脚本家 金子ありさインタビュー 揺れ動く感情の移り変わりを楽しむ、心理劇。それが、『タイトロープの女』

父親が娘に遺したのは、8億の借金と元愛人だった義母。『タイトロープの女』の脚本家である金子ありささんに、ドラマに込めた想いやオリジナルドラマの産みの苦しみについてお話を聞きました。

このドラマに込めた想いやテーマを聞かせてください。

女性の場合、男性と比べてやはり、周囲の環境や社会の仕組みによってまだまだ翻弄されることが多いと思います。でも、昔から翻弄されながらも、たくましく生きて行くのも女性です。そんな女性のか弱さのなかの強さを描きたいと思いました。
今回のドラマでは、お嬢様育ちで世間知らずの由梨が、運命の糸に巻き付かれて町工場を経営することになります。お嬢様の由梨から、借金をかかえた会社の経営者としての由梨へ。それに連れて変化していく心情の移り変わりや成長の過程を1話1話に書き込んでいったつもりです。
また同時に、1つの言葉の奥にそれとは違ったさまざま感情をもっている、言葉とは裏腹の感情を抱いている女性の不可思議さも描ければいいなと思いました。

脚本を書く上で、苦労したところ、難しかったところは?

最も苦労したのは、登場人物の感情の糸を切らずにそれぞれの回へつなげていくことです。
たとえば、第3話のこの時、恭子は微かな恨みを抱いたはず、だったら第4話のこのシーンでは、こんな行動に出るはずだ。というふうに、回が変わってテーマが変わっても、それぞれのキャラクターの感情の糸がちゃんとつながっているかを常に検証するという作業が、意外と大変でした。
もう1つは、ドラマのためのドラマを書かないこと。これは、ドラマでのお約束のパターンを壊すということです。
誰かが旅立つときは、手元に荷物があって「じゃあ行くわ」と去って行く。でも、こういうシーンはこれまでドラマで何百回と見てきた。どんな小さなシーンでも、ありきたりのものにはせず「違う見せ方や手法を考えるぞ」とずっと自分に言い聞かせていました。
これがうまくいったかどうかは見てくださる方に判断してもらうことですが、書く側の志の部分では納得できる仕事ができたのかなと思っています。

このドラマは、由梨に感情移入して見る人と恭子に感情移入して見る人に分かれそうです。

だとしたら、嬉しいです。「主人公だからいい子」「敵役だから悪者」という描き方は避けたかったので。ふたりは持っている強さ、弱さが違うんです。由梨には、「お嬢様力」がある。かたや恭子はバブル時代を生き抜いた握力の強い人。皆さんが、どちらかに共感し、反発もしてそれぞれ『派閥』を作ってくださったら、更に嬉しいです。

試写をご覧になっての感想を聞かせてください。

脚本家って、最初に見たときは正当な判断ができないものなんです。「ああ、あそこのシーンがなくなっている」とか「どうしてあのシーンを変えたんだろう?」とか、最初に見るときはすごく心が動揺しているんです(笑)。
でも今回は驚いたことに、最初から1人の視聴者として見ることができました。それは、キャストのみなさんのお芝居のチカラが大きいと思います。感情のミリ単位の変化もしっかり伝わってきました。とにかくお芝居がすばらしいので、脚本家の頭は忘れて、物語に引き込まれました。

由梨役の池脇さんと、恭子役の高岡さんのお芝居について聞かせてください。

自分は独立した女性だと胸を張って生きているんだけれども、実は親掛かりという由梨。池脇さんは、そういう由梨を欠点も含めて見事に表現していると思います。しかも、今後の成長幅も加味しながら演じてくださっています。
高岡さんは、酸いも甘いもかみ分けて、さまざまな苦労をしてきた恭子を、それまでの過去も含めて匂い立つようなお芝居で演じてくださいっています。
お2人の演技を見ていると、簡単に見られないものを見せてもらっているという感じ。ドラマにとってお芝居は本当に財産なんだと改めて実感させられました。

ホームページをご覧のみなさんにメッセージをお願いします。

このドラマは、女性2人のバトルものであり、会社再生の物語であることは間違いありませんが、その2つのテーマではくくれない人間物語になっています。ジャンルや型にはまっていない、微妙で繊細な心理劇。それが、役者さんたちのすばらしいお芝居によって生まれた気がしています。
お芝居はもちろん、人間関係や気持ちのすれ違いが、やがて結びつきへと変わっていく過程をお楽しみください。

ありがとうございました。