編集部イチオシ

吉俣良さんと『聖女』を聴く 劇伴作曲の舞台裏、教えます!

吉俣良さんと『聖女』を聴く
劇伴作曲の舞台裏、教えます!

広末涼子さん主演のドラマ10『聖女』がいよいよスタートします。家庭教師の女子大生と生徒の高校生として出会った二人の男女が、10年後、連続殺人の容疑者と弁護士として再会する...そんな劇的な愛の物語を包み込むのが、吉俣良さんの音楽。いわゆる「劇伴(劇伴奏)」と言われるものです。
吉俣さんの音楽といえば『マチベン』『篤姫』『江~姫たちの戦国~』などなど、NHKドラマではおなじみの方ですね。 今回の「編集部イチオシ!」では、『聖女』の音楽について、そして吉俣さん流の劇伴作曲法について、後藤プロデューサーと高石プロデューサーがみっちりとお伺いしてきました。
劇伴づくりの舞台裏、どうぞご覧下さい!


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【メインテーマができるまで】


↑左から高石P、吉俣良さん、後藤P。

後藤P:
のっけから何ですが、僕たちの3ショット、どんな風に見えてるんですかね?

高石P:
というと?

後藤P:
左右に関取がいて、真ん中に行司さんがいるような感じかなぁ・・・
吉俣さんはスリムな体型でイケてるんだけど、両側の男たちは体脂肪率高め、かつオシャレじゃないんですよ。

高石P:
たしかに女性視聴者へのアピールという点では、逆効果ですかね。

吉俣さん:
そうですね...たぶん(笑)。

後藤P:
だからというわけではないけれど、女性視聴者の"心に響く音楽"を!ということで、僕らは吉俣さんに作曲をお願いしたようなところがありました。

高石P:
そう、その通り!吉俣さんが女性に強い人ということで。あっ、女性に強いと言うと誤解がありそうですが(笑)、女性の心情を表現する音楽なら、やはり吉俣さんではないかな、と。

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吉俣さん:
ありがとうございます。女性には強いですよ(笑)。
女性が主人公の作品は多く手がけましたからね。でも、サスペンスは久しぶりですかね。
実は最初に台本を読んだとき、僕は「メロドラマを作れる」と思ったんですよ。そう高石さんに話したら、「何を言ってるんですか。メロドラマじゃないっすよ。ヒロインは聖女なんだ」って怒られて(笑)。
そうして出来たのが、このメインテーマなんです。

劇伴01:テーマ ヴォーカル・バージョン(フルサイズ)
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

吉俣さん:
そんな高石さんとのやりとりがなかったら、こういう曲にはならなかったでしょうね。もっとドロドロとしたものだったかも...。

後藤P:
透きとおるような声が印象的な曲ですが、これは声ありきで作曲されたんですか?

吉俣さん:
「聖女だ」って言われて、初めに思いついたのが教会音楽なんですね。明るくない賛美歌というか...だから声を使いたいというイメージはありましたね。

後藤P:
ところで、この声って、あの方ですよね?

吉俣さん:
そう、『篤姫』で歌って頂いた方です。

高石P:
だからかなぁ、この声って、完全な「洋」じゃなくて、どこか「和」のテイストが入っているじゃないですか。これが『聖女』にハマると感じましたね。曲を聴いた瞬間、これだっ!と思いました。

後藤P:
ですね。声のパートのあとにストリングスが入ってくるあたりで、胸がギューッと締め付けられます。聴いた瞬間、僕はなぜか鳥取砂丘をイメージしたんですよ。砂が風に舞って、梨畑を吹き抜ける...。

吉俣さん:
僕としては、鳥取砂丘を思い浮かべながら作ってないですけど。

後藤P:
なんで鳥取砂丘かは自分でも分からないんだけど(笑)、やっぱり「和」のテイストを感じたのかな。

吉俣さん:
サハラ砂漠でもカラハリ砂漠でもなくて、あくまで鳥取なんですね(笑)

