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NHK大阪放送局
ボーダーライン

スペシャルインタビュー

土曜ドラマ「ボーダーライン」では、脚本作りの段階から
消火隊、救助隊、救急隊など、時に、自らの危険と隣り合わせで
人々の命を救った消防士の方々を取材しました。

登場人物のモデルともなった、実在の消防士たちが、命の境界線に立った時、
何を思い、どう行動したのか…

Vol.2INTERVIEW WITH

VOL.5

大阪市消防局 救急部 救急課 担当係長(予防救急)消防司令

金井彩子(かないさいこ)さん

1973年生。天王寺消防署、城東消防署で予防業務を担当。総務部総務課(広報)、中央消防署を経て、総務部総務課(庶務)在任中には2年間総務省消防庁へ出向。緊急消防援助隊のヘリや車両などに関する業務を担当した。3年前、大阪で最多の救急出場がある西成消防署救急隊長として4隊17人の部下を統括し、日々十数件もの出場要請に対応した。現在は、救急部救急課の担当係長として、救急現場での経験を生かし啓発活動に携わる。

救急車が出場する前に…

現在、私の仕事の1つに「予防救急」というものがあります。みなさん馴染みがない言葉かも知れません。簡単に申し上げると、「救急車を必要とすることがないように、少しの注意や心がけで怪我や病気を未然に防ごう!」という取り組みです。 年間22万件ほどの大阪市の救急出場の中には、普段安全だと感じている家庭内での事故が結構含まれているんです。年間を通じて多いのは、家の中での転倒や転落です。段差や電気コードでつまづく、階段や踏み台から転倒するといったものから、和室にあるベッドに靴下を履いたまま寝ている方がいて、起き上がろうとした時に、足を畳の目に滑らせて転倒して骨折といった現場もありました。
また、浴室で足を滑らせて大きな怪我に繋がったり、浴室の急激な温度変化によってヒートショックを起こし、入浴中に亡くなられる方もいらっしゃいます。
こういった事故の原因を調べると、見えてくることがあります。「そこに足を滑らせるものがあったから」「“自分では大丈夫なつもり”という何気ない行動」・・・これらには、ちょっとした心がけや注意を向けることで、怪我や病気を防げるということが分かります。私たちは過去の現場経験を、各年齢層や季節ごとに分析して、より具体的な注意喚起すべき事項を抽出し、ホームページや消防イベントを通じ、市民のみなさんに発信しています。

“知ること”で救える命がある

「予防救急」とともに力を入れているのは「応急手当」の普及活動です。よく聞く心肺蘇生法やAEDの使い方などです。事業所や学校での講習会やイベントで、実際に体験してもらっています。“一度でも触ってみる”という経験が、いざという時、“かなりの差”になるということを現場で感じたからです。
私たちでさえも、目の前で人が倒れたら焦ります。まして市民のみなさんが行動に移るには、かなりの勇気がいりますよね。その時、“実際に体験して知っている”かどうかが、一歩前へ踏み出せるのかのボーダーラインになるんです。実際、身内が倒れ、何も出来ずに、私たちが到着した時には、お亡くなりになってしまったのを目にしてきました。ご家族はそんな時、“何も出来なかった”と、すごく悔やまれるんですよね。そうした思いを減らすために、まずは“知ること”のお手伝いをしています。

命のボーダーラインを“生の方向”に引き寄せる

私自身、“知ること”の大切さを実感した話があります。ある介護相談事務所から、「相談に来られていた60歳ぐらいの男性が急に倒れた」との通報を受けました。急性心筋梗塞だったのですが、私たちが駆けつけたときには、事務所のスタッフの男性が、既に胸骨圧迫(心臓マッサージ)をされていました。その後、私たちが電気ショックを実施し処置をつづけると、その男性の心拍が再開したんです。
そのとき、「良かったねー!良かったねー!」と、一緒に喜んだときに見えたスタッフの男性の笑顔が、「なんて美しいのだろう!」と思った事を覚えています。さらに、その直後「ちょうど一週間前に救命講習に行ったんです」「良かったー! 怖かったけど良かったー!」っておっしゃったんです。確かに怖かったと思います。でも、救命講習で教わった通りに勇気を持って処置された事で、一人の命が救われたのです。
実は、救急隊が着いた頃には“手遅れ”ということも沢山あって、命を救えることってやっぱりすごいことなんです。救急現場に居合わせた人を「バイスタンダー」と呼ぶんですが、その方がすぐに心肺蘇生法を行うと、患者さんの助かる確率は約2倍になるんです。分刻みで命が助かる可能性は下がってしまうので、「バイスタンダー」が処置を行えることが、命のボーダーラインを“生の方向”へ引き寄せる強い力になるんです。

気持ちは完全に“お母ちゃん”

私は、西成消防署で2年間、救急隊長を務めました。西成署には出張所が2つあって、4台の救急車があり、心から支えてくれた17人の部下がいました。時にはご飯も食べられない忙しい毎日を送っていたのですが、その中で、隊長として幸せだったのは、彼らがいつも飛び切りの笑顔を見せてくれる瞬間でした。きつい現場が続いても、いつもその笑顔を引き出すために、彼らといっぱい話をしたり、ご飯を作りながらちょっとしたいたずらをしたり・・・いろいろやりました(笑)。そんな中で自然に隊員たちとの絆が深まっていった気がします。ドラマの中で明が、消防署の雰囲気を鬱陶しがるシーンがありましたけど、確かにそう言われても仕方ないかもしれませんね。それくらい“ねっとり”と付き合うんです(笑)。
どの消防署でもそうですが、絶対に1人では仕事ができないので、そういった絆があると、現場で何も言わなくても目と目で確認がとれたり、次にやることがお互いに分かる。一分一秒を争う救急の現場にはとても大切な事なんです。
でも、隊員のみんなが愛おしくて仕方がなかったですね。気持ち的には完全に“お母ちゃん”ですよ(笑)。

救急車は“いろいろな命”を乗せて走っている

若い女性から、「マンションの部屋で友人の赤ちゃんが産まれてしまった」という通報がありました。現場まで行くと、マンションの外にまで赤ちゃんの泣声が聞こえていました。お宅に入ると、お母さんがうずくまっていて、手元を見たら、そこから産声が上がっていたんです。産み落としたままの状態で、お母さんも放心状態でした。赤ちゃんの体を暖めて拭いてあげて処置をするんですが、突然の出来事に驚きと不安があるからでしょう、お母さんは呆然として、表情が一切変わらないんですよ。
私は赤ちゃんを抱きかかえた時、温もりと泣き声にしっかりと“命”を感じたんです。とっさにお母さんの手を握って「お母さん!お母さん!」って呼びました。すると、「ハッ!」と顔を上げられたので「しっかり!あなた、お母さんよ!」って叫ぶと、スイッチが入ったように、生気を取り戻してくれたんですよ。二人を病院に搬送しましたが、その後、健やかに過ごされていると聞き、ほっとしました。
それまで、怪我や病気の方々と向き合ってきた私にとって、命が生まれる現場というのはすごく感動的でしたし、今でも心に深く残っている出来事です。“救急車は、いろんな命を乗せて走っている”と改めて思います。私たちは、その人の人生や周りの人の人生を左右する場面に関わらせていただいているんです。だからこそ、人の命はもちろん、その人の夢まで掬いとって繋げていくのが私たちの仕事だと思っています。

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