右手

片付ける気力のわかなかった
私のちいさな文机
やっと片付けると

みちのくの旅で買い求めた
南部鉄の真っ黒兎の燭台に
火を灯す
私には
火を灯すことのできる
左手があったのだ

小さな灯を見つめながら
そのことを
右手はしみじみと思った

朗読

亀井かめい 満里まり

大分県 72歳 
肢体不自由

私は脳梗塞により、右片マヒ(重度)となりました。
何も成し得ぬまま年を取り、しかも利き手のマヒで深い絶望を味わいました。
燭台に火を灯すことができたとき、私には左手があると気が付きました。
生きる。何もできなくなったとしても、絶望しないで、ひたすら生きることを、生きようと思ったのです。