よるドラ 伝説のお母さん

よるドラ 伝説のお母さん

「伝説のお母さん」スペシャル座談会Vol.1 脚本・玉田真也×脚本・大池容子×演出・村橋直樹

伝説のお母さん

好評放送中の「伝説のお母さん」。映像化にあたってのキーパーソンである脚本の玉田真也さんと大池容子さんに、演出の村橋直樹ディレクターがお話を伺いました。企画段階での苦しみやドラマづくりの精神など、なかなか話しにくいところまで切り込んでいきます!

演劇出身なのに演劇らしくない、お二人の生々しい言葉を入れたかった(村橋直樹)

村橋:
僕は玉田さんと大池さんの舞台公演を見ていて、日常生活のちょっとしたシーンの掘り下げ方や、わが身のことに思える生々しいセリフが面白いなあと思っていました。演劇出身なのに、演劇らしくないというか。ドラマ化にあたって、お二人の生々しい言葉を原作に入れたかったんです。そしてもうひとつ、出産や子育ての経験がない人に書いてほしかった

玉田:
はじめ、なんで僕なんだろうと思いました(笑)。結婚も子育てもしたことないし、なんならゲームもやったことがない。でも得意分野じゃないからこそ、これを書きたいと思いましたね。せっかくなにも知らないんだから、断ったら後悔するなあと…。

伝説のお母さん

玉田真也...劇作家・演出家。玉田企画主宰。映画『あの日々の話』(監督・脚本)で第31回 東京国際映画祭スプラッシュ部門出品。テレビドラマ脚本『JOKER×FACE』(フジテレビ)で第8回 市川森一脚本賞受賞。

大池:
私も同じく、結婚も子育ても経験していなくて…ゲームはちょっとやったかな。でも、同年代の友達がチラホラ結婚しはじめて、子どもも産まれはじめていて、悩みを抱えている人たちの顔は浮かぶんです。でも、実感としてその悩みを理解できるわけじゃない。そういう、深入りしすぎない距離感がいいんだろうなと思っていました。

村橋:
先程も言いましたが、逆に、結婚や子育ての経験がない人に書いてほしかったんです。このドラマは風刺劇なので、物事を相対化しないといけない。だから、一歩引いた距離感というか、目線が欲しかったんです。葛藤を抱えている母親と同じ立場の人が書いてしまうと、キャラクターの個人的な感情が前に出すぎてしまう。あえて一歩引くことで、社会がおかしいというのを描けるんじゃないかなと。

スタート当初は何も決まっていなくて…RPGの設定には苦労しました(玉田真也)

村橋:
4コマをどうドラマにするか、というのも悩みましたよね。

大池:
スタート当初、まだ何も決まっていなかったですよね。15分2話のオムニバスにしてもいいかな、みたいな話まで出ていて。

伝説のお母さん

大池容子…劇作家・演出家。劇団「うさぎストライプ」主宰。『バージン・ブルース』で平成30年度「北海道戯曲賞」大賞を受賞。テレビドラマの脚本は今回の『伝説のお母さん』が初めて。

玉田:
僕も打ち合わせに呼ばれて、あっ、そこから決まってないんだと(笑)。

村橋:
なのでプロジェクトが滑り出すまで、すごく大変でしたね。去年の大型連休あたりから走り始めたのに、3ヶ月くらいは何もできていない。ブレストと称した打ち合わせのようなものをやり続ける、みたいな。

玉田:
でも宿題は出されましたよ。RPGの設定で遊ぶとしたら何をするとか、原作にはないキャラクターをつくるとしたらどんな役割を持たせるとか、それぞれの人物を主人公にするならどんな話にする、とか。

村橋:
そうだった。宿題は活かされたかな…?

