがそういうところに敏感に反応して、トランスジェンダーの問題を扱ったという切り口が非常に面白かったです。「自分の性がわからない」という台詞も印象的な言葉でした。誰でもそうだと思いますが、自分の性だけじゃなく、自分がわからない、すべてはそこからスタートなのではないかと思うのです。だから心に響きました。

テレビドキュメント部門の「部活動のすゝめ」(浜松市立高等学校)は、自分たちの学校に対しておかしいと感じる部分を素直に掘り下げ、取材した事実を積み重ねてみせたことが面白かったですね。この年代ならではの視点が感じられました。

「しずかな おひるに」(埼玉県立宮代高等学校)も印象に残りました。
黙食。高校生たちの昼休みも我々と同じように黙食を強いられている姿が伝えられていました。
その中で放送部が、いかにみんなを楽しませることができるか、に挑んだドキュメンタリーでした。トライ&エラーを繰り返し、少しずつ進んでいく姿が描かれます。これからも続けて挑み続けていただけたらいいなと思いました。これ、放送部の基本なのでは?エンターテイメントの基本なのでは?と思いました。

創作ラジオドラマ部門の「それでいいの?」(札幌第一高等学校)は、演出がとてもすばらしかったですね。男女の会話から始まるのですが、やがてそれがもう1人の自分との対話であり、最終的には、トランスジェンダーとしてのもう一人の自分を表現していたことがわかるという仕掛け(演出・構成)がとてもうまくいっていたと思いますし、引き込まれました。

「闇然たる民」(北海道札幌南高等学校)は、「この問題をとにかく取り上げたい」という部員の方の気概を非常に感じた作品でした。現代、誰もが肌で感じる大きな恐怖を物語にうまく落とし込んでいました。

創作テレビドラマ部門は、どの作品もアニメーションっぽく描かれていたという印象です。
それぞれに表現したいことが明確で、それを素直に受け取りました。

「いつの日か 君に」(埼玉県立深谷第一高等学校)という作品は、心象風景がとても美しかったですね。セリフのない3人の、音楽だけの川のシーンが秀逸でした。

「NOWHERE MAN」(秋田県立由利高等学校)は、なぜ映像で伝えるのか、を一番考えられていた作品だなと思いました。モノローグはある程度削ぎ落としても良かったかなと思うくらい映像で語られています。私は映画監督ですから、やはり映像で語られているところがとても好きでした。今のコロナの時期を見つめて、考えられた状況設定なのか聞いてみたいです。いずれにせよ、他者は鬱陶しいが、他者がいてこそ社会があり自分を認識し世界は生まれると言う普遍的なテーマであったと思います。

三島さんのSNSでは他の作品についてのコメントもいただいてますので、ぜひご覧ください。
https://www.instagram.com/p/CR-y3jSHJDl/
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※NHKサイトを離れます。

監督はいつから映画に親しまれていたのですか?

私は小さい頃、辛かったり悲しいできごとがあるとよく映画館に通っていました。映画には、悲しさやうれしさなど人間のいろんな感情が描かれていて、とにかく、この世界は生きる価値があるんだということを教えてもらいました。世界は広いし、人間はとても複雑な生き物です。そして、映画を作れば自分が経験した辛かった思いも全て表現に昇華することができると思ったことで、前向きに生きることができたんです。なので、小学生の時には映画を撮る仕事ができればいいなと思っていました。
そして高校時代には、演劇部でもないのに演劇作品を作っていたんです。通っていた高校は文化祭で全校生徒がクラスごとに演劇を作るという、ちょっと変わった校風の学校で、3年間、毎年作品を作っていました。それが私にとっての原点かもしれないですね。慣れない中で、みんなで時間をかけて作っていきました。出来上がった作品は、文化祭が終わると夢のように一瞬で消えていきました(大道具も含めて)が、映画監督をやっているとその繰り返しだということを身に染みて感じます。高校の時と同じことを今もやっているんですよね。
作品作りはもちろん辛いことの方がいっぱいありますが、「これを作りたい」という衝動が生まれたことを表現することはとても楽しいことですから、高校生のみなさんにはもっと自由に、どんどん作品を作ってもらえたらいいなと思います。

最後に放送部員の生徒たちに向けてメッセージをお願いします。

どの部門も、全ての表現において練習が必要だと思います。アナウンス、朗読に挑む方が発声練習を行うのはもちろんですけれども、部門問わず読解力と想像力と観察力が重要です。人間をどれだけ観察して、感情をどれだけ想像できるかは表現をする際の基本だと思います。それは電車の中、学校どこでもいくらでも鍛えることができるので、鍛錬を続けてほしいですね。また、自分がどんなことを気にしているのか、どんなことに悲しさや、うれしさを感じるのかという、自分を見つめる作業も大切。その両方を普段から積み重ねていくことが表現の練習になりますから、普段から意識してもらえたらいいなと思いますし、私自身もやり続けないといけないと改めて感じさせていただきました。ありがとうございます。

放送作家(日本放送作家協会理事長)・さらだ たまこさん(番組部門審査員)

2年ぶりの開催。今までとは違う部分はありましたか?

