5月30日(日)放送
「死刑裁判」の現場 〜ある検事と死刑囚の44年〜

写真・左:語る土本武司氏
写真・右:死刑囚からの手紙

 

裁判員制度が始まり、司法への関心が高まっている。千葉法相は、死刑に関して国民的議論をしていきたいと述べた。こうした中で元裁判官など司法関係者も発言し始めている。しかし依然として厚いベールに覆われていたのが“検察”であった。その最高位にあった人物が重い口を開こうとしている。最高検察庁元検事、土本武司氏75歳である。
検察は、司法の中で唯一、捜査の初期段階から最終の判決確定まで一貫して現場に立ち、また死刑の執行を指揮する立場にもある。いわば死刑について最もよく知る立場である。土本氏は「国民的議論」のために、これまで自分が司法の現場で向き合ってきた「死刑」の現実について今話しておかなければならないと考えるようになった。
土本氏には、死刑をめぐって生涯忘れられない記憶がある。31歳の時、自ら取り調べた容疑者(犯行当時22歳・一人殺害)に死刑を求刑し、最高裁で確定させた事件である。死刑囚となったその青年と、土本は死刑が執行されるまで手紙を交わしていたのだ。手紙から、変わりゆく死刑囚の心情をくみ取った若き日の土本は、執行を止められないかと上司に恩赦をかけあうが死刑は執行された。「検事」と「人間」―ふたつの人格が心の中でせめぎあう。
土本氏が自らの体験を公にしようと決意した最大の理由は、裁判員制度の開始である。人を裁き、死刑を言い渡す義務を負わされる市民に、死刑の現実は全く知らされていない。これまで、死刑囚のプライバシーを理由に一切の情報が遮断されてきた。死刑についてはこれまで情報が無いために、正面から議論されることもほとんど皆無だった。また議論があっても、それは死刑を知らない机上の議論でったと土本氏は感じている。土本氏は、現場で考え続けてきた自らの思いや、死刑の現実を通して知ったその「重み」を伝えることで、開かれた議論のために一石を投じたいと決意している。
番組は、これまで日本の司法界でどのような議論が行われてきたのかを振り返りながら、その中枢で一人の検事が死刑とどう向き合ってきたかを再検証する。そして死刑に関する思索を深める。

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