玉田:
うーん、僕の宿題は本編には使われてないですね(苦笑)。でも大池さんが書かれた第4回に出てくる『保育士勇者』は、宿題の中身ですよね。

大池:
あとは何かあったかな。うーん、やっぱり活かされたのは1%くらいかな…(笑)

村橋:
本当に苦しかったよね。実際、原作を素直に紐解いて『サザエさん方式』でもいいと思っていたんです。サザエさんやちびまる子ちゃんのような立て付けで、お母さんあるあるを描いていく手もあった。それだけ、原作の4コマが印象的だった。

伝説のお母さん

制作会社を経て、2010年NHK入局。
主な演出作品に「透明なゆりかご」、「サギデカ」、映画「エキストロ」など。
「伝説のお母さん」では、企画・チーフ演出を務める。

玉田:
書いていて苦しくなるたびに『これ、“お母さんあるある”で良かったんじゃないかなあ…』って後悔していました(苦笑)

村橋:
具体的にどの回が苦しかったですか?

玉田:
第7回と最終回の構成を考えていたあたりですね。さてどう話を終わらせるのか、というところで一番苦しい波が来ました。

村橋:
締切も迫ってるのに、どういう結末にするかまだ決められていなかったんですよね。でも、そこまで行ったからもうサザエさんには…。

玉田:
戻せないです(笑)。それに、長編のほうが『見た感』はありますからね、結果的に良かったと思いますよ。

村橋:
玉田さんの担当回では第3回のベラとベル、大池さんの回では第4回のポコとクウカイの関係がすごく繊細に描かれていましたね。

玉田:
ベラとベルは、もともとプロットの段階では関係性が違ったんですよね。村橋さんたちに『これじゃステレオタイプだ』『可哀想なシングルマザー家庭という価値観にハマりすぎている』って指摘されて、今の形になったんです。単に可哀想なのではなく、この二人なりの関係があって、それをメイが見て、自分のことを考えて…という。そこからはすんなり書けるようになりました。

村橋:
このおかげで、メイ自身が旧来の価値観というか、ステレオタイプな考え方をしていると気がついて、そこから第4〜6回と続いていくので、とてもいい形で書いていただけました。

大池:
第4回のポコとクウカイのエピソードはすごく悩んで、「結婚する」という入口から、その先の価値観をすり合わせる流れにしよう、ということになって。ただ、今まで子育ての話をしていたのに、恋愛と結婚の話が入ってくると、登場人物の葛藤が幼く見えてしまうんじゃないかな?と、最初はすごく悩みました。

伝説のお母さん

村橋:
第3回も第4回もちょっとモヤモヤが残るというか、フラストレーションが残るような終わり方になってますよね。

大池:
打ち合わせでも毎回、『結局解決はしないもんね、それこそ、現実では魔法みたいなことは起こらないしね』みたいな話をしていましたよね。

玉田:
各回ごとに何かが解決されて、メイのなかで溜飲が下がるという終わり方にしちゃうと、話が8回続かないというのもあります。メイが自分の中の葛藤に気がついて、声を出していいんだと気がついて。そういう流れにうまく橋渡しできる終わり方にしよう、と思って書いていました。

村橋:
僕のなかで、第3・4回は1話完結の話にしたいとう気持ちはあったんです。だけどお涙頂戴というか、感動させておしまいという作りにはできなかった。正解はひとつじゃないし、みんながここで泣けるポイントなんてのもないし。話としては宙ぶらりんなところはあるけど、それでよかったと思います。そこが脚本に反映されているかもしれませんね。

原作の台詞がすごく良いけれど、生身の人間に言わせるとキツい。それをどうするか。(大池容子)

玉田:
キャラクターづくりは本当に悩みました。特に、原作のキャラクターはかなりデフォルメされているので、これを生身の人間がそのままやるとうまく合わなくなる

村橋:
原作を変えたり、崩したりするのって難しいですよね。でも原作の精神や魂みたいなものを実写で表現するためには、あえて崩したり、距離を取ったりしないといけない。

大池:
原作は台詞がすごく良いですよね。それだけ心に刺さってくるんですが、玉田さんの言うように、生身の人間に言わせると生々しすぎてキツいと感じるところもありました。絵の可愛さと、4コマだという部分で中和されているんですよね。

村橋:
お二人それぞれ、お気に入りのキャラクターっていますか?