後藤P:
そう、蓮佛美沙子さん(泉美役)の出身地・鳥取...の「和」テイストです(笑)
今回、吉俣さんからいただいた曲は、ピアノ曲が多かったですね。

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吉俣さん:
ラブ・サスペンスだと聞いてたんで、ヨーロッパっぽいテイストも、少し入れたいなと思って。単館上映している、あんまりメジャーでないヨーロッパ映画。それをイメージして、ピアノ曲をいくつか作りました。どこで使って貰えるかは、作曲している段階ではわからなかったんですが...。

劇伴02:テーマ ピアノ・バージョン
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

高石P:
ピアノ版もいいですが、僕はギター版が好きですね。
ギターの演奏だと、なんというか、昔を思い出す、ノスタルジックな感じになるんです。
ヒロインの基子には、拘置所に入っている現在と10年前の幸せな思い出、という2つの時間軸があるわけですが、ヒロインを象徴するメインテーマに、ピアノバージョンとギターバージョンがあることで、ドラマにすごく深みが出たと思います。

劇伴03:テーマ ギター(ストリングス)・バージョン
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

吉俣さん:
ありがとうございます。実は、そういうことを考えながら作ったんですよ。ガットギターを早く弾くと、ノスタルジックな雰囲気が出るんです。オーボエとかクラリネットとか、木管楽器も効果的ですね。昔が懐かしい、そんなふうに聞こえるんじゃないかなと思っていたので、そう感じていただいてよかったですね。

【劇伴をつくるということ】

後藤P:
あと、ジャズっぽい曲もありましたよね(笑)

高石P:
あ、それ地雷、地雷だから...

吉俣さん:
ありましたね。ネタバレになるから細かいことは言えないけど、「第1話のとある重いシーンに軽い曲をかけたい」ということで、作ることにしたんですよね。でも、「このシーンにはメインテーマが合う」って僕は言ったのに、プロデューサーが2人とも、ジャズだジャズだって。とにかく言うこと聞かないから(笑)
音楽家のカンで「ここでジャズを使ったら凄い場面になる」とは思ったんだけど、「さすがに合わないだろう」って。そしたら案の定、そのシーンでは、ジャズは使われずにメインテーマがかかってましたよね(笑)

劇伴04:M01 JAZZ
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

後藤P:
第1話の編集試写を見ながら、「あっ、このままだと吉俣さんの言った通りになる!」って焦りましたね。でも、そのシーンって、メインテーマがまたピッタリなんですよ。
でもジャズはお蔵入りになったんじゃなくて、けっこう意外なところで使われたので、勘弁してください(笑)

吉俣さん:
そうそう、結構いい感じで使われていた。作曲家としては「こんな場面に、こんなふうに当てて、イケるんだ」って、素直に感心しちゃいましたね。
連ドラの劇伴って当然、ドラマが完成するずっと前に作るわけじゃないですか。だから、映像を見ないで作曲しているわけで、プロデューサーに「ジャズだ!ジャズだ!」って言われて、そういうシーンがあるドラマなのかな?と思いながら書きました。こういう探り合いというか、話し合いが、ドラマの劇伴を作る面白さでもありますね。

高石P:
面白いと言っていただいて、助かります。
僕は「吉俣さん、あそこはジャズじゃありませんでした」って、謝ることしか考えてなかったです(笑)

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後藤P:
今回は合計で、バージョン違いも含めて20曲くらい作ってもらいました。

吉俣さん:
そうですね。連ドラとしては少ない分量だと思いますが、実は僕的には、『聖女』は音楽のイメージがないというか、あんまり音楽のかからないドラマだと、脚本を読んで感じたんですよ。
頻繁に音楽で何かを説明しなくてはいけない、ということではなくて、役者さんが演じることで伝えられるドラマなんじゃないかって。だから、音楽はうしろの方で、少し使ってくれればいいかな...なんて思っていたんです。

高石P:
事前の打ち合わせでも「話が展開する時に音楽を使うのはやめよう。心理描写とか、そういったところに使おう」って話していたんですよ。
ドラマを作っている側からすると、視聴者のみなさんにちゃんと内容が伝えられるか怖くなるので、展開にも心理描写にも、どっちにも音楽を用意して、どっちにもつけたくなるんです。でも、今回はそうしないでおこうと。

吉俣さん:
うんうん、そういうのって、潔いよね!

