ドラマのみどころ

これほどまでに人を慈しむ……
脚本家 冨川元文

日本のテレビドラマの黎明期を担った脚本家がいます。倉本聰、山田太一、市川森一、早坂暁、中島丈博、ほか(敬称略)。若いころ、こうした先人の作品を興奮して楽しみ、そして学びました。そうした中で一番影響を受けたのが早坂先生の作品でした。脚本の優劣の問題ではなく、私自身に一番響いてきたからです。脚本を書くに際し、早坂作品「花へんろ」を改めて観(み)ましたが、やはり私にとって「宝物」でした。人を見る温かいまなざし、優しさだけでなく深さと厳しさも感じます。これほどまで人を慈しむ眼(め)はどこから来たのか……、
「春子の人形」は、早坂さんの優しさの原点だと確信しました。

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「春子の人形」
音楽 池辺晋一郎

早坂暁さんとのつきあいは、70年代始めからである。放送や舞台の仕事に対談なども付随した。そのたびに、早坂さんの「ホン」に心酔し、他方で数々の迷惑もこうむった。だが、今想(おも)えばその迷惑行為は、すべて早坂さんの創作の真髄が路傍にたまたま産み落としてしまったものであった。そしてその真髄を作ったものこそ、早坂さんの心の底に変わらず常に「在ったもの」であり、それを形象化したのは、早坂さんの育ちかたと戦争、とりわけ原爆の体験。「春子の人形」は、早坂さんの「生きた証」だ。この時代に、早坂さんだからこそ打ち鳴らさなければならなかった警鐘にほかならない。それを聞くことが、すなわちこのドラマの音楽を書くことだった。

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演出にあたって
演出 平山武之

早坂暁さんとの出会いは、昭和52年春、私が33才、暁さんが47才の時の「冬の桃」である。それ以来、暁さんは私のドラマ作りの師であり、人生の良き先輩であった。今回もこれが最後のドラマということで、暁さんに直接声をかけていただいた。暁さんの人生には、常に“漂泊”という言葉が付きまとう。四国伊予の風土とそこをめぐる遍路たちを目にしてきた暁さん自身が、常に旅をしていたと思う。一人歩く遍路の姿は風景に溶け込んで淋(さび)しい。しかしなぜか凛(りん)としている。今回のドラマでも、暁さん自身の遍路姿を撮影する予定であったが、叶(かな)わなかった。暁さんの笑顔の遍路姿が見たかった。
北朝鮮が開発した水爆は広島の原爆の16倍というニュースを聞きながら、

 帰らざる人も歩けや花へんろ

という暁さんの句を思い浮かべている。

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“早坂チルドレン”として
制作統括 千葉聡史

今回、集まったスタッフはいわゆる“早坂チルドレン”。私は、30年ほど前に昭和を振り返る番組で、ディレクターとして早坂さんを密着取材させてもらった。吉田カメラマンはその時のカメラマン。平山監督は、かつて「花へんろ」を演出。脚本の冨川さん、音楽の池辺さん、スタッフのほとんどが、もう一度一緒に仕事がしたい!と今回、集結した。しかし、それは突然の連絡だった。「早坂さんが倒れた。もうダメかもしれない」と。まったく信じられなかった。数週間前には、NHKの会議室でドラマの内容に関わる自身の体験を2時間近く、熱く語ってくださったのだ。チルドレンを置いてきぼりにされた早坂さん。脚本の第1稿も上がり、もうこのドラマは大丈夫と思って、逝かれたのだろうか。今思うと、チルドレンを集め、タクトを振ったのは早坂さんだった。

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【番組情報/制作スタッフ】

スペシャルドラマ 花へんろ 特別編「春子の人形」

【放送予定】
2018年8月4日(土)BSプレミアム
よる9時から10時30分<90分単発>
【作】
早坂暁
【脚本】
冨川元文
【音楽】
池辺晋一郎
【出演】
坂東龍汰、芦田愛菜、尾美としのり、西村和彦、中西美帆、山本圭、田中裕子 ほか
【制作統括】
千葉聡史 加藤邦英
【プロデューサー】
伴野智

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