昨年開催できなかったということもあり、どの作品も一年間貯めてきたアイディアが爆発していてとても良かったです。この1年の状況を作品に反映している印象を受けたので、昨年作っていた作品とは違うもので挑まれた高校が多いなと思いました。
審査員をさせていただいたのは今回で8回目だと思うんですけど、審査員を始めた最初の1年、2年は、映画でいえば自主制作の匂いがしていたんです。でも、ここ5年くらいで作品のレベルが上がってきましたね。その理由について先生たちに聞いたら、良い機材が安く手に入るようになったそうなんです。それに今の子たちは、子供の頃からスマホやパソコンを使い慣れていて、適当にイジっているうちに編集が出来てしまうほど、デジタル機器の扱い方を理解するのが早いんですよね。

特にレベルが上がった部分はありますか?

そうですね、演技がかなりアップグレードしてる気がしています。ナレーションもそのまま声優さんとして活躍できるのではないかと思えるぐらいレベルが高い。今は、どこに住んでいてもネットで何でも見られて、お手本になるものもいっぱいありますからね。

より良くするために何かアドバイスはありますか?

どの作品も、「もうチョットこうした方が良いだろう」と制作途中で付け加えたと思われる部分が、余分だった気がします。「ここには、ナレーションを入れない方が良いのにな」と思う作品がいっぱいありましたね。あとは、素材を詰め込み過ぎているように感じました。目一杯入れ込んだら一度、引いてみるのも手だと思いました。でも、以前は「もっと、ちゃんとやればいいのに」と物足りなさを感じる作品もあったので、それより進歩していると思いますけどね。
今回のラジオドキュメント部門は、エンターテインメント性が強かったですね。一歩間違えると、全部作りこんでいるんじゃないかと思うものもありましたけど、エンターテイメントとして聞いたらとても面白かったですね。なので、バラエティーの要素を入れた作品も出せるように、集まった作品のなかから優秀なものに自由に賞を贈ってもいいのかなと私は思うんですけどね。時代は変わっていきますから、それに合わせて対応していってもいいかもしれないですね。

特に印象に残った作品を教えてください。

創作テレビドラマ部門の「いつの日か 君に」(埼玉県立深谷第一高等学校)は、文学作品としてよくできていました。恋愛の多様性も感じて、受け取り手によって解釈が自由にできる余韻がありましたね。埼玉の深谷の桜や渓谷が見えるローカルな景色や、短歌部で使う和室のお部屋を映し出したり、景観の作り方がすごく良かったです。登場人物たちの心理が見えてくる画面の切り替えも上手いなぁと思いました。なので、「国際的な映画で活躍してください」とお伝えしました。あとは、短歌で気持ちをやりとりしているから、もうちょっとセリフを減らして構成したらもっともいい作品になると思いました。

テレビドキュメント部門は全部優秀で、なかでも、「しずかな おひるに」(埼玉県立宮代高等学校)はすごく良かったですね。取材もしているけど、こちらから仕掛けていった提案型のドキュメンタリーでした。

「部活動のすゝめ」(浜松市立高等学校)は、部活動の休みがないことに疑問を抱いて、時短で行なっている部活動を見学しにいき、実際に自分たちの部活動を変えた作品。事実を追求し、アクションを起こしていたのが印象的でした。

「つないで つないで‼︎」(長野県松本深志高等学校)は、変化を求めて動いて、学校の先生や町長まで動かしていたのが面白いなと思いました。

戦争体験をつづった「私からあなたへ」(広島県立呉三津田高等学校)もすごく大切な作品だと思いますが、証言を聞いてまとめただけでは少し飽きを感じることも。ドキュメンタリーは、やらせはダメだけれど仕掛けるのはいいと思っています。せっかくいいお話なのだから、もっと仕掛けて欲しいなぁと思います。

ラジオドキュメント部門もナレーションや音楽の使い方は良かったんだけど、最終的に誰かを動かしてない感じがしたんですよね。例えば「はじめてのおつかい」というドキュメンタリーは、子どもが何かするのをじーっと待ってるわけじゃなくて、子どもを“お使いに行かせる”という仕掛けをして、それを追った番組。そんなふうに何か、変化を導いて欲しいですね。なかでも「彼氏がほしい!」(霧島市立国分中央高等学校)は、制作側の仕掛けを感じて、面白かったですね。

