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時代劇職人列伝【伍】衣装・竹林正人の場合

時代劇職人列伝【伍】
衣装・竹林正人の場合

時代劇作りを裏側で支える、テレビ職人たちの奮闘を描く『時代劇職人列伝』。
最終回は「軍師官兵衛」で衣装を担当する、竹林正人さんにご登場いただきます。
この道ひとすじ30年、平安時代の装束から近現代の衣装まで、びっくりするほどの守備範囲をカバーする、竹林さんの「汚しの秘技」と「仕事のキモ」を教えていただきました。
職人魂をヒシヒシと感じる本連載のラストインタビュー、お楽しみください!


大河ドラマの衣装部屋は、撮影しているスタジオのすぐ近くにあります。部外者はもちろん立ち入り禁止なので、大河ドラマのスタッフ以外には、文字通り「謎の部屋」なのです!
というわけで、おそるおそる中をのぞいてみると...。

竜宮城や!玉手箱や!!!
絢爛豪華な着物や洋服、生地や裁縫道具などがたくさんある、夢のクローゼット的な場所でした。ドキドキしながら周りを見渡していたら、床で裁縫をしているナイスミドルが「はい、こんにちわ~」と声をかけてくれました。

...ということで、本日の職人!!!!
衣装・竹林正人さんの登場です。
竹林さんは、衣装を担当する会社のスタッフさん。このインタビュー企画も5回目ですが、仕事をしながら応じてくださったのは竹林さんが初めてです(笑)
お忙しい中とは思うのですが、まずは衣装さんの仕事がどんなものか、聞いていきましょう!

編集部「お仕事中にこういう質問をするのも変な話ですが、まずは竹林さんのお仕事について、ざっくり教えていただけますか?」
竹林「色々あるけど、基本は台本を読んで、役に合った衣装を見立てることだね。どういう衣装が今どこにあるかっていうのは、監督さんにも役者さんにも解らないから、こちらで見立てて持って行かなくちゃいけないんですよ」
編集部「監督さんに方向を教えてもらって、合ったものを持って行く、という感じですか?」
竹林「そうそう。監督さんと打ち合わせて、モノを持って行って、役者さんに着てもらって、というのを繰り返していく作業です」
編集部「今まさに縫い物をされていますが、足りない衣装とか、ない衣装はご自分で作るんですか?」
竹林「自分で作るんですよ。今作っているのは、襦袢(じゅばん)の襟。汚れちゃったから、新しいのが必要になりましてね」
編集部「素人考えで恥ずかしいんですが、洗濯しないで新しく作るんですか?」
竹林「ははは、和服っていうのはね、汚れても簡単には洗えないんです。時間もないから、汚れた部分だけ僕が作っちゃう」

編集部「逆に、自然に汚すのも大変そうですね」
竹林「そうそう。30年着たような衣装を一週間で用意して、みたいなことがあるからね。なので撮影中に汚れた着物とか、そのまま捨てずに取っておくこともある。綺麗なものはお金を出せばいくらでも作れるけど、リアルに汚すという作業は、簡単にはいかないからね」
編集部「具体的に、何か汚しの効いた衣装があれば、見せていただいていいですか?」
竹林「軍師官兵衛といったらアレだよね、土牢に入っていたときの官兵衛の衣装」

ドン!!!!!!!!!!!

 

編集部「おおおおおおぉぉ、これ、岡田准一さんが着ていた、本物ですか?」
竹林「もちろん本物。こないだ展示会から帰ってきたばかりなんですよ」
編集部「布の破れ目とか、糸のほころびとか、本当に古雑巾みたいなリアルさですよね。ジーンズみたいに洗濯機でウオッシュをかけたりしたんですか?」


自然に出来たとしか思えない破れ目です。

竹林「これは、ヤスリでこすって作業してるんですよ。ストーンウォッシュや洗濯だと、リアルな破れ方にはならないですからね」
編集部「機械で出来る仕事じゃないんですね...これを見ると、納得です」
竹林「手でやるほうが、やっぱりリアルになるからね。これはヤスリでこすってから、ロウを塗ったり、スプレーを使ったりして、脂がついた感じを出してます。これを着て土牢に入ってもらって、実際に泥をつけたり、濡れたりすると、テレビで見ていただいた官兵衛になるわけです」
編集部「汚しって、細かいテクニックの集大成なんですね。本当に大変な作業だと思います...」
竹林「衣装の仕事にとっては、綺麗にする力よりも、汚す力の方が大事かな。昔から、汚しをやれれば衣装さんとしてやっていけると言われているんですよ。でも、教わって、その通りにやればいいってもんでもない。自分で汚し方を考えて、実際にやってみて、いい汚れ方になるよう、今でも試行錯誤していますよ」

