日本と中国、複雑な二国間の政治に二度にわたり大きくほんろうされた男がいる。愛新覚羅溥傑(1907〜1994年)。清朝最後の皇帝で満州国皇帝となったラストエンペラー・溥儀の弟である。溥傑は満州国皇帝の弟として日本の華族、嵯峨侯爵家の長女・浩(ひろ)と結婚。日満一体化の象徴であるとともに、子宝に恵まれない溥儀の後継に日本人の血を入れるという関東軍の策略でもあった。浩との間に二人の娘・慧生(えいせい)と(こせい)をなすも、満州国崩壊とともに一家は中国と日本に生き別れる。そして16年を経て中国で再会。この再会劇もまた、戦後国交回復のままならぬ日中間の高度な政治劇の一幕として果たされた。
現代史の激流に飲み込まれながら、溥傑は自分を「血と骨をして日中友好を築く」といつも語った。政略結婚とはいえ分ち難い愛情で浩と家庭を築いた溥傑にとって、日中友好とはまさに血と骨をもってなす悲願であった。
番組は、溥傑の愛娘で日本人として生きる福永さんが亡き父の足跡をたどる旅を軸に、溥傑の人間像を浮き上がらせていく。同時に、さんの手もとに残る貴重な溥傑の手紙や、当時を知る愛新覚羅一族・嵯峨家の親族、周恩来側近たちの証言から、溥傑を取り巻く、激動の日中関係史を明らかにする。溥傑の知られざる波乱の生涯を通して、今改めて問われる日中友好の原点を見据えるドキュメントとする。
(2006年1月21日に放送した番組の再放送です) |