玉田:
僕は大東駿介さんのマサムネが好きですね。第2回は大東さんの回だと思って、マサムネが仕切ってるシーンとか、死ぬシーンとか、自由に書きました。

村橋:
マサムネは玉田さんの脚本の個性が出ていますよね。

玉田:
クズ男やダメ男を書くのが好きなんですよ。それも明るいタイプのダメ人間(笑)。でも、Twitterの反響を見ていると、世間はクズ男に冷たかったですね(苦笑)。僕からすると、まだまだマイルドなクズさなんだけどなあ…。

村橋:
それでも、モブと国王よりは叩かれてないですよね。

玉田:
モブは最大の悪役です。叩かれて嫌われないと話が成立しない部分もあるので、そこは全然いいんですけど、あそこまでとは思いませんでした(苦笑)。

伝説のお母さん

大池:
でも、さっちゃんがタバコを誤って口に入れそうになるシーンは、実際に見ると強烈でしたよ(笑)。ネット上の反響の大きさにはびっくりしました。『モブ討伐!』みたいな雰囲気になって。

玉田:
みんな、モブに自分の歴史を重ね合わせる部分があるんですよね。それがないと、あそこまでは叩かれないと思います。

村橋:
モブを演じた玉置玲央さんは、第1回の反響を見て髪切ったそうですよ。同じ髪型では町を歩けないって!

玉田:
大池さんのお気に入りのキャラは?

大池:
みんな好きなんですが、王様の側にいる大臣たちが実は好きです。王様のテキトーな政策に振り回されてロクなことをしない人たちなんですが、3人でわちゃわちゃしてると可愛いなあって。ちょっとホッとする存在というか。

村橋:
シリアスなシーンでも、3人が登場するだけで空気を変えてくれますよね。

脚本を書いている時は、メイたちと一緒に悩んでいるような気持ちでした(大池容子)

村橋:
子育てドラマということで苦労したことはありますか?

玉田:
知らないことだらけだったので、普通に書いているつもりでも、お母さん視点で見るとおかしい、ということが色々ありましたね。上田明子プロデューサーが今まさに子育て中なので、色々とアドバイスをもらいました。

村橋:
たとえば?

玉田:
第3回冒頭でメイが『もう冒険やめたいです』と言うくだりを書いたんですけど、上田さんから『メイは単にわがままで「やめたい」と言ってる訳ではないはず。“今の状況では子育てで精一杯、周りに迷惑をかけられないから”やめたい、というニュアンスになるのでは』と言われたんですね。僕の書いた台詞はその視点が抜けていたんです。メイは子ども中心なんだな、この子を育てながらだと無理だと感じているんだな、というのを描いていなかった。

村橋:
僕も3人子どもがいますが、たしかに、子どもが出来ると生活の主体が変わるんですよね。たとえばタバコを吸えるレストランに行かなくなったりする。自分が主人公じゃなくなる瞬間というのが、子どもが産まれた瞬間に、本当に来る

玉田:
上田さんと話していて、ふつうに何気なく書いているシーンでも、これだとメイがお母さんとして落ち度があるように見えちゃうんだな、と気づかされることがありましたね。そういうところは『外的な要因があるんだ』とわかるように直していきました。

村橋:
上田も、原作者のかねもとさんも、そこは気にされていましたよね。メイ個人に落ち度があるわけじゃないんだから、そう見えたくはない。社会制度や“空気”の問題だと。さらに、これって、男の視点の裏返しでもありますからね。

