4月22日(土)放送予定
春は巡ってきたけれど… 〜JR福知山線脱線事故・遺族の一年〜
写真左:居酒屋を営む中村重男さん。JR福知山線脱線事故で妻・道子さん(享年40歳)を亡くした。
写真右:107人が亡くなったJR福知山線脱線事故(平成17年4月25日)

 JR福知山線脱線事故。107人が亡くなったあの事故からまもなく1年。NHKは、ある遺族に了承を得て、事故直後から、生活の変化、JRとのやりとり、そして心の軌跡を詳細に記録し続けてきた。

  兵庫県の新興住宅地に住む中村重男さん(48歳)は妻・道子さん(享年40)を亡くし、受験を控えた中三の長男、海里(かいり)君と2人残された。

 大阪市内で居酒屋を営む中村さんは、事故までは連日近くのマンションに泊まり込むほどの仕事人間だった。家事のことは一切、例えばゴミの出し方一つ分からない。最初の一ヶ月は、妻を失った悲しみよりも、息子と二人の生活を軌道にのせることに、中村さんはまさに必死だった。  「まさか自分でこういうことを考えないといけないなんて。道子に怒られるだろうけど……」
 8月、海里君の携帯の留守電に道子さんの声が残されていたことが分かる。初めて聞く息子にあてた妻の声、中村さんは自分の知らない道子さんをもっと知りたいと、生前通っていたスポーツジムに入会する。「悲しいというより会いたい……」
 秋、海里君の成績が思うように伸びない。中村さんは一緒に漢字検定を受けることにした。漢字は海里君の苦手分野。「限界はありますけど、できることを一緒にやってあげたいと思う」
 今、親子は、二人三脚で受験に向け準備を進めている。

 こうした生活の一方で、中村さんはJRとの交渉にも追われるようになる。遺族との交渉は、マスコミ非公開を原則とするJRだが、中村さんが記録を希望したため、撮影を了承した。
 娘の死を無駄にしたくないと被害者の会「4・25ネットワーク」を結成した道子さんの実母、藤崎光子さん(66歳)とともに、事故原因の解明を目指しJRとの話し合いを続けている。
 しかしその溝は、1年近くたった今も、埋まってはいない。

 
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