高石P:
吉俣さん、1日1曲とまではいきませんが、今回はすごいペースで曲を作ってくださいましたよね。

吉俣さん:
このドラマの依頼を受けて、「そういえば最近、作曲してないなあ」って気がついたんです。ここのところ、プロデュースとかアレンジばっかりだったので。
だから曲を作るっていうのがすごく新鮮で、気分が滅入らないというか、すごくいい状態で、作曲にあたれたんですよね。

後藤P:
吉俣さんって、作曲の時はどうされるんですか。ずっとピアノに向かっているとか?

吉俣さん:
いや、自宅に作曲用の場所というか、考え事をするソファがあって、そこで曲想を練るんです。台本を読んだりしながらボーッと考えて、パッと思いついたらピアノに向かう。漠然とした考えからメロディを浮かべるというか、ピアノに向かってあれこれ試すタイプではないですね。

高石P:
アイデアが浮かんだ時って、すぐ全体が出来ちゃうんですか?

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吉俣さん:
そうですね、最初の4~8小節が出来たら、後は早いですね。
とにかく、美味しい部分というか「食いつき」を、どこに持ってくるかが大事です。それがリズムなのかメロディなのかは、劇伴の場合、シーンとの兼ね合いを考えて作曲しないといけませんね。

後藤P:
吉俣さんは、冒頭から作曲するタイプですか。それともサビから作るタイプですか。

吉俣さん:
これはけっこう大事な話で、歌なのか劇伴なのか、劇伴だとしたら映画かテレビか、テレビならどこの局で使うのか、そういったことも実は影響してくるんです。
例えば歌ものだと、サビから作ります。ドラマの劇伴だと、冒頭から作ります。映画の場合はサビというか、メインの旋律から作りますね。NHKのドラマの場合は映画に近くて、メインの旋律から作ります。

高石P:
これ、ちょっと気になる話ですね。

吉俣さん:
なぜ、そうするか。歌ものはサビが大事なのでこれはいいとして、ドラマと映画の違いを話しましょう。
ドラマだと劇伴って、CM明けなんかで使われることも多いんですよ。その場面がどういう場面なのかを視聴者の皆さんに、音楽で端的に伝える必要があるんですね。つまり、冒頭に劇伴の大事な部分を持ってくる必要がある。だから、冒頭から作るんです。
映画だと、曲を長く使って貰える。だから曲の真ん中に、盛り上がりを持ってくることができる。NHKのドラマはCMがないので、そういった映画的な表現が出来る。こういうことを考えながら、劇伴を作っているんです。

【ザッツ、吉俣良】

高石P:
僕のお気に入りというか「これがザッツ吉俣良だ」っていう曲が、今回の『聖女』にはあるんですよ。ちょっとみんなで聞いてみましょう。

劇伴05:M02
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

吉俣さん:
高石さんと仕事すると、いつもこういう切ない系の曲を気に入ってくれますよね。
だから今回のドラマでも、暖かくて切ない曲を入れておこう...と思ったのが、この曲なんです。そしたら高石さんが「僕はこれがいいです!」って反応してくれて、嬉しかったですね。

高石P:
まだ放送してないので、感動をお伝えできないのが歯がゆいんですが、この曲は『聖女』のノスタルジックな部分にぴったりハマるんです。
だからプレマップ(2分のPR番組)を作るときも、この曲だけはこだわって、どうしてもと後藤Pに頼んで、入れさせてもらったんです。

後藤P:
プレマップの試写を見たときに、「前半のシークエンス、1分もあるけど長いんじゃない?」って、高石さんに言ったら、「吉俣さんの劇伴のイイところがこの尺なので」って返答されたんですよね。いやいや、プレマップって曲に合わせて作るもんなのか?!って、驚きました(笑)。

