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時代劇職人列伝【壱】持ち道具・堀江直弘の場合

時代劇職人列伝【壱】
持ち道具・堀江直弘の場合

知られざる職人たちのドラマ…!
時代劇作りを裏側で支える、テレビ職人たちの奮闘を描く新連載『時代劇職人列伝』がスタートします。
彼らの仕事ぶりを通じて、もっともっと時代劇を愛してもらおう!という企画です。
第1回は「持ち道具」担当の、堀江直弘さんにご登場いただきます。
…とはいえ「持ち道具」と言われても、ドラマ関係者以外にはピンと来ないですよね。
堀江さんのお仕事とは、一体どんなものなのでしょうか…!?


縁の下の力持ち「持ち道具」さんを訪ねて、取材班は「軍師官兵衛」のスタジオへと潜入しました。この日は官兵衛と秀吉のシーンの撮影ということで、岡田准一さん、竹中直人さんなど、そうそうたるメンバーがスタジオにいらっしゃいます!
ちょっと挙動不審になりつつも、撮影の邪魔にならないよう、そろりそろりと持ち道具さんの仕事場、道具棚へと移動します。

…ということで、本日の職人!!!!
持ち道具・堀江直弘さんの登場です。
堀江さんはテレビ番組用の小道具などを取り扱う美術装飾会社にお勤めで、ぱっと見、20代後半から30代前半という感じの好青年です。さっそく、お話しを聞いていきましょう。

編集部「今日はよろしくお願いします。まずは、持ち道具のお仕事がどんなものか、教えてください」
堀江「そうですね。役者さんが持つもの、時代劇で言えば刀や扇子、鎧なんかをセレクトして、現場で役者さんに渡していくのが持ち道具の仕事です。あとは草鞋(わらじ)とか、身に付け方が難しいものに関しては、付け方を役者さんに教えたりするのも、僕の仕事ですね」

なるほど、「豊臣秀吉」「石田三成」などの名札の下に、扇子や腰刀などが整理整頓されています。スタジオに入っていく役者さんに、ここで道具を渡していくんですね。

編集部「集めて揃えるだけじゃなくて、セレクトするのも持ち道具さんの仕事なんですね」
堀江「そうです。衣装合わせ(役者さんに衣装を着てもらって見え方などを検討すること)にも出て、道具が合っているか、合っていないかを判断します。あとは、一人一人の道具だけではなく、他の人の道具との兼ね合いも見なくてはいけません」
編集部「他の人との兼ね合い?」
堀江「例えば時代劇だと、個性的な武将がずらりと並んだりしますよね。その時に、似通った道具を持っている武将がいたら、どうでしょうか。画面を見れば、あれっと思うか、埋もれてしまいますよね。そのあたりにも気をつける必要があるんです」
編集部「確かに。誰が誰だか、わかりにくくなるかもしれないし、絵としても違和感が出ますよね」
堀江「そうなんです。例えば『軍師官兵衛』だと、主役の官兵衛と、官兵衛の家臣団で、見た目が似通わないように、道具に差をつけています」
編集部「道具のセレクトは、やはり台本を読んで考えるのですか?」
堀江「そうですね。台本を読んで、神経質そうなキャラだったら、ちょっと繊細な道具を選んだりします。きれい好きなキャラだったら、手ぬぐいを持たせてみたりとか。あとはワイルドなキャラだったら、腰に革を巻かせてみたり…」

なるほど、持ち道具さんは「道具を集めてきて渡すだけの仕事」かと思っていたのですが、機転とセンスが問われるお仕事なんですね。
しっかりした持ち道具さんがいてこそ、自然で、解りやすい時代劇が出来るのでしょう。