来年は通常通り開催できるといいですね。

いつもは、スタッフの高校生がお茶を持って来てくれたりして、部員や先生たち全員でNコンを支えている感じが良かったですよね。大会が終わると、NHKホールにいる生徒さんたちが、バスに乗って帰っていったこれまでの風景を思い出して、ちょっとグッときてしまいました。今年ももし開催できなかったら、どんどんNコンが廃たれていってしまうと思うので、無観客でもできたのは本当に良かったと思っています。来年こそは会場に生徒が集まって、準決勝の結果発表後にあがる、あの歓声を聞くことができるよう願っています。

日本大学 文理学部教育学科教授・中橋 雄さん(番組部門審査員)

2年ぶりに開催された今回の大会の作品を視聴されて、いかがでしたか?

コロナ禍のため、取材に行きづらいだけでなく、集まって部活動をすること自体も難しい状況だろうと想像していました。しかし、そんなことを感じさせない、この状況に屈しない力強い作品をたくさん観ることができて感動しました。また、コロナ禍をテーマにした作品や、この状況下で考えたことが創作につながっている作品も見られて、非常に興味深い大会でした。どの作品もこれまでになかったような創意工夫が見られて、審査員をするたびに高校生の発想力に驚かされるばかりです。

中でも印象に残った作品は?

全体的に、社会問題に対する高校生の視点が見られたことは、とても素晴らしいと感じました。
特に印象に残ったのは、創作ラジオドラマ部門の「闇然たる民」(北海道札幌南高等学校)。近年のSNSでのいじめ問題を取りあげていて、誰もが被害者にも加害者にもなり得るというストーリーが印象的でした。

創作ラジオドラマ部門の「それでいいの?」(札幌第一高等学校)は、トランスジェンダーを扱った作品。最初は仕掛けがわからない形で物語が進み、最後には強いメッセージを発信していました。演技がとても上手で、シナリオもとても良かったですね。

創作テレビドラマ部門で興味深かったのは、「いつの日か 君に」(埼玉県立深谷第一高等学校)という短歌で人の心を詠む作品。これは非常にカメラワークが上手でしたし、登場人物たちの気持ちが伝わる“ちょうどいい間(ま)”が取られていて、非常にレベルが高いなぁと思いました。

コロナ禍でも、作品作りを諦めない高校生たちにメッセージをお願いします。

みなさんにとって辛い時期があったかもしれないですが、その経験から見えてくるものを大事にして、しなやかに成長していっていただけるとうれしいです。今後も時代の変化に伴って社会は複雑に変化していきます。その変化を高校生らしい視点で捉えた新しい作品が生み出されていくことを期待しています。

クリエイター・ぶんけいさん(Nコン公式サポーター)

2年ぶりのNコン。ぶんけいさんの思いは?

昨年は完全に中止だったことを思うと、今年、大会が開催できたことがまずOBとしてうれしいです。スタッフの方しかいない会場を見たときは、正直、さみしいと思ったので、来年ぐらいには従来の形でできたらいいですね。
今回、NHKホールでの開催ではなかったので、すごく異様な状況ではありましたけど、それもまた、思い出として忘れられないだろうなぁと放送部のみんなのことを想像しながら、作品を拝見していました。

ぶんけいさんの印象に残った作品は?

創作テレビドラマ部門で優勝した、「いつの日か 君に」(埼玉県立深谷第一高等学校)は、もちろんすばらしかったですし、特に僕が推していたのは、「NOWHERE MAN」(秋田県立由利高等学校)でした。世界から誰もいなくなったというSFを思わせる設定で、撮影と演出がとても凝った作品でした。ハリウッド映画の場合は、ものすごい画力(えぢから)でSFを表現しますよね。でも、この作品は世界観がすごく淡々としていて、逆にリアリティーを感じる作品になっていました。
コロナ禍で生徒が校舎にいない状況からこの作品作りを思いついたのか、みんながいない世界を表現したいからガランとした校舎を生かそうとしたのか、どちらかはわからないですけど、人がいない校舎をあえて使うことで、SFを感じさせたという発想はめちゃめちゃおもしろい!コロナ禍じゃないと生まれなかったと思いますし、僕の代には見たことがない優秀な作品だと思いました。

現役生にメッセージをお願いします!

去年、大会が中止になり、今年もいつもとは違う形での開催になりました。来年、3年生になる子たちは、1年生の時に大会がなくて、2年生である今年は無観客での開催。ということは、通常のNコンを知っている子たちが来年には一人もいなくなるんです。今まで作りあげた歴史を重んじることも大切ですが、これを機に新たな作品、新たなNコンをみんなで作るくらいの気持ちで、チャレンジしていってもらえたらうれしいです。