吉俣さん:
2分しかない番組なのにね(笑)。

後藤P:
ちなみにこの曲が流れるプレマップは初回放送後、19日以降に放送予定です。現在、初回放送前に流れているプレマップでは、メインテーマが使われているので、どちらも楽しんでください。

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吉俣さん:
あっ、僕のお気に入りも聞いていいかな。タララララ、という三拍子の曲なんだけど...。

劇伴06:M06
【番組ホームページで音楽を再生する】(PCのみ)

後藤P:
吉俣さんの曲としては、あんまり耳慣れないタイプですね。

吉俣さん:
そう、こういうの、あんまり作らないから。
ヨーロッパ映画に出てくる、ちょっと妖しい、ミステリアスな女性。そういうイメージで作った曲です。これを広末さん演じる基子の何げない日常シーンに当てて貰えたら、イイ雰囲気が出るんじゃないかと思って。

高石P:
うっ、また緊張するボールを投げられちゃいましたね。

吉俣さん:
かけてね、ちゃんと(笑)
雨の中、基子が歩いているシーンにも合うんじゃないかな...とか、色々考えて作ったんで。

高石P:
いいですね。ヒント、いただいておきます(笑)

吉俣さん:
基子は聖女なのか、果たして悪女なのか。番組の結末を知らない時点で作った曲なので、そういった僕の「どっちなんだろう」という気持ちが曲に入っています。そこも味わって貰えると嬉しいですね。
で、後藤さんの好きな曲は?

後藤P:
僕はやっぱり、ジャズですかね。

高石P:
あ、それ地雷だから...(笑)。

後藤P:
いやいや、このドラマでいちばん重要な曲がメインテーマだとすると、ジャズはその真逆にある曲なんですよ。メインテーマの聖なる雰囲気と、ジャズのきらびやかで楽天的な雰囲気のギャップが素晴らしい。人間の「聖と俗」の二面性を音楽でもクッキリ描けるようになったと思います。

吉俣さん:
じゃ、またどこかでかけて下さい。

後藤P・高石P:
よろこんで~!

【吉俣さん、第1話はいかがでしたか?】

高石P:
ちょっとドキドキすることを聞きますが、吉俣さん、第1話はいかがでしたか?

吉俣さん:
これはもう、台本を読んで、期待した以上でしたね。
ちゃんと基子がいい人に見えている。でも、この人を中心に事件が展開していく。
この人は聖女なのか、それとも悪女なのか。さっぱりわからない。
「どのみちこれ、殺ってるんでしょ」「どうせ、殺ってないんでしょ」みたいな、ありきたりな感想を持たれる心配がないドラマでした。
これ、まったく分かりませんよ、第1話からは。
続きを見たいと思わされる、きっちり心を掴まれた、そんな第1話でしたね。

後藤P:
ありがとうございます。そして最後に、視聴者の皆さんにメッセージをいただけると...。

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吉俣さん:
今回はとにかく、劇中で長く音楽を使って貰えましたね。あまり編集もされてなくて、録音した時のままスーッと最後まで、自然に流れている。これ、珍しいことだと思います。
音楽家として、久々に楽しんでやれた仕事で、出来上がったドラマもすごく楽しんで見ています。自分としては、最終話がどうなるのか、もう今から楽しみですね。皆さんにもそう思ってもらえるドラマに仕上がっていますので、ぜひ、最後まで見ていただきたいですね。

後藤P・高石P:
よろしくお願いします!

 


...というわけで、吉俣良さんのインタビューでした。
同じ劇伴でも、ドラマと映画で作り方、考え方が違うんですね...驚きました。
そんな吉俣さんの、プロの仕事がたっぷり詰まったドラマ10『聖女』。
いよいよ8月19日からスタートです。ぜひ、ご覧ください!!!

ドラマ10『聖女』ホームページ


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