2014年2月22日(土)
【再放送】2014年3月1日(土)午前0時45分
※金曜日深夜    

94歳の荒凡夫(あらぼんぷ)
~俳人・金子兜太(かねことうた)の気骨~

本能のままに自由に生きる「荒凡夫(あらぼんぷ)」。94歳の俳人、金子兜太(とうた)は小林一茶のこの言葉に自分の人生を重ね合わせる。既成の俳句を批判し、社会と人間を世界で最も短い17文字で表現する現代詩人である。老いることなく、みずみずしい感覚で震災やエロスを詠みつづけている。

兜太は本名、1919年(大正8)に秩父で生まれ、多感な時期に国は満州事変から日中戦争、太平洋戦争へと向かった。東京大学経済学部を繰り上げ卒業して戦地に送られ、トラック島で敗戦を迎える。捕虜となり1946年に復員した折にはこんな句を残している。

「水脈(みお)の果(はて)炎天の墓碑を置きて去る」。

むごい戦死を目撃し、非業の死者に報いることを決意する。「いのち」の尊さを土台にした平和とヒューマニズムである。戦争体験者が減るなかで、金子兜太は戦争の本質を語りつづける。戦後は、日銀に勤め、組合運動で挫折し、左遷されて地方の支店勤めが長く続いた。その中で、現代俳句の旗手として、閉塞(へいそく)した組織や、屈折する心を詠んできた。

しかし、年齢とともに金子は自分の原点にある郷土性を強く感じるようになる。
山国秩父の土俗と人間たちが持っていた「生きもの感覚」である。日本人に染みついた5,7,5のリズムこそ自然界に宿るいのちに感応することと確信する。「土を離れたら、いのちは根のない空虚なものとなるではないか。」物質主義の時代に日本語の伝統にある俳句の底力を伝えたいと願い句を詠み続ける。
東日本大震災のニュースを見ていて自然に浮かんだ兜太の句。

「津波のあと老女生きてあり死なぬ」。

25年間続ける朝日俳壇でも、無数の寄稿者の17文字の中に日本人の「いのち感覚」を感じ喜びを感じるという兜太。「俳句だけで来た人生に悔いはない。」94歳の歩みはまだ続く。

語り:山根基世(やまねもとよ)
朗読:油井昌由樹(ゆいまさゆき)
(内容59分)

写真

このサイトを共有する

  •  (NHKサイトを離れます。)