5月10日(土) 放送
地球の匠 〜内橋克人 環境産業の未来を探る〜
 25年前『匠の時代』を著し、技術立国・日本を支える技術者の群像を活写したジャーナリスト・内橋克人。四半世紀が過ぎた今、内橋は再び匠を探す旅を続けている。それは、マネーや情報が飛び交うグローバル経済の嵐が吹き荒れる中で、その風にあらがい、したたかに芽を出そうとしている新しいモノづくりの担い手たちに出会う旅である。その中で内橋が特に注目しているのは、“持続可能な社会”を作り出す環境技術、「地球の匠」である。それも従来のような環境ベンチャーなどではなく、かつての重厚長大型のリーデイングカンパニーが、次代を拓く新たな基幹産業とすべく取り組んでいる本格派の環境産業である。

 「産業廃棄物を資源に新たなモノづくりを目指すエコタウン」。かつて日本の近代化の出発点となった鉄都・北九州で、巨大なリサイクルコンビナートが動き始めた。かたや鉄の低迷にもがく新日鐵と、かたやそれに伴う地域の衰退に苦しむ北九州市とがスクラムを組み、アジアの静脈産業(環境産業)拠点を目指す。2万ヘクタールの敷地では、基礎研究で“シーズ”(産業のタネ)を生み出す「学術研究エリア」、そのシーズの事業化の可能性を検証する産学協同の「実証エリア」、そして企業が実際のビジネスを行う「事業エリア」が有機的に連携。すでに80を超える企業や研究機関が参画し、自動車の100%リサイクルや土壌浄化などのプロジェクトが進行している。

 一方、今世紀半ばには世界の人口の7割が水不足に直面すると言われる中、斜陽と言われて久しい日本の繊維産業が人類の未来に貢献しようとしている。繊維産業の代表である東レは、本来の繊維技術を極限まで追求して開発したナノの浸透膜で海水の淡水化や下水の上水化に取り組む。すでに世界30か所以上で淡水化プラントを手がけ、トリニダードトバゴでは、世界最大の施設が東レの膜によって稼働している。衰退産業の中にも、21世紀の基幹産業となる技術が確実に芽生えている。
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