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『暁のハルモニア』収録リポート 最終回

 青春アドベンチャー『暁のハルモニア』(連続10回)

 8月27日(月)~9月7日(金) 平日の午後9時15分~9時30分 NHK-FM

(ネット同時配信&「聴き逃し」配信あり ※翌日正午から一週間)

 

オーディオドラマ担当Fです。『暁のハルモニア』の放送も、残すところあと3回となりました。

 

音楽の日高哲英さんに続き、今回は作者の並木陽さんからメッセージをいただきました。ちょっと早めの「あとがき」として。もちろんドラマの結末には触れていませんので、ご安心下さいますよう。

 

【並木陽さんからのコメント】

近世ヨーロッパ。様々な価値観が変革するこの時代の放浪の学者を主人公に、物語を書いてみたいと長い間思っていました。

本作は混迷を極める「三十年戦争」期を舞台にしたお話ですが、私はこの物語を辛く悲愴なだけのものにしたくはありませんでした。いつか来る暁を信じる人たちの希望。友情や冒険。そういったものに彩られた、心躍る物語にしたかったのです。作曲家の日高哲英さんが、そんな私の気持ちをそのまま汲み取られたように素敵な音楽を作って下さいました。

キャストのみなさんに命を吹き込まれて、まるで生身の肉体を持ってそこにいるかのような、ヨアヒムやイザークを始めとする登場人物たち。もうお別れしなければならないと思うと寂しくてたまらない気持ちです。

彼らと旅したこの夏の日々がみなさまにとっても良い思い出となりますように。

 

並木さんの小説『斜陽の国のルスダン』オーディオドラマ化のご縁で、今回オリジナル脚本の執筆をお願いしました。去年の『~ルスダン』収録前後にお話をさせてもらい、ミュージカルなど演劇への造詣も深くていらっしゃるのがうかがえたこと、ヨーロッパ中世史の阿部謹也さんの著作やアーリー・モダン(初期近代)への関心を共有していたことから出発し、方向性を手繰りよせていきました。

 

占星術と天文学、錬金術と化学が渾然一体となっている中から、世界の見方を根底から変える、新たなる学問が勃興していく、いわゆる「科学革命」の時代。それが同時に、大いなる政治的、宗教的な混迷の時代でもあったという歴史。私たちが生きている現代の、科学文明と強大な国家の存在で成り立っている世界は、よきにつけ悪しきにつけ、この時代に基盤ができあがったと言ってよいでしょう。

 

ケプラー先生たちが生きた時代には非常に心惹かれます。たとえば英文学者の高山宏さんや占星術研究家の鏡リュウジさんの著作で、その複雑さ、豊かさ、面白さを垣間みることができます。近年の人文学によって初期近代の時代像そのものが、大きく相貌を変えつつあるようです。研究者のヒロ・ヒライさんによる最近の動向の紹介によって、決して単線的ではない歴史の推移が、さらに色鮮やかに見えてきそうで、これからも目が離せない分野です。

 

背景となる世界観の奥行きに加え、並木作品の大きな要素としてキャラクターの魅力が挙げられます。主なキャストの皆様への「当て書き」も相まって、実在人物のケプラー先生やヴァレンシュタイン、アマーリエ様、グスタフアドルフ王、オクセンシェルナ伯爵らと、架空のヨアヒム、イザーク、ガブリエラたちが躍動し、世界を生きたものとして感じさせてくれたと思います。企画の出発点では海宝直人さんのヨアヒムだけが念頭にあり、そのあと栗原英雄さん、鈴木壮麻さん、と続々とご参加が決まりました。いささか楽屋裏めいたお話になりますが、原作小説があるわけでもなく、まだ脚本もない段階でご出演を快諾して下さった皆様のおかげで「当て書き」が可能になりました。

 

脚本打合せの中で話題にのぼった小説に、辻邦生さんの『背教者ユリアヌス』がありました。歴史に材をとった構想の大きさ、鮮やかな人物造形、そして劇的な展開のリリシズムにおいて、並木さんの創作の源流のひとつとお見受けしました。同作が昔、NHKでラジオドラマ化されていたことを、今年8月に学習院大学で催されていた辻邦生さんの回顧展の年表で目にしました。また、作家の須賀しのぶさん(『帝冠の恋また、桜の国で』)も熱心な読者でいらしたことを、『背教者ユリアヌス』文庫新版の巻末エッセイで知りました。たまたまオーディオドラマ『帝冠の恋』の反響をネットで探している時に、並木さんの『斜陽の国のルスダン』の存在を知ったこともあり、勝手ながらご縁を感じています。

いよいよ『暁のハルモニア』最終章へ向かって佳境に入ってまいります。ヨアヒムの旅はどこへ向かうのか、イザークは、そしてアマーリエ様は、戦乱の世に何を見て何を想うのか……。ぜひ最後までおつきあい下さい。

それでは。収録リポートを、この言葉で閉じたいと思います。

“願わくは、天上に調和のあるがごとく、地上にもあらんことを”

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 「青春アドベンチャー」では、このあとも『カムパネルラ』『武揚伝』など、続々と新作をご用意しています。それぞれまったく異なる世界観の物語ではありますが、どこかつながるところがあると思っています。そして、今後もオリジナル脚本による「ここでしか聴けない」作品も企画制作してまいります。『暁のハルモニア』がお気に召した皆様とも、いつかまた他の世界でお目に(「お耳に」?)かかれれば嬉しいです。

 

投稿者:スタッフ | 投稿時間:01:38 | カテゴリ:オーディオドラマ

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