12月27日(土) 放送
第1部 小津安二郎 静かな反戦


 
 生誕100年にあたる今年、小津安二郎に関連する世界的なイベント、出版、が相次いでいる。ETVスペシャルでは、“小津安二郎と戦争”にテーマをしぼり、異色の小津論を試みたい。世界が戦争に満ちあふれる現在に、静かな小津映画は何を語るのか・・。

 小津安二郎の映画には軍服を着た人間はただの一度も出てこない。しかし、小津安二郎は、紛れもなく戦争の真っただ中を生きた世代の人間である。自らも1937年から1939年にかけて、中国戦線に従軍した。その体験について、小津は次のように語っている。『僕はもう懐疑的なものは撮りたくない。何というか戦争に行って来て結局肯定的精神とでもいったものを持つようになった。そこに存在するものは、それはそれでよしっ!と腹の底で叫びたい気持ちだな。』
映画監督、吉田喜重は、この小津の発言について「ここにあるのは、戦場という極限の中で絶対的な不条理を肯定するしかない自己放棄の姿である」とする。
 しかし、その小津が同じ1939年に手がけようとした映画は、戦争とは何の関係もない都会喜劇『お茶漬けの味』。あまりにも日常的で非常時にふさわしくないとシナリオ段階で検閲にあい、制作を断念している。戦場の小津と『お茶漬けの味』の落差をどう考えればよいのか。

 あるいは、小津の遺作『秋刀魚の味』。軍艦の艦長だった主人公は、娘を嫁に出す前夜、バーでかつての部下と軍艦マーチを聴きながら話し込む。世の中の様変わりを嘆く部下。負けて良かったとつぶやく主人公・・・。ストーリー展開とは無縁な、この異常に長いシーンの意味はどこにあるのか。

 番組では、吉田喜重と詩人、吉増剛造の二人が、小津作品を“戦争”という視点から具体的に読み解いてゆく。戦争という狂気の時代をはさみ、一貫して家族の物語を撮り続けた小津安二郎に、吉田は“静かなる反戦”の意志をみるという。
第2部 TAMAO〜人形遣い師・吉田玉男の世界〜



 世界で最も有名な日本の舞台人はだれか?欧米の劇評論家の多くは、TAMAOと答える。今年84歳になる文楽の人形遣い師、吉田玉男である。玉男は、文楽を世界最高の人形劇に高めた男、シェークスピア劇とならぶ東洋の舞台芸術の旗手として賞賛されてきた。14歳から舞台に立ち、36歳のとき200年間とだえていた近松の「曽根崎心中」を復元、以来曽根崎心中の徳兵衛役を1100回以上務め、60歳で人間国宝になった。今年、芸歴70年を迎えた玉男は「日本のノーベル賞」と言われる「京都賞」を受賞した。

 番組では、「洗練の極致」と評される玉男の芸を親しい人たちが掘り下げながら語ることで、84歳・現役の人形遣い師が到達した世界を明らかにする。

 出演:桂米朝(落語家)ほか

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