編集部「こうしたお仕事って、どうやって勉強するのですか?」
堀江「先輩に教わったり、先輩の仕事を見て覚える感じですね。ちなみに、持ち道具になると、まず草鞋の履き方を勉強するんです。役者さんに草鞋を履かせられないと、一人前の持ち道具とは、到底認めて貰えないですね」
編集部「やはり職人の世界は、先輩を見て勉強なんですね。堀江さんは、初めから持ち道具担当を志望されたんですか?」
堀江「ウチ(堀江さんが所属する美術装飾会社)の教育方針で、新入りはまず消え物(食べ物)担当になって、少し慣れたら持ち道具になって、さらに成長すると小道具になって…という感じで、いろんな仕事を経験していくんです。僕はちょうど、持ち道具という段階に上がったところなんです」
編集部「日本料理の料理人みたいですね。厳しそうな現場ですが、新入りさんとか、入ってくるんですか?」
堀江「持ち道具がやりたいって言って入ってくる人は、あんまりいないですね(笑)。というより、持ち道具の業務内容を知っている人が少ないので…」
編集部「確かに、持ち道具という名前からは、地味なお仕事を連想しちゃいますよね。でも、お話しを聞いている限りでは、かなりの裁量があるというか、絵作りに大きく関与していますよね。美的感覚がないと、うまく出来ないというか…」
堀江「ありがとうございます。色使いをどうするかとか、考えることは多いですね。やはり単純作業ではなくて、センスが必要な仕事だと自分でも思います。根気のある人、細かい作業が好きな人、考えて動く人、あとは何より、役者さんや他のスタッフとコミュニケーションが出来る人が向いていますね。他のスタッフや、役者さんと話し合って作り上げていく仕事なので、自分を出し過ぎてもダメですから」

編集部「ところで、堀江さんは腰にナグリ(ハンマーのこと)とか、カッターとか、色々身につけていますよね。大道具さんっぽい仕事道具なのですが、ざっと解説して貰えませんか?」
堀江「ナグリはあんまり使わないんですが、よく使うのは、これですね。マーカーペン」
編集部「ペン!?」
堀江「これは刀に使うんです。当たり前ですが、時代劇の刀って竹光なんですよ。銀紙を貼っているだけなので、使っていると剥がれてしまいます。忙しい現場なので、破れたらすぐに銀紙を貼り直して、というわけにはいきません。だから銀色のペンで、ちゃちゃっと直しちゃう。うーん、こんなこと言っちゃって、いいのかな、バラしすぎでマズいんじゃないかな(笑)」
編集部「いやいや、現場の知恵と努力の結晶だと思います。カッコイイですよ!」
堀江「そ、そうですか。あとはそうですね、マーカーペンは、道具を汚したりするのにも使いますね。例えば、ボロボロの長屋に住んでいる人が、ピカピカの傘を持っていたらおかしいじゃないですか。そのあたりも、持ち道具が気を配って、自然に見えるように、汚していくんです」

編集部「選んで、直して、渡して、ずっと現場で見守って。持ち道具さんって、想像していたよりも、ものすごく守備範囲が広いお仕事なんですね。堀江さんはこのお仕事に就かれて、もう何年くらいですか?」
堀江「テレビの世界に入って、もう9年くらいになります。持ち道具としては、6年目です。とはいえ奥の深い世界なので、まだまだ先が見えないですね。先輩方も言っていますが、自分の仕事に満足いくことって、永遠にないんじゃないですかね…」


というわけで、時代劇職人列伝。
第1回は「持ち道具」の堀江さんにお話しを伺いました。

まだまだ「自分の仕事に満足がいかない」という堀江さんですが、誇りを持って、ご自身の仕事に打ち込んでいる感じが、お話からひしひしと伝わってきました。
奥深くて素敵な「持ち道具」の世界が、ちょっと垣間見えたのではないでしょうか。

堀江さんのお仕事ぶりは、ぜひ「軍師官兵衛」の画面で確認してくださいね。
ひょっとすると「持ち道具になりたい!」という若い人が入ってきたりするかも…!?   
それでは「時代劇職人列伝」、次回もお楽しみに!

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