伝説のお母さん

大池:
私の回でも、モブがさっちゃんのお世話をするシーンがあったんですが、そのト書きを『戸棚から何かをとって温める』とニュアンスだけでふんわり書いていたんです。すると上田さんから『冷凍庫から小分けにした離乳食のタッパーを出して温めることにしましょうか』と提案がありました。それから『こういう時ってどういう動作がありますか』と子育てのディテールを上田さんに質問するようにしたんです。そうすると書かれた言葉が地に足ついたものになっていったんです。

玉田:
自分の興味があるものを題材にしていると、具体的な言葉が自然と出てくるんですよね。ところが家事とか子育ては勝手が違うから、そういうのを普段やっている人たちから見ると、この台詞は具体性に欠けるね、となっちゃうんだろうなあと。今回はサラッと書けないシーンがたくさんありましたね。

大池:
私は上田さんと『このドラマをやっていて、子ども産むの怖いなって思われたりします?』って話になったことがありました。そんなことないですよ、と言えたらよかったんですけど…知れば知るほど、思った以上にしんどいことなんだなって。

村橋:
大丈夫ですよ、とはハッキリ言えなかった?

大池:
そうですね。まだ書いている途中だったというのもあって、書きながらメイたちと一緒に悩んでいるような感じでした。お母さんってこんな大変なんだ、ということが次々にのしかかってくるというか…。

村橋:
台本を書き終えて、心境の変化はありましたか?

大池:
いつか子どもを授かることがあっても、しんどいことばかりじゃない、っていうのもこの作品に関わって知ったので。最後まで書き切って、暗ーい気持ちにはなっていないから大丈夫ですよ(笑)。

村橋:
よかった!(笑)

玉田:
番組掲示板で、第1回のメイと井之脇さんのシーンが好評だったのがよかったです。みんなに届いているとわかったのは嬉しい。

伝説のお母さん

村橋:
メイが『社会に出たい』とはっきり声を上げるシーンですよね。僕の妻も専業主婦なんですけど、社会とコミットしていない恐怖感がすごくあるそうです。個性だとか、女性も活躍だとか囃されているのに、実際は子どもを産んだらそれが全部奪われる。そんな価値観のウソに翻弄されて、本当に辛いだろうなあと。

玉田:
ほかに、頼ってもいいんだと目が覚めました、という書き込みがありましたね。でもこれ、不思議ですよね。仕事だと、困ったら周りに助けを求めるじゃないですか。なのに、子育てになると、それが言えない。

村橋:
それが“母親の呪い”なのかもしれないですね。呪いと空気、やっぱり自分たちでかけているのかも…。

第6回はとうとうモブに焦点(玉田真也)、最後までキャラクターたちの成長見守って(大池容子)

村橋:
最後に、クライマックスに向けて、お二人から見た、見どころを聞かせてください。

伝説のお母さん

玉田:
第6回はとうとう、モブの視点でのお話になります。今まで悪役として描かれてきましたが、ようやく焦点があって、モブの考えを描きます。それが受け入れられればいいな、と思っています。ここでも嫌われたら、もう最終回まで嫌われ続けるんだろうなあ…(苦笑)。

村橋:
男も男なりに辛い、というのが描かれていますね。僕くらいの世代だと“会社にすべてを捧げろ”みたいな価値観で育ったのに、子どもをもったらイクメンだとか、子育てに参加しろとか言われている。この変化もまた辛いだろうなと。男も女も辛いからこそ、着地点を探せるんじゃないでしょうか。まあ、モブはそれでもクソなんですけど、クソはクソなりに話があるんだよということで(笑)。

玉田:
とはいえ、許せるようになるとは思えないんですけど、まあわかる、くらいにはなるかなと。第6回がうまくいかないと、大池さんが書かれた第7回をやる意味がなくなる(苦笑)。

大池:
最後までキャラクターたちは成長していくので、その変化を認めて見守っていただけたら嬉しいですね。みんなそれぞれに成長して、最終回(第8回)を迎えるので。

村橋:
ありがとうございました。お読みになっているみなさん、ぜひあと3回、続けて見てください!

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