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「わかった」って、簡単に言わなくたっていい。『弟の夫』原作・田亀源五郎さんに聞く

亡くなった弟の結婚相手は、カナダ人で…男だった。

2015年・文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『弟の夫』をNHKがドラマ化。LGBTという繊細なテーマを、普遍的な家族愛の物語として描きます。

 

放送に先立ち、原作者である田亀源五郎さんと、ドラマの須崎岳プロデューサーに、話せるギリギリの線まで制作秘話をうかがいました!


編集部:
今日はお忙しい中をありがとうございます。まず田亀さんにお伺いしたいのですが、心を動かすこの原作、元々どういった経緯でお描きになられたのですか?

田亀源五郎先生(以下、田亀さん):
最初は出版社の編集の方から、うちで描きませんかと声をかけていただいたのがきっかけです。ただ、一般青年誌でゲイという題材を取り扱うというのはなかなか難しくて。
それまでも編集さんレベルではOKでも、編集長からNGとなったことがありました。だから、月刊誌で連載が決まったときは、本当にうれしかったですね。ヘテロ、いわゆるストレートな人たちに向けて、同性婚の漫画を描くというのは、私の中でもチャレンジでした。

須崎岳プロデューサー(以下、須崎P)
僕は今回、周囲から薦められて原作を拝見して、前置きなしで、とても惹き込まれました。これはドラマにするべき物語だと思いました。

田亀さん:
ありがとうございます。実は、ちょうど単行本の1巻が発売されたあたりから、ドラマ化の話はいくつかいただいていたんです。

編集部:
そうだったんですか。その中で、NHKが選ばれたのは…?

田亀さん:
それは、最初に声をかけていただいたから、というのが大きいですね。もっとも、ドラマ化が立ち消えるなんてよくある話ですから、「実現したらラッキー」くらいの気持ちでいましたよ(笑)。

須崎P:
確かに実現までにちょっと時間がかかりましたが、いよいよ放送間近となりました。ありがとうございます。

田亀さん:
私としては、ラストまで描き終えてたタイミングでドラマ化されて、ありがたかったです。餅は餅屋、ドラマ化については皆さんにお任せするというのが私の基本スタンスなのですが、こちらの意図しない表現が出てくるのは避けたかったので、物語を完結まで読んでから制作していただけたのは、よかったなぁ~と思っています。

須崎P:
今回は、大筋ではかなり原作に近い感じのドラマ化ではないかと思います。
原作ありのドラマの場合、オリジナル要素を盛り込むことが多々あり、今回も脚本構想段階でいろいろ模索しました。でもディレクターの吉田や戸田と話し合って行く中で、気づいたんですね。すごく繊細に考えて描かれている物語だし、同性婚という、僕らがあまり知らない世界の話でもある。創意工夫するのは良いけど、盛り込みすぎると何かが崩れるかも知れない、失われるかも知れない。だから今回はあまり変えずに、言わばストイックに行った方が良いんじゃないかと。

田亀さん:
そうだったんですね。準備段階の脚本を拝見して、わりとすんなりと言うか、全体に楽しみながら読ませていただきました。

須崎P:
ありがとうございます。ただ、数か所、若干のご意見はいただきましたけど(笑)。

田亀さん:
すみません(笑)。けれど、私自身がどうしても納得できない表現があるままドラマになってしまったら、原作を愛してくださっているファンの方に申し訳ないというのもあって。

須崎P:
ひとつは、台詞のほんのひと言についてのご指摘でした。ネタバレになるので詳細は伏せますが、僕らはそれを聞いて、とても腑に落ちるところがあった。それでその部分は、改稿させていただきました。
それから、最終回のラストシーンは、試行錯誤の末、原作とはちょっと違った風にしています。

田亀さん:
あのラストシーンは、有りだというか、希望が未来へ向かって広がっていくような感じがして、良いのではと思いました。
元々、漫画とドラマは言語が違うと言いますか、能動的に自分のペースで読み進められる漫画と、受動的で、ながら見もできるテレビとの違いがあると思います。漫画にある"間"を、説明で埋めたくないとも思っていました。ドラマにはドラマのロジックとかあるでしょうし。そういう意味では、どんな仕上がりになっているのか、楽しみですね。

須崎P:
プ、プレッシャーですね(笑)。僕らドラマ制作チームは、原作で言えば主人公・弥一の立場と同じです。僕は原作を読んだとき、弥一に共感する部分がある一方で、「なぜ?」「考えすぎじゃない?」とモヤモヤする部分も、実はありました。だから脚本化の上ではそのモヤモヤを思い出しながら、「これでいいんだっけ?」と弥一さながら自問自答しながら、確かめるように進めて行ったような気がします。撮影現場に臨んだスタッフのみんなも、同じように自問自答しながら、探りながら作っていったんじゃないかなと思います。