編集部「先輩から受け継いだ汚しの技、とかはあるのですか?」
竹林「もちろんありますよ。先輩の技を自分で見て、盗む。でもそれだけじゃなくて、どうしたら汚すための時間を短縮できるか、ずっと考えてきましたね。他の作業の合間合間で汚すので、どれだけ早くやるか、時間をかけずにやるかを考えないとね」
編集部「時間のことまで考えるからこそ、テレビ職人の仕事なんですね」
竹林「あと、汚れにも順番とか段階があるからね。官兵衛の土牢のシーンだと、実は同じ衣装が3枚もあって、それぞれ違う汚し方をしてるんですよ」
編集部「たしかに牢に入った時の汚れ方と、牢から出るときの汚れ方が同じだと、長い時間幽閉されていたということが、視聴者のみなさんに伝わらないですよね」
竹林「そうそう。これは最終段階に近いのものです。この衣装は麻なんだけど、生地が堅くて汚れにくいので、途中のバージョンからリネンを重ねて、汚しやすいようになってるんだよ」

編集部「なんと、生地が増えていたんですね...びっくりです。ところで竹林さんは、もう何年くらいのキャリアなのですか?」
竹林「32年、いや33年くらいかな。まだまだ、分からないことがいっぱいあるねえ」
編集部「一つの仕事を30年やって、まだ分からないことがある」
竹林「そうだねえ。布とか針とかのことだけじゃなく、歴史も学ばないといけないからね。衣装の歴史が分からないと、何ができて、何ができないのかも解らないからね」
編集部「たしかに、時代時代で衣装って全然違いますよね。『平清盛』(2012)とか、戦国ものとはまったく違う衣装で新鮮でした」
竹林「平安時代だと、こういう人はこれを着るみたいなお約束があって、あとは柄の名称を知らないといけないのが大変だね。それから、お祭りの衣装も苦労したなあ。こういうお祭りの時にはこういう衣装を着るんだっていう、基礎的なルールを勉強したんだけど、実際に岩清水八幡宮に行ってみたら、そこにはそこの決まった衣装があったんだよね。場所ごとに独特な衣装があるかもしれないし、これは一概にはやれないなとわかって、また勉強のやりなおし。そんな世界なんですよ」
編集部「そういう勉強を、平安期だけでなく、もっと広い幅でしないといけないんですね」
竹林「そうだねえ。大河ドラマの仕事をやるなら、奈良時代から現代まで、全部の年代を見ておかないといけないですね。近い時代のものだと、『いのち』(1986)っていう、戦後の女性医師のドラマの衣装をやったことがありますよ」

編集部「時代考証の仕事と近いというか、かなり密接なんですね」
竹林「うん。時代考証の先生に教えていただいて、ああこれはこうなのかって、いまだに初めて知ることがあったりします。とにかく勉強しないとね。だって、当時の生地とかを知らないと、どんな衣装があるのか監督さんに提案もできないじゃない」
編集部「とにかく、ずっと学ぶんですね。頭が下がります!」
竹林「でも、だんだん分かるようになってくるし、楽しめるようになりますよ。そんなに衣装って、難しくないですよ」
編集部「いやいやいやいや(笑)」
竹林「衣装の変遷にもね、流れみたいなのがあるんです。たとえば平安時代の女性とか、たくさんの枚数を着込んでいたじゃないですか。それが平和な時代になってくると、上から1枚ずつ脱いでくる。男性にも同じようなことがあって、袴を着けていたのが前掛けになって、元禄時代に至って着流しが現れるんですよ。この流れは現代でも同じで、僕の着ているTシャツなんか、もともとは下着なわけです」
編集部「なるほど。ちょっと系統立てて、勉強したくなってきますね。やればやるほど、好奇心がわいてくるというか、知的興奮のあふれるお仕事なんですね」
竹林「仕事の最中は『早く酒飲みに行きたいな~』なんて思ってるんだけど、やっぱり、この仕事、面白いよね(笑)」



...というわけで、時代劇職人列伝。全5回、これにて完結です!!!!!
最終回の竹林正人さんのインタビューで、とにかく何回も出てきたのが「勉強」という言葉。竹林さんはきっと、キャリアが40年、50年を迎えても、まだ勉強を続けていると思います。
負けてはいられない!明日からがんばるぞ!勉強するぞ!
と思うと同時に、職人さんたちの絶え間ない努力が時代劇の灯(ひ)を守り続けているのだと、しっかり実感できたシリーズでした。

時代劇職人たちの血と汗と涙の結晶、それがNHKの大河ドラマです。
『軍師官兵衛』も、12月21日でいよいよ完結します。
ぜっっっっったいに、お見逃しなく!!!!

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