2013年12月21日(土)
【再放送】2013年12月28日(土)午前0時45分
※金曜日深夜    

記憶は愛である
~森﨑東・忘却と闘う映画監督~

「映画は記憶の芸術である」。
名匠・森﨑東(86)は言う。デビュー作『喜劇 女は度胸』(1969年)にはじまり、松竹の喜劇映画の名手として評価を確立した森﨑は、その後フリーに転向し、独自の表現を追求してきた。森﨑が映画に刻みつけてきたのは、社会の片隅で懸命に生きる“庶民の記憶”だ。森﨑映画にはヒーローもスターも登場しない。そこに描かれるのは、逆境にあっても前を向いて生きる市井の人々の群像劇である。『喜劇 女は男のふるさとヨ』(1971年)ではストリッパーたちのたくましく生きる姿を描き、『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(1985年)では、当時その存在すらあまり知られていなかった原発ジプシー(原発労働者)を取り上げ大きな反響を巻き起こし、『ニワトリはハダシだ』(2004年)では、知的障害のある少年が巻き起こす大騒動がベルリン国際映画祭で絶賛され話題をさらった。歴史のうねりの中で忘れ去られていく“名も無き人々”が抱いたはかない記憶の数々を、森﨑はフィルムに焼き付けてきたのである。
去年秋、そんな森﨑が25本目の新作映画の製作に挑んだ。テーマに選んだのは認知症である。原作は、還暦を過ぎた息子が認知症の母親を介護する日々をユーモラスにつづった漫画『ペコロスの母に会いに行く』だ。少しずつ記憶を失っていく母親の姿をありのままに受け止め、長崎弁の方言を交えながら描かれる切なくも温かい物語だ。
「記憶を失っていくのは、悪いことばかりではない」という漫画に込められたメッセージが大きな反響を呼び、20万部を超えるベストセラーとなっている。
一方、森﨑は、記憶が失われてゆくことをよしとせず、あくまで忘却に抗おうと考えていた。認知症という題材を、介護する息子の立場からではなく、記憶が薄れていく母親の目線から描こうとする森﨑。実はこのとき、森﨑の身体に、ある異変が起こり始めていた・・・。
私たちのカメラは、“記憶という名の愛”を映画に刻み込もうともがく、森﨑の格闘の日々に密着した。

語り:石橋 蓮司
朗読:加瀬 亮
(内容時間 59分)

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