田亀さん:
それは原作の世界を大切に思ってくださっているということだと思いますし、ありがたいですね。

編集部:
ちなみに、キャスティングについてのご感想はいかがですか。

田亀さん:
佐藤隆太さんと聞いて、「あっ」と思いました。実は、まだドラマ化の話が影も形もないころ、担当編集さんや友人たちと「もしこの作品を実写化するとしたら」と、雑談で盛り上がったことがあるんです。そのときに「弥一は佐藤隆太さんがいいかも」なんて言っていたので、正直、驚きました。

須崎P:
イメージと合っていましたか。ありがとうございます。

田亀さん:
問題はマイクですよね。その雑談でも「マイクは誰にするか」で、けっこう話が難航して(笑)。マイクは存在感はもちろんのこと、マスコット的な可愛らしさもある人じゃないと…と思っていましたから。実際のキャスティングも大変だったのでは?

須崎P:
実際難航しました。当初は「アメリカでオーディションした方がいいの?」なんて声もありましたけど、残念ながらそんな予算ありませんし。とにかく「外見にマイクっぽい雰囲気がある」「芝居ができる」「日本語がある程度話せる」という条件で、日本国内片っ端から探しました。それなりに候補は出ましたけど、これだという人がいなくて…。 

田亀さん:
そこから、把瑠都さんに決定した過程が気になりますね(笑)。

須崎P:
で、ミーティングがすっかり行き詰まった時、キャスティング担当のスタッフがぼそりと「ばると、どうですか」って言ったんですね。最初、意味が分からなくて(笑)。大相撲出身の把瑠都さんのことだと分かって、あぁあの人、確かに、体大きいし、と。でも誰もが思いました。「芝居できるの?」って。調べてみたら、ちょうど舞台公演に出ている最中だったので、急いで観に行ったんです。そしたら彼、意外と言ったら失礼ですが、いい存在感だったんですね。上手いとかテクニックでなく、ちゃんと気持ちをつくって芝居をしているのが感じられて。観ていて、伝わって来たんです。それでオファーをお願いしました。

田亀さん:
私も最初、マイクが把瑠都さんって聞いたときは「は?」「え?」ってなりました(笑)。でも、「あぁ・・・ありだなぁ」と。ルックスはマイクとしてOKだし、チャーミング。笑顔がいいですよね。そしてなにより、意外性があって面白いと思いました。大関というイメージがありますからね。
あと、実際に撮影現場でお会いしたら、想像以上にデカかった。私も身体は大きい方ですが、その私が小さく見えるくらい(笑)。

編集部:
田亀先生も撮影現場に行かれたんですね。いかがでしたか?

田亀さん:
自分の作品が、自分の手を離れて、誰かの手で新たに作られていくというのは、本当に何とも言えない気分でした。何と形容していいのかわからない、不思議な気持ちですね。
撮影現場のモニターを拝見しながら、漫画家としてはつい画面に「擬音」(ガラッとかシーンとか)を書き入れたい気分になりましたけど(笑)、そういったニュアンスの部分も含めて、すべてを演技で表現する、役者さんの凄さを感じましたね。声だけで顔が映らないカットや、背中しか映らないカットでも、表情や仕草を作っているし、全身で表現している。あれがプロの役者なんだと思いました。

須崎P:
先ほど、現場は自問自答しながら作っていると言いましたが、キャストも同じです。特に佐藤隆太さんは、悩みながら役に向き合い、丁寧に繊細に弥一を演じてくださいました。それこそ、常に自問自答しながらの表現だったのではと思います。

田亀さん:
まだ、完成したものを拝見していないのですが(インタビュー時現在)、すごく楽しみです。一人の視聴者として、ワクワクしながらドラマを観たいですね。

編集部:
最後に、この作品の見どころをひとこと、お願いします。

田亀さん:
はい。私は「小学生が読める漫画」として、『弟の夫』を描きました。日本ではセクシャルマイノリティをカミングアウトしている人はとても少ないです。けれど、それをネガティブにも、ことさらポジティブにも描きたくなくて…。遠くの話ではなく、すぐ身近な話、普通の話として描きたかったというのがあります。

須崎P:
そこは僕らもずっと意識していました。同性婚を扱った社会的問題作、というよりは、普遍的な家族の物語として描きたいなと。
もうひとつは、「人と人はどこまで分かり合えるのか」というテーマ。これは、ひと筋縄では行かないですけれど。

田亀さん:
自分と違う価値観や考え方の人間を、簡単に「わかった」とは言わなくてもいいんです。
ただ、「自分と違う人間がいる」ことを認識してもらえたらいいな、とは思います。セクシャルマイノリティの違いも、個性であり、個人差だと。
そして、このドラマのラストシーン、楽しさが広がっていくような、多幸感あふれるラストが見られることを、期待しています。

編集部:
本日はありがとうございました。
プレミアムドラマ『弟の夫』は、BSプレミアムにて、3月4日からスタートします。毎週日曜日夜10時、全3回です。どうぞお楽しみに!

 

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